第6話 千代子、気付かぬうちに少しキレ始めてる
実際になってみるまでは「二十一歳で『少女』はまずくない?」と思っていた魔法少女だが、変身するとティーン程度に若返ってくれるため、その辺りの心配は解消された。
けれど問題は、露出度の高いコスチュームである。肌や顔の作りは若返ってもお肉の方まではどうにもならないらしく、見せられるレベルに身体が引き締まるまでという条件のもと、本来はへそ出し且つミニスカートであるところを、トップは腹回りがゆったりめのチュニック、下はふんわりとしたガウチョパンツに替えてもらっている。徹底的に体型をカバーした形だ。
「はい、これ」
そして、戦闘後は必ず謎のドリンクを飲まされる。魔法少女の戦闘は、物理攻撃のみならず、もちろん魔法を使うということもあり、かなり身体に負担のかかるもらしく、それを回復させるものなんだとか。
「おっ、今日はバナナ味かぁ。やったー」
飽きないよう、という配慮からか、フレーバーも色々用意されている。味によっては多少人工甘味料の独特の甘みが気になる時もあるけれど、基本的には美味しい。
「でもさ、これ、あんまり効いてる感じしないんだけど」
「そんなことないイズ!」
「だってさ、ほら、さっき擦ったところ、全然治ってないじゃん? 回復アイテムなんだったら、こういうのこそ治してくれるべきなんじゃないの?」
魔法少女というのは、どういうわけか、致命的な怪我をしない。
致命的な怪我というのは、腕がぽっきり折れるとか、頭が吹っ飛ぶとか、胴体が切断されるとかそういうやつである。そりゃ殴られたらあざくらいは出来るし、擦り傷切り傷はあるけど、そういう、治るまでに数ヶ月を要するような(ていうか、頭が吹っ飛んだり胴体が離れちゃったら死ぬけど)、怪我はしないのだ。冷やしたり、絆創膏で処置出来るレベルである。それでも、痛いものは痛いし、見えないところだったらまだ良かったんだけど、頬がぷっくり腫れた時は学校も休んだ。成る程、だから顔じゃなくてボディにしてくれ、みたいな名言があるわけだ。
「これは内側に効くやつなんだング!」
「そうイズ! いま千代子の身体の中では、大量のエネルギーを消費してしまっている状態イズ! 戦闘終了後出来るだけ三十分以内にこのプロテ……じゃなかった特製ドリンクを飲むことによって、失われた分を素早く補給し、明日に繋げることが出来るイズよ!」
「ふぅん。でもさ、エネルギーを消費ってことは、私いまめっちゃ痩せてるってことじゃない? これ飲んじゃったらトントンになって意味ないんじゃないの? 私の目的はあくまでも痩せることなんだからさ」
ぺら、と上衣をめくる。もうそろそろへそ出しトップスに替えても良いんじゃない? と毎日のように言われているが、確かに引っ込んだには引っ込んだんだけど、何ていうのかなぁ、まだ三段腹みたいなのよ。お腹に横線が入ってるんだよねぇ。それに、体重そのものは一度がっつり落ちたんだけど、それからまたわずかに増加しているのである。まだまだ油断は出来ないようだ。
「そんなことはないング!」
「せっかくここまで育って来たのにもったいないイズ!」
「え、そ、そうなの? 育ったって何?」
ぐわ、と目を見開いてフスフスと鼻息荒く迫って来る妖精たちにたじろぐ。
「この数日間で千代子の身体はかなり改善されているング!」
「そうイズそうイズ! こんな野暮ったいヤツじゃなくて一刻も早く正規のコスチュームに替えるべきイズよ!」
「うーん、でもなぁ」
そう言いながら、再び上衣をめくる。
「うほっ!?」
そこへトレニンとエクサが突っ込んで来た。
「はぁはぁ、腹直筋、腹直筋ングよ……。だいぶ育ってきたングねぇ、はぁはぁ」
「見えるイズ、見えるイズ……! 私には腹横筋もしっかり見えるイズよ……! はぁはぁ、インナーマッスル万歳……!」
「ちょ、ちょっと何なの! わかった、わかったって。次からは正規のやつにするから! くすぐったいから離れて!」
そう叫ぶと、二匹は豚にあるまじき俊敏さで服の下から飛び出し、「言質とったり!」と声を揃えた。語尾なしでもしゃべれんのかい。
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