綴音学園 花の教え
茄子
実紀1
初恋は姉様の友達だった。
白い肌が美しい綺麗な人。
ずっと憧れていた。
どんなに邪魔にされても、私はずっと彼女の傍に居た。
ある日ドアの隙間から見た、姉様とあの人が抱き合う姿はとても美しく、今でも目に焼き付いている。
そして姉様は家を出て二度と帰ってこなかった。
あの人も二度と我が家に訪れることは無かった。
母様は嘆き悲しみ、家は灯りが消えたように重い空気が漂っていた。
後で知った、姉様とあの人が町外れの湖に身を投げたという事。
神に背いた報いだったのだと人々は言うけれども、私はただ二人に思いを馳せるだけ。
二人が身を投げ出した湖のほとりに咲いた水仙は妖しく香り、私の心を離さない。
「ご機嫌よう、
「ご、ご機嫌よう。エトワール様方」
「ふふふ、そんなに驚かなくてよろしいのよ。今日は私の文芸部に貴女をお誘いに来たの。なんと言っても我が校が輩出した文芸新人賞を受賞した才女ですもの。お誘いしないわけにはいかないでしょう?」
「是非文芸部に入っていただきたいのよ」
「わ、私がですか? そんな、恐れ多い……」
「言ったでしょう? 貴女は文芸新人賞を受賞した才女、誘わない理由があるかしら?」
「それは……」
正直、足が震えた。
この綴音学園においてエトワールの二人に声をかけられることは、まさに夢のような時間だから。
確かに、文芸新人賞を受賞した時、文芸部に誘われるんじゃないかと期待していたけれども、実際に誘われると、動揺しかなくて、体に震えが走ってしまう。
文芸部が復活した時、私はそのサロンを見にわざわざ行って、窓から中を覗いたものだ。
まさか私がその中に入る事が出来るなんて、あの時の自分に是非とも教えてあげたい。
訪れたサロンは、外から見ただけじゃわからないぐらいに壁一面に本棚が置かれ、そこには本が敷き詰められていた。
パッと見ただけでも、学園の図書館にある本とは違う珍しい本が山のように揃っていて、この本を読むだけでも勉強になりそうだ。
「さあ、まずはお茶にしましょう」
「え」
そう言って出されたのは天音が作ったと言うシフォンケーキと、詩織が淹れてくれたミルクティー。
甘い香りがサロンの中に広がって、インクの香りに混ざって不思議な感覚がする。
「貴女が受賞した作品は、貴女の実体験が元になっていると聞いたけれど、本当かしら?」
「あ、はい」
「そう。残念な事ね。貴女のお姉様もこの学園に入っていれば、少なくとも学園にいる間だけでもその愛を全うできたでしょうにね」
「でも、卒業してしまえば同じことだったと思います」
「そう? そういえば、貴女の婚約者は元お姉様の婚約者なのよね? 気にならないのかしら?」
天音の言葉に、ドキリとする。
私は婚約者の事を愛していないから。
「政略結婚なので、しかたがありません」
「そう? まあ、政略結婚なんてそんなものだろうけれど、貴女の恋愛対象は女性なのではなくて? 聞いているわよ、貴女の女性遍歴」
「それは……」
天音はどうして私の心をざわつかせるような事ばかり言ってくるのだろうか。
確かに私の恋愛対象は女性であり、男性ではない。
高等部に上がって、文芸新人賞も取った私は注目を浴びて、数多くの女の子からラブコールを受けるようになり、それを拒否することなく、私は確かに数多くの女の子と恋愛を繰り返してきた。
でも、どの恋愛も長続きはしなかった。
あの人の事が頭に過って比べてしまうから。
恋人になった女の子達は、私の心の機敏をよく察して、私の元から立ち去って行った。
「貴女に恋をした女の子達が、貴女の元に残らなかったのは、なぜかしら?」
「それは……」
「天音、あまり虐めるようなことを言ってはいけないわよ」
「そんなつもりはないのよ、詩織。ただ、こんなにモテているのに、一人の人に決めないなんて、何かわけがあるんじゃないかと思っただけなの」
「私は……」
言えるわけがない。
初恋を引きずって、付き合った女の子達を傷つけてきているなんて。
特に、このエトワール様達に知られて軽蔑されてしまったら、この学園に居る事すら耐えられないかもしれない。
「貴女の抱える秘密、とっても興味があるわね」
「そんな……」
「さぞかし甘い秘密なのでしょうね」
「わ、私の事よりも、エトワール様達は婚約者の方とうまくいっているんですか?」
「私達? 普通じゃないかしら? 政略結婚だし、私は相手に想う相手が出来たと言われても別に驚きはしないわ」
「天音ってば。でも確かにそうね。この学園に居ると、婚約者の事はどうでもよく思えてしまうから、必然的に順位が下がってしまうのよね。まあ、政略結婚の重要性はわかっているから、拒否はするつもりはないけどもね」
噂がある。
天音と詩織が付き合っていると言う噂だ。
でも私が見たところ二人は特に付き合っていると言う感じはない。
本当に仲の良い親友なのだろうと思える。
私のように邪な想いは介入していない。
ふと、サイドの髪をスッと整える天音の仕草に、あの人を思い出してドキリとしてしまう。
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