32.正体

閃光。激しく降る光。視界は瞬間的に白一面となる。


「うっ! うわぁわぁあ!」


天井付近で発生した稲妻が着弾し散り散り。

勢いに吹き飛ばされそうになり、踏ん張りながら衣服を押さえるルタ。

短い悲鳴を挙げる彼を過り、キリシマはバーレッド達が戦っている方へと駆け出した。


「猛り唸れ! 我が雷達! 悪意を切り裂き殲滅せよ!!」


雷を呼び出して放てばそれで終わりではない。

そこから先の動作こそが、魔術師レベル上限到達者である彼の本当の実力を明示する。腕の見せ所というものだ。

光に包まれて叫びよろめく大蝙蝠に杖を振り上げ、爆雷の起動から操作へと魔法の詠唱を変え続けるキリシマ。

幾重に集まっていた光の束から一筋が生き物のように離れ、彼の杖に絡み付く。


「行け!」


その光は弾けるように杖から放たれ再び空へ。そうしてまた地面に刺さるように落ちる頃には雷(いかづち)へ。

落下した稲妻が地面で跳ね返るように動作し、蝙蝠の方翼を直撃。そのまま貫き通してモンスターを壁へと縫い付けた。

キリシマは続けざまに地を蹴り飛ばし、次のターゲットへと狙いを定める。


「伏せろ! バーレッド!」


「!! キリ……シ、マさ、ん……?!」


魂を妖刀に喰われる代わりに腕力を底上げする能力で、全霊を掛け鎧男との戦闘に集中していたバーレッドは一時、反応が遅れ敵から身を離す隙を失ってしまう。

赤くなった瞳の中にキリシマを映し我に返った頃には手遅れだ。放たれた閃光を躱す余裕がない。


「……!」


「貴様! 何を……!」


後ろ髪を掠めて光に飲まれんとするバーレッド。

彼が身を捻ろうとしたところを庇ったのは意外なことに敵対していたはずの鎧男だった。

巨躯をバーレッドの横腹へとぶつけ雷の軌道の中心から彼を弾き出す。

何故。払いのけられる味方が宙に浮く姿に一旦は固まるキリシマだったが、既に放った雷の攻撃は敵に情け容赦を持ってはいない。

定められたターゲットへと稲妻が空気を裂いて駆け、巨大な刃を形作った雷の大技が鎧男の胸へと直撃した。


「な……?!」


頭に向かって駆け上がり全身を巡った雷は裁きの炎へ変化し、脇目をふる隙も与えず燃え上がる。

たちまち炎上する焔の内側。鎧男の傷ついた装備にヒビが入り、削れ、崩れて蝋のように溶け出した。

そうして壊れたヘルムの隙間から見えた人物の目。キリシマにもバーレッドにも覚えのあるヒトのトパーズ色の穏やかな瞳。

炎の橙が反射する黒い鎧に身を包んでいた仇の正体を知り、


「ル……」


驚愕の真実に杖を取り落とすキリシマ。


「ルージ?! き、貴様だったのか!!!?」


「ひっ、回復(ヒール)っ!」


三者のすぐ側に駆け寄ってきたルタが慌てて炎の中に割り入り治癒の魔法を唱えれば、キリシマも鎮火のための呪文を探してコマンドを開く。


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