第004話
気付いたら朝だった。
母親と父親は既に畑に出ているみたいだ。というか、俺も畑に居た。寝てる間に籠に入れられて、畑の脇に連れて来られたらしい。
丁度いい。せっかくなので周囲の様子を観察してみるか。
俺が入ってる籠は、少し大きめの木の根元に置かれている。周囲は何種類かの野菜が植えられた畑らしい。
気温は朝だというのに、少し暑いくらいだ。そういえば、昨日も昼間は暑かった。畑の野菜が青々と茂っているのを見るに、季節的には初夏というところかな? 日本的な気候だとすれば、だけど。
太陽の位置はまだそんなに高くないので、太陽のある方角を仮に東としておこう。
魔法があることも分かったし、ここは異世界で間違いないだろう。異世界なら、太陽が東以外から昇ってもおかしくはない。だから仮に東としておく。
その東の遠くにあるのは山脈か。百キロは軽く離れてそうだな。そこまでの間には、特に障害物は見えない。
山脈は南北に伸びているけど、北の方は遠く霞んで果てが見えない。南の方は途中で西に折れ曲がっていて、そのままずっと西に向かって伸びている。つまり、南側も山脈だ。こちらはそこそこ近い。といっても、五十キロくらいはあるかな?
標高はかなり高そうだ。この暑さだというのに、山頂から三分の二くらいまでが雪を被って白くなっている。五千メートルくらいあるんじゃなかろうか? 富士山より高い気がする。
山裾からは森になっているみたいで、俺のいる畑の、ほんの一〜二キロ先くらいまで続いている。今居る畑の東側と西側には木が見えないから、山脈に沿うように森が出来ているんだろう。結構な規模だな。樹海と言ってもいい広さだ。
北側は、丁度木の根元が邪魔になっていて見えない。かろうじて見える北東方向には家が数件建っている。あそこが村の居住区って事だろう。規模は小さい。
村から今居る畑まで、ぐるりと木の柵で囲われている。昨日も言ってた魔物対策なんだろうな。
畑の作物は、正直よく分からない。
前世は農家じゃなかったし、飯は外食かコンビニ弁当だったから、生えている野菜の種類なんてほとんど分からない。
東のほうに植わってるのは麦っぽい何か、南側は一面蔓が伸びてる。芋かな? それともカボチャ?
西側にも色々雑多なものが植わってるみたいだけど、分かるのはトウモロコシっぽいものくらいだ。
うちの両親は、南側の蔓畑の中に居る。腰に桶を括り付けて、柄杓でその中のものを撒いてる。水やりみたいだ。畑にはうちの両親だけじゃなくて、同じように作業してる人が何人かいる。
畑は結構広い。全部うちの畑というわけじゃないだろう。そういえば昨日『旦那様』と言ってたから、うちは小作人なのかもしれない。
小作の農家から独り立ちするのは、結構大変かもしれないな。資金を貯める方法を考えないといけないかも。魔法でなんとかなるかな?
朝の一仕事が終わったようで、両親がこちらへやってくる。
「だば、おらぁ片してから帰ぇるだで、おめは坊と先帰ぇってろ」
……イケメンなのに、とても残念な感じだ。声も渋いのに。
「したら、朝飯作ってっで。あんれ、坊、起きとっただか」
おはよう母ちゃん、ついでに父ちゃん。
「
そういえば結構な空腹感だ。まぁ、まだちょっとくらいなら耐えられるけど。
「おお、今、坊、頷いたじゃなかか? おらたちの言ってること解るみてぇだな」
ぎくっ! やばっ、気付かれた!?
「ははは、何言ってんだぁ、あんた。そりゃ親の欲目だよぉ」
あ、笑ってるけど、母親もまんざらでもなさそうな顔をしている。
「だども、もし賢い子だったら、大きくなったら魔法使い様になれっかもしれんべさ」
おお、やっぱ魔法使いがいるのか。しかも、この口ぶりだと結構上流階級か?
「ははは、それこそ欲目だぁ。貴族様でも魔法使いになれんのは五人にひとりって話だべ?」
ほほう、貴族がいるのか。ということは封建社会で王国制かもしれないな。しかも、その貴族ですら、なかなかなれない魔法使い。
しかし俺は既に魔法使いだ! 三十歳どころか、生後三週間を待たずして!
