エルフとの交流

 翌日、結界に引っかかった異物が検出された、たぶん小型の魔物くらいだろう。この辺で強敵がいるとは聞いたことがない。


 俺からすればタダの雑魚なので放置しておいても俺自身には問題ないのだが、一応、通りがかったやつに危害があるかも知れないので排除しておくか……


 一般人ならそんなものも無視できるんだがな……どうにも勇者だったころのクセが抜けない、職業病ってやつだろうか。


 森の奥の方に異物があるのでそちらへ向かって進んでいった。一時間ほど歩いていったところにそれはおり、キラースネークが一匹、結界に引っかかって気絶していた。そちらへのとどめは簡単だ。


 俺はプスリと、そこそこの大きさの蛇の頭にナイフを突き立てて息の根を止める。さて、ここで目に見えている魔物よりよほど厄介な問題に関わらなければならない。


 。死んではいないようなので助けないわけにもいかないだろう。少なくとも、行き倒れの少女を放っておいて先に進めるほど俺は冷酷になれなかった。


 勇者だったころはそういう場面に幾度となくぶつかった。ときには泣く泣く切り捨てて進んだ仲間もいた。だが、もう魔王はいない、犠牲を払って倒すような敵はいない以上助けても問題ないだろう。


 鑑定スキルを使うと『エルフ、空腹により気絶』と出てきた。ただの空腹か……


 収納魔法から干し芋と水をとりだし少女の口に押し込む。もう少し上手いやり方があるのだろうが、あいにくそんな悠長な方法は教えて貰ったことがない。


「食え、死ぬぞ」


 そう言って口に押し込む。ようやく気が付いたエルフの少女は目を白黒させながら俺から離れようとする。口に突っ込んだ食料を吐き出されても困るので頭を押さえて口を塞いで無理矢理食べさせた。


「ゲホッ……あなたは一体……と言うか私は何故倒れて……」


「ただ行き倒れてただけだよ。良かったな、俺がいなかったら今頃コイツの腹の中だぞ」


 俺はキラースネークを指さして言う。さあっと顔を青白くして怯えるエルフ。


「とりあえず自己紹介をしようか? 名前がないと不便だからな。俺はロード、旅人だ」


 少しポカンとしてから少女も自己紹介をした。


「私はエカテリーナ。エルフです」


「エルフが森で遭難か、大変そうだな」


 恥ずかしそうにしてうつむくエカテリーナ。エルフは森に住んでいるのだから、森はホームだ。そこで行き倒れるなど恥ずかしいのだろう。


「私は……まだ子どもだからいいんです!」


 強がるエカテリーナ。俺としては助かったなら問題ないのだが、このまま置いて行ったらまた倒れかねない。


『エンチャント ホーリーシグナル』


 俺は適当に持ち出していた指輪の一つに魔物よけの魔法をエンチャントして渡す。


「ほら、コレを持っていれば魔物は寄ってこない。俺はエルフと関わりたくないんで自分で帰ってくれ。魔物がいなければなんとかなるだろ? ああ、食料も要るな」


 俺は干し芋をいくつか出して袋に詰めて渡す。エルフでも芋は食べられるはずだ。


 魔王がいたころはエルフですら肉を食べるのを我慢できるほど食料が豊かではなかった。今はそんなこともないので干し肉は要らないだろう。


「じゃあな、俺は行くよ」


 俺は森を突っ切る方向に歩いていく。後ろの方から遅れて『ありがとうございます!』と聞こえたので昔の後ろめたさが少しだけ薄れ、気分が少し軽くなった。

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