第13話 皇子、攫われる

「ど、どうした城崎?」


「早く帰ろうぜ、早く!(♪♪♪)」


「なんで走るんだっ」


「いいから早く(♪♪♪♡)」



今朝学校に来る時はニコニコしてた城崎なのに校門を過ぎると急に素っ気なくなった。

俺、何かしたのか?

訳が分からないまま授業になってしまった。


〝 ブー・・・ブー・・・ 〟


HRの最中に、LINEだ。城崎・・・。


〝 放課後 生徒会終わったら教室 〟


登校中、俺は昨日城崎の部屋から運び出した荷物を返す約束をしていた。


「荷物を取りに来るって言っていたもんな」


今日から午後の授業はない。

試験前だから執行部会もしばらくは休みだ。

もうすぐ試験なのに、集中しなくちゃいけないのに、せっかく城崎と話が出来るようになったのに ────。


俺にこれっぽっちの関心もなさそうなあいつの態度を見ていたら。

荷物を返してしまったら、元の苦手同士に戻りそうだ。

全然、気がすすまない。


気乗りしないまま教室へ向かったけれど、教室の中から聞こえてくる城崎と数人の女子の話す声に、俺の眉間には力が入る。


このまま一人で帰ろうかと戸惑っていたら、突然廊下に飛び出してきた城崎にさらわれた。


校門を抜けてどんどん走る。

城崎は笑いながら走っている。

何だよ!今日一日中、俺を無視してきたくせになんでお前だけそんなに楽しそうなんだよ!


それに待て、頼むから待ってくれ。

お前ほど体力がないんだ俺は!



「 ─── これ、柚木」


荒い息のまま昨日の公園のベンチにへたりこむ俺の首筋に冷たい感触。


見上げるとあれだけ走ったのに全く息を乱していないこいつからペットボトルを受けとる。


冷たい水が喉を通って俺はようやく落ち着いた。


そして落ち着けば、教室で城崎と女の子と喋っていた時に感じたあの不可解な感情がぶりかえしてくる。


〝 遊びに行こうよ 〟

〝 新の部屋に行きたぁい! 〟


言わなくてもいいことを、口をつきそうなのをグッと堪える。

俺の悶々を破ったのは城崎の呑気な声。



「なぁ柚木」


「な、んだ」


「お前んちいいよな。都さん料理うまいし風呂は広いし」


「・・・そうかな、古いだけの家だけど」


「兄さんがいるんだよな?兄貴って憧れるよな」


「そうかな。年が離れてるから一緒に遊んだ記憶もないけど」



そういうと柚木は再びペットボトルに唇を押し当てる。

目を閉じて水を飲み干すとき喉が動いて首筋の汗が光って落ちる。

俺は思わず見いってしまう。


柚木が暑そうにシャツのネクタイを緩めて第一ボタンを外したとき、今朝この胸元に飛び込んだときのことを思い出した。


すべすべの温かい肌に全身で抱きついて、そのままするすると腹のほうまで滑りおりて・・・・・・。


ちょっと待て待て!

俺、おかしい?絶対おかしい。。

本格的にどうしちまったんだよ。



頭を抱える城崎。

一体どうしたんだろう、さっきまでの元気が萎んでしまってる。

また不機嫌なあいつに戻るのかもしれない、

やっぱり俺といるのが嫌なのか ──。


── そうだよな、女の子たちといる方が楽しいに決まってる。


今まで散々、城崎に対抗するような態度ばかりとってきていたことを俺は後悔しはじめていた。


「・・・・・・ ごめん」

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