魔王討伐後の勇者旅行記

スカイレイク

勇者という称号からの逃避行

魔王は倒した

 俺が魔王を倒して一年、大変な歓待を受けて生活に困ってはいなかった。


「あー……暇だ暇だ」


 俺は勇者と祭り上げられ楽しい楽しい生活を送っていた。しかしその生活にも三ヶ月もすれば飽きてしまった。魔王を倒したときの達成感もすっかり忘れ、俺は怠惰な生活を送っていた。


「ロード様、お出かけですか?」


 執事のセバスチャンがそんなことを聞いてくる。出かけるのは見ればわかるだろうし、いちいちそんな質問をしないで欲しい。


 幸い顔は割れていないのでお供をゾロゾロ引き連れて出歩きでもしなければ、俺が勇者であることは他の人にはわからない。だから一人で出てきている……だというのに。


 俺は裏通りへの曲がり角に入って気配を消す、すぐにエーミーとナナが駆け足で入ってくる。


「あのさあ、二人ともバレバレの護衛はやめてくれないかな?」


 俺は二人に文句を言う。せめて俺に気づかれない程度には護衛するなら気を使って欲しいものだ。


「しかし……勇者様に何かあれば大問題に……」


「大丈夫だって、魔王も倒して後は魔族の残党がいるくらいだろ? 俺がそんな連中に負けないのは知ってるだろうが……」


「もしものことがあるかも知れませんし……」


「そんなことがあったら俺に気づかれるような護衛じゃ対処できないよ」


 少し厳しいことを言う。俺が現在のところ世界最強なので負けようが無い、逆に俺が負けるようなら護衛が勝てるはずもない。


「屋敷にお戻りいただけませんか? 我々も勇者様の身を守らねばなりませんので……」


 どうやら不用意に出歩くなと言うことらしい。この生活は窮屈でしょうがない。なんなら魔王を倒さなかった方が自由な生活をできたと後悔するくらいだ。


 屋敷に帰還すれば接待が始まる。今日は王族の一人の大公様が勇者様に会いたいと王に願い出て『構わぬ』などと気軽に俺の居場所を教えたので俺が大公様の相手をする羽目になった。


「しかしロード殿はお強いそうですな、魔王ですら手も足も出なかったとか。いやあ我が国からそのような人材を出したのは名誉なことですな」


 むさいおっさんの相手は疲れる。さっき文句を言ったエーミーとナナの相手をするよりも疲れる。ごきげんを損ねるとそれなりに面倒なことになるからだ。


 そんなことが続き、ある日俺の心の中で細い糸のような者がプツンと切れた。


『旅に出ます、探さないでください』


 そう書き残して路銀を収納魔法で詰め込めるだけ詰め込んで深夜に気配遮断スキルを使ってこそこそと家を出て行った。一応俺の世話を焼いている奴らのせいではないと、あいつらの生活に影響が出ないよう弁解する文を書いておいて闇夜の中に出ていった。

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