第11話 再び目眩

午前7時15分。


柚木は制服に着替え、ミニサイズの服はこれしかない俺も制服のシャツとズボンに着替えた。


濡れタオル持ってくるから待ってろと言い柚木が部屋を出て行く。

一人ぽっちになった俺は広い和室に勉強机とベッド、本棚とタンスの置かれた柚木の部屋をぐるりと見回した。


広い庭が窓から見える。

外は夏の日差しがギラギラと照っている。


窓の外で蝉が徐々に鳴き始めた。

昨日の夕方もひぐらしの声を聞いていたんだ。

蝉 ─── 蝉の声


途端に気分が悪くなる。

教室で倒れたときのような目眩めまいが襲ってきて天井がまわりだした。

俺は思わずその場にうずくまった。



コンコン・・・

自分の部屋に入るのにノックをするのってはじめてだ。当たり前か。


濡れたタオルと城崎が一人で過ごす間の水分補給にスポーツドリンクと簡単に食べられそうなものを台所からこっそり拝借して部屋に戻る。


あいつは・・・・・・あれ、いない。


「おい城崎どこ ───?!・・・っ・・・きざきっ!!」


城崎は元の姿サイズで部屋の隅に蹲っていた。

俺は驚きすぎて声が喉で固まって詰まった。


「ゆ、ずき・・・また急に頭がボーッとして、、俺・・・」


「城崎っっ、お前元に戻ってるぞっ」


「え・・・えっ??マジか、えっ?戻れた!?」


「元通りだっ、良かったな 城崎っ」


思わず抱き合った、本当に嬉しくて。

柚木の髪が頬に触れて、しなやかな腕が背中に回されて俺も思い切り抱き締めてしまった。


「はっっ、こんなことしてる場合じゃない、学校にいかないと!」


さすがに玄関から出て行く訳にはいかないから。

俺たちはカバンを抱え、柚木の部屋の窓から靴を投げ落として外に飛び降りた。


家の人に気づかれないように庭を抜け、門を潜り二人で表に走り出した。

踊るように、跳ねるように。


大笑いしながら、昨日まで顔を合わせれば睨み合っていた二人が唯一無二の親友のように。

肩を組み、もつれ合うようにして走った。


蝉が俺たち二人を追いかけるように一斉に鳴き出した。

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