第十話 確信犯

PV7000記念

一旦本編更新です。

――――――

 話し疲れたというのもあるが、割とダメージがでかい話をしたから、しばらく項垂れた姿勢のまま動く気にならない。

 一分か二分か、あるいはそれ以上かは分からないが、微動だにしない俺への心配するような視線を頭越しに感じる。

 そんな中、俺に近づいてきた誰かが肩をポンポンと叩く。

 俺がそれに反応しないでいると、俺の手を開かせてくる。

 その後、俺の手の中に何か細長いものを渡してきた。

 握りしめてみると、紐みたいだと感じる。

 まさか……と疑念が生まれる。

 その予感に急き立てられるように顔を上げて、手の中のものを見る。

 すると、そこにあったのは案の定、リードだった。

 俺にこれを渡した後、隣に立ったままの六華を見る。

 彼女は俺と目が合うと、にっこりと笑った。

 ……にへらの間違いだったかもしれない。

 俺はイラっと来たので、リードを首輪チョーカーから素早く外して没収する。


「これは一旦預かっておく」


 鞄にリードをしまい込まれたのを見た彼女は愕然とした表情を浮かべる。


「そんな……」


 何でそんな顔になるのか全く理解できない。

 まさか、俺のことをワンちゃんプレイで喜ぶ人間だと思っているとは考えたくない。

 そしてやれやれと言わんばかりに首を振りながら六華を眺めている馬鹿ども。

 その服をずらし始めている手は何だ。

 このまま放置していると、全員が痴女と化しかねない。

 痴女であることに間違いはないと思うが、こいつらの位置的に俺がやらせたみたいに見えそうだ。

 それは非常にまずい。


 俺は机を叩いて立ち上がる。

 焦りからか力が籠り過ぎてしまい、バンッという大きな音が食堂に鳴り響く。

 彼女らの動きが止まった。数也も驚きながら俺を見つめる。

 食堂にいた他の生徒も、流石に音が大きすぎたのか俺の方に注目する。

 その視線の真ん中にいる俺はというと―――自分が出した音の大きさに驚いて、硬直していた。

 が、それも一瞬の事。すぐに動き出そうとして……よくよく考えると、立ち上がってから何をするか考えていなかったことに気付く。

 しかし動き出してしまったものはどうしようもない。

 仕方なく、唯一席から立ち上がるだけで、俺のそばに近寄ってこなかった五葵の方に顔を向ける。


 果たして何をしていたのか……。

 元カノ共は俺の関することには軽い狂気を感じるほどの執着を感じるので、珍しい行動に興味が惹かれる。

 少なくとも五葵はこういう時に真っ先に行動するタイプだと思っていたので、なおさらだ。

 そんな思いを抱きながら五葵を見ると……恐る恐る玩具を抜いている姿が見えた。

 ゆっくり抜いているせいか、手に力が籠ってプルプルしている。

 だらだらと汁が足を伝って下に垂れているのが見えるので、恐らく達してしまわないように出来るだけ刺激を減らすように抜いているのだろう。

 だが、ここで問題が起こった。

 そんな作業中に何を血迷ったのか、五葵が顔を上げたのだ。


 俺と五葵の目が合う。

 一秒…二秒…三秒…五葵の顔がボッという音がなりそうな勢いで赤くなった。

 俺は普通に気付いていたが、五葵的には玩具で自家発電しているのはバレていないつもりだったのだろう。

 そして焦った五葵は手に込める力を間違えてしまい……半分出てるか出てないか位の玩具の残り半分が一気に引き抜かれた。

 中から出てきたものはなかなかに凶悪なサイズだった。

 五葵はいきなりやってきた衝撃に声を漏らし、ビクッとなった。

 その股から大量の液体が発射される。

 そして、一気に弛緩したようにべちゃりと座り込む。

 短パンがぐっしょぐしょになり、肌に張り付いてしまっているのを見て、あちゃーと天を仰ぐ。

 

 六華もかなり服が汚れているし、どうしたものか……。

 と、ここで一夏達に貸した着替えのことを思い出す。


「俺が貸した服ってさ、どうなってる? 一夏と二愛が持ってるのか?」

「シャツは私が持ってるよ」

「ズボンは私が持ってます」

「ウチは洗って持ってきたよ~」


 どうして一夏と二愛が別々に俺の着替えを持っているんだ? とは聞かないほうがいいのだろうか。

 なんとなく答えが予想できるので、藪蛇になりそうだ。


「よし。じゃあ、俺と一緒に部室に――いや、女同士の方が都合がいいか?」

「いやいやいやいや! 零夜が来てくれた方が助かるって!」

「……そうか。なら、俺も行くか」


 用務員さんに『お前、ふざけんなよ!』という顔を頂戴してから、部室へ向かう。

 俺の感覚が麻痺してきたのか、昨日よりも視線を感じないような気がする。

 一夏達がちょっかいを掛けてくるのを適当にあしらいながら歩き続け、部室の前に着いた。

 

