16.作戦決行

「じゃあ、行きますねキリシマさん。そっちはよろしくお願いします」


「了解だ。任せておけ」


シャーロッテの館、裏門側にて。

二人の計画は単純明快だ。

バーレッドが使用人に扮装してNPC達の目を引き付けている間に、キリシマが地下にある金庫へと忍び込んで現金や金目の物を頂戴するという非常に解りやすいやり口。


(奴らの目は節穴か?)


キリシマの魔法で眠らせた見張り番を二人で花壇の奥に隠し、燕尾を翻して高い生垣を軽々と飛び越えるバーレッドの背中を見送る。

派手な動きを見せたにも関わらず、NPCは誰一人も気付かずに彼を使用人として認識し受け入れてしまったのはバーレッドが潜入スキルを使用したからなのであろう。

だがそれでも不自然だ。この辺りはゲーム世界とさして変わらないとでもいうのだろうか。


あっという間に舞台に溶け込み、居眠り中のシャーロッテの隣を他の使用人と交替してのけたバーレッドを見送ってキリシマも行動を開始する。


キリシマの持ち場は地下だ。

シャーロッテの館は地上階と地下との二重構造になっており、ゲーム時代から小規模なダンジョンとしても期間限定イベントの度に使用されていた。

地上は装飾華美な内装の館の廊下、先ほど通過してきた裏門と玄関。

そして廊下の肖像画の裏にあるスイッチを押すと、


「フッ。ここだな。たわいもない」


地下の使い回しダンジョンへ到達できる仕組みになっていた。

独り言を言いながら暗がりに降りるキリシマ。

コマンドから道具、松明(たいまつ)を選択して手に握ると自動で火が点った。


「さて……」


シャーロッテの館の地下ダンジョンにはイベント解放時にしか訪れることはなかったが、キリシマの覚えが正しければ大した敵は出現しない。

地下水路に繋がっているためにそこから迷い込んだネズミやスライムのようなモンスターが時折出現するが、大方は角付き兎よりもレベルが低い。

翼蛇の杖の仲間内でも初期にキャロや飛鳥たちがレベル稼ぎのために進んでイベントに参加し、先陣を切っていた様子を思い出す。


意気揚々と前を歩く若い初心者プレイヤー達は、キリシマたち玄人の新鮮な楽しみでもあった。

飛鳥はMMORPGを題材にしたウェブ小説を読み込んでいたらしく、キリシマやバーレッドの言葉をきいただけで理解したが、キャロは全くの初心者で弓使いのDPS職にも関わらず敵に突っ込んで壁役のスクルージに手を焼かせていた。


《今のキャロ、先釣りって言うんですよね? スクルージさん》


《そうそう。他のパーティでやらかしたら嫌われるぞ?》


《えーっ! 知らなかったんだもん仕方ないじゃないですかあ!》


《ははは……》


スクルージやバーレッドはそんな彼女らを優しく根気強く教育し、皆楽しく一丸となってクエストを駆け抜けたものだ。


(懐かしいな……他の皆は無事にログアウトしていったのだろうか……)


思い出を振り返っていると皆の顔が浮かんでくる。

仲間たちは今どうしているのだろう。

キリシマは不安を拭って広い石床の道を進んでいった。

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