34.再誕

***



「キリシマさん! それにスクルージくんとにバーレッドくんも……? よかったぁ! 皆さまご一緒におかえりなさーい!」


「ご無事で何よりでございます、キリシマ様。お二方も」


ダンジョンから持ち帰った資金を使い、買い戻した屋敷で待っていたのは数人の手伝い屋たち。

キリシマに所有権を放棄されたあとも彼女たちは戻らぬ主を待ち、健気に屋敷の整備をしていてくれたらしい。

埃も塵も一つとして見当たらない、清掃の行き届いた玄関で最初に出迎えてくれたのは二人。

スクルージが外見設定をした褐色肌に金髪を二つ縛りにしたギャル風のメイド・タフィーと、きっちりとした給仕服に身を包んだ厳しそうな目付きの手伝い屋第一号ことメイド長のジェリー。


「悪い悪い。急に留守にしてごめんな」


「まったくですよ~! まさかウチらほっぽってどっか行っちゃうなんて信じらんないです。ねぇ? イオリさん?」


主であるスクルージが簡単に謝罪するとタフィーは友人と接するような態度で彼を小突き、奥で見守っていた男装の使用人へと同意を求める。

イオリという麗人はバーレッドが屋敷に連れてきた手伝い屋だ。彼女はルタを見るなり役者のような身振りで彼に近づき、


「ルタ! 君は今までどこ歩いてたんだい? 心配したんだよ!」


「ひ、ひえぇ。すみませんイオリさん……ご主人さまの命令で買い出しに行ってたんですぅ」


バシンと背中を叩く。男勝りな先輩の力強さにルタはよろめくが、仲間の使用人たちと合流できたことに心底安心しているようだ。

ルタだけではない。ここに集まった全ての人物が、自分たちが作り上げ長い時間を費やして築いてきた大切な拠点に戻ってこれたこと、突然姿を消してしまった仕えるべき雇用者たちが戻ってきたことにそれぞれ胸を撫でおろしていた。

まだ顔を見せていないがキリシマたちが帰還したことで普段通りの生活が戻り泣いて喜んでいる若い使用人たちも部屋の中にはいるだろう。


正直一時の思い付きでこの環境を手放した張本人ことキリシマは、すっかり手伝い屋たちに合わせる顔が無いと縮こまって黙っていたが、歓迎ムードで出迎えてくれた彼女たちを見てほほ笑まざるを得なかった。

何より彼はギルド筆頭にしてこの館を購入した大主様である。

皆自分の名を誰よりも最初に呼び頭を垂れるので堂々としていなければ面子が立たない。

それに彼、キリシマ・ウィンドグレイスというキャラクターは威風堂々と闊歩する、勇ましく少し傲慢で心優しいリーダーという伊達エルフ様なのだ。

それを念頭に置き、キリシマは再起する。そう、何度でも。


「バーレッド、ルージ。ルタ……それにお前たち皆、もだ」


一同の視線を集めるように片手を挙げ、決意を込めて息を吸う。


「我は戻って来た。また此処から全てを始めよう。今、『翼蛇の杖』の再誕を宣言する!」


吸った息を溜めて一気に吐き出すと同時に宣誓。清々しい声音に決め台詞。

したのだが、


「……ぷはっ。まだやってんのかよそのダッサいの」


「だ、ダサいとはなんだ?! ルージ貴様……!」


おまけの決めポーズをとり大袈裟な台詞を発したが、スクルージは笑いながら彼の肩を掴んで無理矢理組ませる。

彼の快活な態度に一同を振り見ながら突っ込みを入れ、急に気恥ずかしくなって俯いてしまうキリシマに続けてバーレッドも肩組に加わった。


「いいじゃないですかスクルージさん。キリシマさんはこうでないと、ですよ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る