第四話 藍悠と紅壮は見ていた
「あれって……もしかして、花音?」
泰平門の二階で、
「藍悠様、危ないのでお下がりになってください」
静かに言ったのは、武官とは違う、一風変わった黒装束に身を包んだ短髪長身の偉丈夫だ。
その隣の貴人は偉丈夫の言葉など耳に入ってない様子で、さらに身を乘りだして広場のある一点を凝視する。
「あれ……花音、だよね。
藍錦の袍の貴人――龍昇国龍帝家第一皇子・
隣の偉丈夫、飛燕は、鋭い黒瞳を細め、泰平門前広場で禁軍十五衛の兵士に抱きしめられて――というより抱き
「いえ、あれは、白司書に間違いないかと」
飛燕が言った途端、手すりが硬く鋭い音を立てた。
「なんなんだあの男は……!許さん!!」
藍悠の意外と逞しい手が、手すりを壊さんばかりに握りしめた。
◇
「
呟いたのは、動きやすい月白の深衣の上に柳色の上衣、黒い幞頭姿の青年。
一見、宦官に見える青年の顔は、見る者を惹きつけずにはいられない端麗な顔立ちに、紫水晶のような双眸をしている。
その双眸が極限まで細められた。
「だって、あれが花音に見えるんだからな」
お忍びで皇城へやってきた帰り道。泰平門前広場で、禁軍十五衛の兵士に抱きしめられている女官を発見したのだが――あれが花音であるはずがない。
「ていうか、あの兵士は禁軍十五衛の衛兵じゃないか。皇城と後宮の治安を預かる十五衛の衛兵があんなところで白昼堂々、女官といちゃついてるってどうなんだ。誰か注意しろよ」
「お言葉ですが、紅壮様」
宦官風美青年の
美女は刈りこんだ短髪に一風変わった黒装束に身を包んでいるが、その妖艶かつ豊満な身体の美曲線により、一目で女性だとわかる。
「紅壮様は確かに、近頃帝王学に力を入れられ、よく書物をお読みになっておりますので、多少視力に影響はあるかもしれません。ですが仰せの通り、あれなる女官は白司書に間違いないかと」
一拍の沈黙の後。
「……許さん」
怒気を放った宦官風美青年――龍昇国龍帝家第二皇子・龍紅壮が行こうとするのを、柊が止めた。
「なりません、紅壮様」
「うるさいっ、あれが許せるか?! あの男、誰の許可を得て花音に触れているんだ!!」
「紅壮様、落ち着かれませ。よくご覧ください。あれは――親愛の
「なに?!」
よくよく見れば、大柄の兵士と花音は何やら言い合って笑っている。
「白司書のお知り合いなのでは?」
柊の言葉に、紅壮は行きかけた足を止める。
どうやら、いちゃついているわけではないらしい。しかし。
「……気に入らねえ」
紅壮は超絶不機嫌な顔で踵を返した。
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