22 魔女と王子の出会い——5年前
——彼を初めて見た時は、またか、とうんざりしたのだ。
西の森の周囲には墓を作りにくる混血民が多い。墓を得ることも難しい彼らの事情はわかるけれども、住処の玄関ともいえる場所を墓地にされてもこちらも困る。
「何をしているの? 悪いけどここは墓地じゃないのよ」
「……っ⁉︎」
弾かれたように振り返った男は、まだ少年といえるほど若かった。
木漏れ日を受けて場違いにきらめく銀色の髪。旅に汚れている風情だったから気付くのが遅れたが、外套の下の衣服は混血民ではありえないほど上等だった。その割に供はいない。掘り返したばかりだろう土の前に一人で膝を突き、黒く汚れた手で、握った何かを埋めようとしている。
その全てが、妙といえば妙だった。
外見からして身分のあるらしい少年がたった一人、墓を作ることもできない誰かの名残を埋めようとしている。
おそらくこの少年は『不可侵』を密約とする王国に由来する誰かだ。厄介ごとの気配しかない。穏便に追い払うのが妥当だろう。
それなのに、彼女の口はこう言っていた。
「森の中に、もっと見晴らしのいい場所があるわよ。埋めるならそこにして」
「…………あなたは森の〈魔女〉……なのか?」
少年がためらいがちに口を開いた。
彼女の正体を何となくでも察するあたり、勘は悪くないらしい。その割に驚愕も畏怖もない、落ち着いた口調だった。
「ずいぶん古いお伽噺を知っているのね」
肯定も否定もしない彼女を、少年は青い瞳でじっと見ている。よく晴れた空の色。天気雨のような子だなと、そんなことをやけに浮き立った気分で彼女は思う。不思議だった。こんなに高揚した気持ちになるのは本当に久しぶりだったから。
「ほら、泣いてないで来なさいよ。案内してあげる」
促せば、少年は今気付いたようにはっとして、頬を流れていた涙を袖で拭う。年相応の慌てた様子に彼女の機嫌はますます上向く。けれど、その仕草はいただけなかった。そっと腕を掴んで止める。
「拭かないで」
「…………?」
「あなたの涙、きれいだわ。——まるで、流れ星みたい」
少年は驚いたように目を瞠る。虹彩がゆっくり滲み、頬に新たな星が流れる。
熱心に見つめる彼女から逃げるように顔を伏せた少年は、地面にぱたぱたと星の雫を落としながら、湿った声で小さく言った。
「森の魔女は悪趣味なんだな」
「……性格は、泣き顔ほどはかわいくないのね?」
空気が一気に険悪になる。
それが、魔女と王子の出会いだった。
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