「んだな、おら達『農奴』の子が魔法使いになれる訳ねぇべ」
……は? 農奴?
……農奴おぉぉっ!? まさかの奴隷スタートおぉっ!?
◇
……はっ、いかん、意識が飛んでたみたいだ。いつの間にかベッドまで戻されている。
授乳も終わってるみたいで、腹は満腹だ。意識が無くてもちゃんと飲むもの飲んでるあたり、赤ちゃんの本能って逞しい。
母親は既に畑仕事に戻ったようで、家の中に人の気配はない。
しかし、まさかの奴隷スタートか。実はハードモードだった? 魔法がサクッと使えたあたりで、若干イージーモードなんじゃないかと思ってたんだけど、そこまで甘くは無かったみたいだな。ちょっと責任者出て来て説明しなさいと言いたい。
そういえば、転生ものラノベに付きものの神or女神様ってのは出て来てないな? 依頼だとか使命だとか、そういったお約束に関して全く記憶が無い。もしかしたら覚えてないだけかもしれないけど、それだと依頼や使命の意味がないしな。もちろんチートについても記憶に無い。時が来たら思い出したりするのか?
おっと、そうだ、あれを試してみよう。
「(ステータスオープン!)」
……何も出ないか。
「(ウィンドウオープン! ステータスウィンドウオープン! ステータスカード! ……!……!……)」
はい、何も出てきませんでした。
何かチート的なものがあるなら、この辺の定番は押さえてると思ったんだけどな。
アイテムボックスやストレージ的なものも試したけど何も起こらなかった。鑑定もできなかった。声に出さないとダメってことも考えられるから、喋れるようになったらまた試してみよう。
しかしこの状況からすると、チートらしいチートは無い可能性が高いな。
いや、前世の記憶と魔法っていうのはチートかもしれないけど。出来るなら、これを使って奴隷からの脱却を図りたいところだな。
貴族と奴隷ってことは、身分制度があるってことだ。
こういうものは一見強固に見えるけど、実は結構抜け道があったりするものだ。例えば貴族が没落して借金こさえて奴隷落ちとか、貴族に養子入りして爵位継いだりとか。
奴隷から成り上がるってのは中々ハードかもしれないけど、魔法と前世の記憶を駆使すればなんとかなるかもしれない。前向きに考えていこう。先ずは、目指せ平民!
そうと決まれば、今後のプランを考えねば。乳児からの将来設計! 小さな事からコツコツと!
魔法のことは両親にも伏せておこう。奴隷で魔法が使えるとなると、こき使われて使い潰されるかもしれない。前世の二の舞は御免だ。まぁ、あの両親ならその心配はなさそうだけど。
かといって、ずっと封印し続けるのも馬鹿馬鹿しい。こういうものは、使えば使うほど練度が上がっていくと相場が決まっている。というわけで隠れて鍛えることにしよう。
前世の記憶のことも隠し通す。
村はそれ程大きくないようだし、総じて小さなコミュニティというものは排他的だ。周囲と大きく異なる存在は、多くの場合で迫害される。それが『得体が知れない』という、曖昧なものであるほど不安を煽り、迫害に拍車が掛かることになる。
せいぜい子供らしさをアピールするとしよう。保身のために。
その上で、とにかく情報を集める。
如何せん、今はあまりにも情報が不足している。まさに『右も左も分からない』という状態だ。
五年くらいかければ、それ以降の方針を決められるだけの情報を集められるだろう。五年以降のことはその時に決める。必要に迫られたらその限りではないけど。とりあえずの五か年計画というわけだ。
大まかにはこんな感じか。ザルもいいところな気もするけど、その場その場で修正していけばいいだろう。臨機応変。良い言葉だ。行きあたりばったりと言ってはいけない。
前世では社畜として生涯を閉じてしまったけど、今世ではその轍は踏まない。
誰にも強要されない力をつけて自由気ままに生きてやる! ここから始まる俺の伝説!
あれ? そういえば俺の名前、なんていうの?
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