3.これまでの関係

兎の獣皮を持っていける限りカバンに詰め道具屋へ持ち込んだところで、夕飯のアジフライ定食(この世界でも味噌汁とライスがついて八〇〇円程度)一人前にありつけるだけの金になるかも怪しい。

そう考えた二人は依頼(クエスト)を受注するための酒場でこれらの引き取り手を探しに来たのだが。


「とんだケチだな。一人一回きりの納品制限付きとは……」


「まぁ良かったじゃないですか。普通に売るよりは多少マシになりましたし……」


二人分を合わせて六〇〇円。

それから道具屋に売ってようやくアジフライ定食一人前。

がっくりと肩を落とすキリシマに掛けるバーレッドの言葉はぎこちない。


「しかし、これでは我々の魔城(ハウス)奪還までいくら掛かるのか予測もできんぞ。なあ、バーレッド」


そうして得た資金を握りしめ定食屋には行かない二人は木製の丸テーブルを囲む。

店内で二番目に安い酒を二杯と一人前のフィッシュアンドチップスを頼みながらキリシマがぼやき、


「そう、ですね……」


バーレッドは宥めるでもなく相槌をうった。


彼がキリシマに敬語を使っているのに対しキリシマは少し偉そうな態度でいるこのコンビ。

彼らに明確な階級があるわけではない。

立場で話し方を変えているというよりも、そういった性格という設定(ロール)の名残が働いている。


魔術師のキリシマは二人が所属する組織(ギルド)、翼蛇の杖の創設者でありギルドマスターの地位にあった。

一方バーレッドのほうはというと、間に何人か介しての後入り。

ゲーム自体は長年遊んでいるし、ギルド内でも古参ではあるが、特別な役職は持たない。


キリシマが勝手に彼を「参謀」と呼び二つ名を与えているだけあって組織内では一番共にログインしている時間が多かった。

ただ、その力関係もゲームの中の登場人物(プレイヤー)だった頃の話で、今の二人にはキャラクターの設定に忠実でいる必要などなかった。

それでもロールプレイを続けたがる頑固なキリシマにバーレッドも合わせて話しているだけだ。


そう。

二人は偶然、つい二日前まで同じオンラインゲームで遊んでいたプレイヤー同士だった。

VRMMO・ロストスペルオンライン……通称、LSO。


剣と魔法でドラゴンや悪魔と戦う、およそありふれた架空のファンタジー世界が舞台の海外製ゲームで、数年前に日本語パッチが配信されてからは日本でも十万人近いプレイヤーが遊んでいる大手のMMOだ。


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