14.金策

「ギルドハウスにしていたあの一軒家を買い戻すには八〇〇〇万円。最低でも一戸建ては五〇〇〇万円からでしたよね。一日数回のクエスト受注をしても、さっきのような感じじゃあ何年かかることやら。僕たちが野垂れ死ぬ前に異常事態に気が付いた運営が連絡をくれたらいいんだけど……」


本当はこんなところで油を売っている暇もないのだろう。

脂は美味いがこのままでは明日がどうなっているかも怪しい。

宿屋は一人一泊四〇〇〇円から。今の食事代だって二人で酒とつまみだけで一六〇〇円。数日もしないうちに尽きてしまうのは二人ともわかっていた。


「とにかく今はお金をどうにか稼がないと」


「一回で二〇〇万円くらいになるクエストがあっただろう。あれを何度か受ければよいのでは?」


「キリシマさん。あのクエストは二十人以上のパーティ編成で行く超大型モンスターの討伐クエストです。僕たち二人じゃとてもじゃない。無理ですよ」


キリシマが提案したのはいわゆるエンドコンテンツのさらに先。

多人数で挑むチャレンジモードの話。

いくらレベルがカンストした熟練プレイヤーであっても十人以上を推奨としたモンスターを相手するのにたった二名では無理難題だ。

キリシマの無謀な提案をいなしてバーレッドはステータス画面を開く。


「あっ。そうだ」


そうしてあるとんでもないことを思いつき、小声で言う。


「泥棒か強盗……とか、してみます……?」


「強盗? まさか法を犯すというのか?」


「ちょっと心苦しいですが手っ取り早く大金を手に入れるにはアリだと思います。そもそもその法律とかが機能しているのならできっこないことなんですけどね」


バーレッドの言うとおり、この世界がゲームであれば設定上は街中で人物や店舗を攻撃することすらできない。

だが、今の自分たちはどうだろうか。

コマンド式であった武器を抜く動作も魔法を使う行為も、角付き兎を退治したときのように直感的に行うことができるのだ。

街中でそれらを行おうとすれば本来はバツ印がついて動かせない。

それが今なら出来てしまう。そうなれば。


「それに」とバーレッドは続ける。


「違法行為をすれば運営も僕たちを見つけてくれるかもしれませんし」


「確かにその通りだ。やってみる価値はあるかもしれん。だが……」


「何の罪もない人たちに攻撃を加えるのは抵抗がある。ですよね」


納得はしているが頷き難いキリシマ。

バーレッドも何も考えなしに提案したわけではない。


「だったら、お金を持ってる悪い奴らを狙いましょう。それなら世のためにもなるでしょ」


既にターゲットなら決まっている。と、得意げに笑って空けたグラスのおかわりを注文すべく片手を挙げて給仕の娘を呼び止めた。

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