「じゃ、零夜はここで待ってて!」

「覗いちゃだめですよ?」

「絶対だからね!」

 

 五葵と六華の背を押しながら部室の中に入っていく三人の言葉に、これは覗けという事だろうか? とダチョウ倶楽部のような感想を抱く。

 とはいえ、別に覗きたいわけでもないので素直に従う。


 それからネットニュースを見たり、ゲームをしたりして30分ほど時間を潰しているが、一向に誰も出てこないことを不審に思って、声をかける。


「どうした? 結構時間かかってるけど、何かトラブルでも起きたか?」


 扉がガタッとなって、若干服が乱れた一夏が俺の目から部屋の中を隠すように出てくる。

 中を確認しようかとも思ったが、もしかすると着替えているのかもしれないし、やめておく。


「な、なに!? 女の子はいろいろ準備があるんだけど!?」


 焦ったようにそう捲し立てた一夏は、すぐに部室の中に戻ってしまった。

 そこから一分ほどで全員出てきたところから、きっと誰も着替えていなかった。

 全員が暑そうに服をパタパタさせているところから、なんとなく何をやってたか察しが付くが、聞いても誰も幸せにならなさそうなので聞かないでおこう。


 俺以外、何か予定があったみたいだったので、誰にも絡まれることなく帰ることができた。

 ただ、やけにすんなりと帰してくれたのが気になる。

 誰か一人くらいはごねそうなものだが……。

 ま、講義の時間が迫ってたとかだろうと結論付けて、家路につく。

 


 家に帰った後、レポートもないし、バイトの予定も特に入っていないので、ゲームでもしながら自堕落に過ごすかと思い、スマホを持ってソファにゴロンと寝転がったときだった。

 部長からRINEが来た。


 一ノ瀬:後輩君。ちょっと手伝ってくれないかね?

 

 神崎:どうしたんですか? また部屋、散らかしちゃったんですか?


 一ノ瀬:そうじゃない!


 神崎:なら、ご飯を作りに行けばいいんですね?


 一ノ瀬:後輩君は僕のことを何だと思ってるんだい!?


 神崎:まごう事無きダメ人間ですけど?


 一ノ瀬:そんなこと! ……なくはないけど……


 一ノ瀬:そうではなくてだね! 今回は、引っ越しを手伝って欲しいんだよ!


 神崎:引っ越しですか? 物件を選ぶのを手伝えばいいんですね


 一ノ瀬:それぐらい、僕にだって出来る! というか、引っ越し自体は終わってるんだ!


 神崎:あー……もしかして、荷解きの手が足りないと……


 一ノ瀬:そうなんだよ! それで、手伝ってくれるかい?


 神崎:了解です


 部長から送られてきた住所に向かおうと、コートを羽織って家を出る。

 スマホの画面に目を落とし、マンションの名前を見て、ん? と首を捻る。

 俺の住んでいるマンションと同じ名前だったからだ。

 気になったので、有名検索サイトで検索してみても、同じ名前のマンションは表示されない。

 まあ、偶然同じマンションに住んでいるなんてこと、よくあるかと思って、階段の方へ向かいながら部屋番号を見る。

 次の瞬間、くるりと踵を返して自分の部屋―――の隣へ向かう。

 インターホンをグッと押し込み、扉の前で立つ。

 すると、五秒ほどで部長が扉を開けた。

 中から暖かい空気が漏れだす。

 相も変わらず無防備な恰好で出てきて、外の冷気にやられたのか彼女は体を震わせる。


「うわあ……外、さっむい……肌を突き刺すような寒さだよ……」

「ほとんど裸みたいな恰好で過ごしてるからですよ……」

「失礼な。僕はきちんとパンツも、キャミソールも着ているじゃないか」


 起きながら寝言を吐いている部長を部屋の中に押し込めて、俺も急いで中に入り、扉を閉める。

 外から入り込む寒気を遮断したからなのか、体の震えが収まった部長がさむいと言いながら抱きしめるような体勢で腕をさすっている。

 そんな彼女に対して一言。


「いやあ……凄い偶然もあるものですね。偶々引っ越した先が俺の部屋の隣だなんて」


 部長はギギギとぎこちない動きで俺から目を逸らす。


「ソウダネ……偶然ダヨ。わざわざ後輩君の部屋の隣を選んだわけではないからね……」



――――――――

毎日更新してる人ってすごいですよね

とても真似出来る気がしません……

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