諦観論
九々理錬途
第1話🔳僕とトモダチ
僕には大切なトモダチがいる。
ただ、僕にとっては大切なトモダチなのだけれど、トモダチにとっての僕は何だろうか?僕が話せるのは脆弱な語彙力の日本語だ。しかしトモダチである君が話す言葉が日本語では無いので、言葉による正確な確認が出来ない。そも言葉という括りでは無いのかも知れないのだが。
僕と君は属する種類が違う。
僕はギリギリ人間というやつで、君は「猫」という種類だ。出来れば下僕くらいには思っていて欲しい。要するに僕を認知していて欲しい。他の誰かでは無く、僕という個人を。僕が君を特別に思うように、君が僕を特別な家来だと思っていてくれたら嬉しい。
僕にとっての君は可愛いや好きの言葉に収まらない程に存在が大きい。僕にとっては「ひと」で「ユウジン」なのだから。
精神科に通う希死念慮という名前らしい見えざる敵とチャンバラごっこしながら、どうにか社会に出て働いていたい僕と、不治の病いを宣告されてもう少しで4年が経つ君。
少しずつ少しずつ、君の命は削られている。体重が出会った頃から比べて半分になってしまった。文章を書くのは得意では無いのだけれど、トモダチと僕の出来事を書いておこうと思う。何でもない出来事や日常ほど幸福なことは無い。隣でぐうぐう眠る君を撫でている幸福な何でもない今、本当にそう思う。
君に僕が話し掛けても、君に言葉が伝わっているのか解らないから、独り言みたいになってしまうのだけれど、僕はそれでも時々問い掛ける。
「僕の命を君にあげたいのだけれど、それは出来ないことなんだって」
「だから、病気を治すことは出来無いけれど、痛い時は大きい声で教えてよ」
「僕は、出来る限りのことをしようと思ってるんだけれど、大金持ちじゃ無いから金銭の限界があるんだ」
大金持ちの家に引き取られたら、きっともっと良い環境で生活し、もっと高額な医療を受けることもできるのだろうけれど、
でも、
でもね。
世界で一番君のことを大切に思ってるのは僕だよ。
それだけは誰にも負けない自信があるんだ。
……他は人として劣っていることばっかりだけど。
微々たる稼ぎの万年就職難な僕と満月みたいな眼をしたトモダチである君との、多分よくある何でもない話。
君は僕の大事なトモダチなんだ。
僕が出来る精一杯で君から痛いのと苦しいのを遠ざけたい。
僕が君の言葉を理解できたら良いのにと思ってる。
君に僕の言葉が届けば良いのにと何度も思う。
そうしたら、僕は君の意思を尊重して、どうするか決められるのに。
でもそれは叶わないから、僕が決めるよ。
君に恨まれても構わないって、僕は本気で思ってる。いつかのいつかに別れの日が来たら、僕を恨んで呪ってね。
◇続
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