老○さん、いらっしゃーい。

 俺に対する「日本球界」の反応は大抵2通り。若い世代は肯定的でそうでない世代は否定的だ。もちろん、いろいろなつながりがあるため、断定するわけにはいかないが。


「お兄!今日のニュースでお兄がまーた『喝』入れられてたよ!」

ネット電話越しに妹の美咲が嬉しそうに報告してくる。

「あのな、そんなに嬉しそうに言わんでも⋯⋯。」

「でもガン無視よりは良くない?」

妹的にはテレビで俺の話題が出るだけでも嬉しいらしい。


 どうも俺がメジャーリーグに投手と打者の「二刀流選手2ウェイプレーヤー」としての挑戦を続けることに否定的らしい。


 ちなみに俺は「視力温存」のためテレビ番組はほとんど見ない。新聞も読まない。ニュースも主にラジオで聴取。テレビの話はネット電話で妹から聞く程度なのだ。住居もアメリカだしな。


「『喝』ってことは例の針本じいさんか?」

 あー、日曜日の朝にご老人たち相手にやってるという報道「風」バラエティ番組か。あくまでも「風」なので偏り具合のひどさで若年層にはネタ扱いされてるらしい。


「うんうん。絶対に体力がもたず疲労が溜まってシーズン途中で大ケガをするのが目に見えてるって。体力が身についてない今の段階では無理らしいってさ。」


「なるほど。それはよく言われるわ。」

高校生の試合数なら確かに週末2試合ずつ3月から11月までの9ヶ月のシーズンでフルにやっても70試合。プロ、とりわけメジャーは160試合ほどあるもんな。


 だが俺の場合は「自動回復」魔法があるので疲労など溜まるはずもなく、全くもって問題がないのだ。ていうか勝手に体力スタミナ無いとか決めつけんでも。あえて言えば 昨シーズン通算すれば140試合以上はすでに出場しているわけで、十分に体力があることを証明したつもりだったのだが。


 年寄りは実際のデータより自分のフィーリングを優先させるというパターンが多い。「それってあなたの感想ですよね?」って「論破」されちゃうヤツ。


 日本球界が誇る「老○」二大巨頭である針本氏と比呂岡氏。


 実は比呂岡氏は俺に対して肯定的なのだ。それは母校の先輩である山鹿さんのおかげ。比呂岡氏は山鹿さんの所属する埼玉ライオンハーツの監督を務めていたこともあって交流する機会も多く、そのたびに俺の肉体が彼「好み」の柔軟性に富むことを強調してくれていたのだ。山鹿さんの後輩である俺が日本球界を無視して毛唐アメリカに行くとは嘆かわしい。比呂岡氏的には彼の出身球団である東京ギガンテスでしっかりと育成すべきだということらしい。


 毎回同じ話を聞かされる山鹿さんは俺の先輩たちとの余興で撮った「リンボーダンス」の動画を見せたらしい。幼い頃から柔軟性と強靭な体幹を鍛え上げてきた俺は映画の「マトリックス」のあのポーズさながら先輩の膝上くらいに設定されたバーを軽々とクリアしたのだ。


 それが何を意味するかを理解できないほど耄碌もうろくはしていなかったようで比呂岡氏は我が意を得たりとばかりに膝を打ったそうである。


 ただ、この方はどんなに偉そうにしても、現役時代、打撃面では三流以下の成績しか残せていないという負い目があるのでそこまで傲慢になりきれないのかもしれない。強打者でないにもかかわらず通算打率は2割5分にすら達しないのだ。もっとも年をとると都合の悪いところはほぼほぼ記憶からすっぽ抜けるらしい。


 一方、俺に居丈高に食いついてくるのが針本氏である。実はこの方を敵に回した半分は俺の「自業自得」だったりするのだ。


 というのも昨年ヰチローさんが針本氏が持っていた日本のプロ野球通算安打記録を塗り替えた。その際に共にWBCを戦い、アメリカのマイナーでプレーしていた俺にもコメントを求められたのだ。


 俺の「日本記録」おめでとうございます、という言葉にとある記者に「ヰチロー氏の記録は日米通算なので日本記録は針本氏では?」とご丁寧に訂正されたのだ。それでアメリカを主戦場とする俺は「カチンと」来てしまったのだ。


「ああ、それはただの『NPB記録』ですよね。それは日本という『場所』の記録です。ヰチローさんの記録は日本人が打った日本国民の記録ですから『日本記録』なんです。大切なのは日本という『場所』じゃなくて日本民族の『大和魂』の記録、サムライの記録だってことです。」


 俺が一気に言うとその場は水を打ったかのように静まりかえってしまった。あれ?僕、なんかヘンなこと言っちゃいました?(棒)

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