3日目

「ダ ラーン!」


 それは神様の名前だった。


――――――――――――――――――――


 思い出した。

 「ダ ガーネ」だ。

 彼女が毎日している挨拶。

 なんか「ダ ラーン」と似てるよな。

 これ、意味があるのかな。

 同じような単語だから、意味も近かったりする?


 僕はなんとなく本棚を見る。

 言葉が違うから、もちろん文字も違う。

 漢字でもないし、アルファベットでもない。

 よく知らないけど、ハングルやアラビア文字でもない気がする。


 僕はその中から一冊を手に取る。

 話すのは彼女から教えてもらえるのだが、書き言葉はまだ教えてもらってないんだよね。

 だから当然読めない。


 ……というか、彼女は文字を書けない気がする。

 元の世界でも文字を書けるのは上流階級だけということはあった。

 本があるので両親は読めるのかもしれないが、子供に教える時間がないのだろうか。

 まあ、畑仕事に読み書きはいらないからかな。


 そんなことを考えながらパラパラめくっていたときだ。

 なにやら光り輝く、気品の有りそうな人物の絵が描かれているページにたどり着いた。

 まるで神様みたいだ。

 そして、そういう人は何人もいるみたい。

 ギリシャ神話とかみたいに役割が決まっているらしい。

 例えば、ある神様は畑に水をやっている。豊穣の神様かな。

 また別の神様はナイトの後ろに立って応援している。闘いの神様なのかも。


「セイト!」


 そんなとき、名前を呼ばれた。

 振り向くと土まみれの彼女がいた。

 ヤバい、時間を忘れて本を読んでたから仕事をしろって怒られる……。


「ケオ?」


 聞いたことない単語だ。

 でも、彼女は本のページをめくるジェスチャーをしていたので、「読む」って意味なのかな。

 とりあえず僕はうなずいた。

 ……この世界で首を縦に振ることが同意の意味として捉えられるか疑問はあるものの。


「……」


 彼女は黙って開いていたページを眺める。


「ダ ドーグ!」


 突然叫ばれてびっくりした。

 しかし、神様を指さしているのでもしかしたらこれは神様の名前なのかな。

 たぶんこの闘神は「ダ ドーグ」だ。

 それじゃあ……。


「ダ ラーン!」


 ふむふむ。

 豊穣の神様は「ダ ラーン」ね。

 あれ、それって……。


「あ……!」


 あの「いただきます」だと思っていた挨拶は、豊穣の神様の名前だったのか。

 日本語の「いただきます」が食べ物に感謝を示しているように、この世界では食べ物を作ってくれた豊穣の神様「ダ ラーン」に感謝してるのか。

 少しこの世界の文化が知れて感動だ。


「ダ ハーク……」


 少し怯えた感じの彼女。

 なんでだろう。

 この神様は、寝ている人に寄り添っている。

 もしかして、死神……?


「ダ ガーネ!」


 二人の向き合う男女の間にいる神様。

 なんだろう……?

 見た感じ恋愛かな?

 あれ、でも「ダ ガーネ」って挨拶だよね?

 それじゃあ、友情の神様とか?

 もしくは、人間関係?

 わからないな。

 でも、少しは挨拶の謎が解けた気がしてスッキリした。


「アルマ!」


 僕は「ありがとう」……だと思う言葉を言った。

 今日はこれが知れただけでも十分だ。

 よし、仕事に戻ろう。


 ……と、したのだが。

 彼女はうつむいてその場で固まっていた。


「リーネ?」


「……!」


 僕が声をかけると、ビクッと肩を震わせて走り去ってしまった。


 まずいことしちゃった……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る