19.命からがら

***



「なるほど。それで逃げてきちゃったってわけですね。名前やレベルなども確認できなかったんですか?」


変装用から普段使いの黒服に戻しながらバーレッドが言うと、キリシマも破られた虎柄のマントを脱ぎながら話し始めた。


「そう責め立てないでくれバーレッド。あんな奴は見たことがない。シャーロッテめ、また新しい変な魔物(ペット)を飼いおってからに……」


「責めてはいませんよ。僕だって同じ立場だったら咄嗟に対応出来るかわからないですし」


通い慣れた地下ダンジョン。その奥地。

クリア目的の宝箱の向こう側にある金庫に近づくことが可能であることは確かめられた。

しかし、そこに突如として現れ攻撃を仕掛けてきた漆黒の重鎧(メイルプレート)は、過去にダンジョンで見て来た魔物(モンスター)とは違う異質な空気を纏っていた。

その者のただならぬ殺気と職種的状況の不利に、キリシマは分析(アナライズ)することも放って逃げ出してきてしまったという。


上等な装備やスキルを数多く修得している上級プレイヤーのキリシマにしては何とも情けない話だが、彼の性格はバーレッドもよく知っていた。

肝が据わっていて勢いや思い切りは誰よりもいいし、攻勢状態でのゲームメイクは上手い。

そのくせに仲間の士気が低いと自分もネガティブな感情で左右されてしまうし、ソロプレイヤーとしての融通はさらに薄弱で予期しないトラブルは大の苦手。

給仕のふりをする自分の役割を任せたほうがよかったかもしれないな。と、バーレッドは今更ながらに思った。


そして、この世界がゲームであったときのように何事もそう上手くはいかないということも同時に考えていた。

もし自分が未知の敵に遭遇しても冷静でいられるだろうか。

予想外の出来事に対処できる自信はない。

バーレッドはそこまでキリシマを情けないとは思わなかった。


「特徴を照合しているが、魔物図鑑には掲載されていないようだな……」


メニュー画面のゲーム内データベースで魔物図鑑を検索し、唸るキリシマ。

ゲーム上何処かで同じ魔物に出会ってさえいれば自動的に登録されているはずだが、斧を持った黒い歩く鎧らしきモンスターは見つからない。





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