6 初依頼

翌日何とか復活した私は、朝食を取りながら今後についてじいじに相談する。


「早めにランク上げたいから、常設依頼で数を稼ぎたいと思います」

「早めにランクをあげたいのですか?」


勇者時期と比べ時間はたっぷりあるから、ゆっくり冒険者をするものだと思っていたじいじは不思議そうに聞き返してきた。

私もゆっくりしようかと考えていたのだが…。


「じいじがFランクということに違和感がぬぐえない」


何でもこなして見せましょうを体現しているじいじが最低ランクのFとかおかしくない?

むしろランク詐欺だ、詐欺!


「DもしくはCを目指して突っ走ろう!」


そう宣言した私をじいじは生暖かい眼差しで頷いてくれた。

ということで、早速ギルドを訪問してFランクの常設依頼を確認する。

採取はヒール草10本1束、討伐はゴブリン3体かホーンラビット1体。

ゴブリンよりホーンラビットの討伐数がが少なくて済むのは、食肉になるから多く確保したい思惑があるからかな。

それとも増殖数が半端ないゴブリンを減らすためか。

どちらにしても狩っても問題はないだろう。

常設はわざわざ受付をする必要もないとのことで、早速冒険へと出かけることにする。


まずは午前中は薬草を採取し、討伐は午後もしくは発見次第ということにした。

ヒール草は緑の多いところに群生しているらしく、資料室で確認した森の手前の草原に来てみたが…。


「見事にないな」


全くないわけではないが、見渡す限り内なら1、2本くらい。資料にあった低ランク推奨の採取場は、すでに刈り尽くされていると言っても過言ではない。

こんな状態が続いたら、薬草は絶滅しないのかな?

そういう観念はこの世界にないのかも知れないな。

今後のことを考えて、個人用に薬草の栽培を考えてもいいかもしれない。それは追々として。


「討伐もあるし、森の中で探してみてもいいかな?」


探知スキルを使っても、森の中に脅威に感じる魔獣は見当たらない。冒険者ギルドの規定でも自己責任って書いてあったから大丈夫。

じいじも異論はないようで頷いてくれる。

低ランクが入らなそうな森の奥の方へ行くのがいいだろう。

高ランクの狩り場であれば、低ランクの採取はしないから残っている可能性が高い。


ある程度入ったところで、千里眼と鑑定スキルを使って森の奥を見つめる。

すると、奥の方に群生地を発見。

周りには魔獣はいないようなので、駆け足で群生地を目指す。


「余裕で100束くらい納品できそう」


アイテムボックスがあるから品質も保てるので、目標100束にして10本1束を作ってどんどん収納していく。

森の奥ならまだまだ薬草はありそうで、当分は常設依頼で納品できそうで安心した。

でも他の新人冒険者にはきついよね、こんな森の奥まで来るのは。

常設にしてあるのも、薬草が不足してあるからかな?

そんなことを考えながら、手は止めることなく刈っていく。


「お昼はここで食べましょうか」


私も決して遅いわけではないはずなのに、じいじはいつの間にか自分の分の採取を終えたらしく、ご飯の準備をし出していた。

うん、午前中は採取の予定だったから、予定通りだけどなんか、釈然としないのはなぜだろう。

そんな声に出せないモヤモヤを採取で紛らわせて目標の100束を終えた頃。


「おや?」

「どこかで戦闘中?」


打ち合う金属音の他に、鼻につく血の臭いに顔をしかめる。

何か叫ぶような声が聞こえるし、あまりよろしくない気配だ。

じいじと目を合わせて頷き、現場へ疾走する。


少し先の拓けたところ、巨体の前に4人の冒険者がいた。その後ろには地面に蹲っている人もいるようだ。


「手助け必要ですかー?」


すぐにでも手出しした方がいいのだろうが、助けたのに獲物の横取りだと言われても困るので、走りながら大声で問いかける。


「頼む!」

了解エアカッター


了承を得て巨体の首を風魔法で切り落とす。

大体の魔獣は頭を落とせば倒せるので専ら風魔法を活用している。便利だよね。


「巻き込まれていませんよね?」

「あ、あぁ、助かったよ」


冒険者達の近くに着地すると、リーダーらしき人が戸惑った様子でこちらを見てくる。

変なことはしていないはずなんだけど、何でだろう。

そんな視線はさて置き、倒した魔獣を確認しよう。

首を落としたので、体はそのまま大の字に倒れている。

切り口も滑らかで、傷があるのは手足で、背中などの大きな箇所に余計な傷がないようだ。

これなら毛皮も高く売れるんじゃないかな~


「ブラックベアーのようですね、こちらの取り分としていただいても問題ないですよね?」

「構わない。こっちは致命傷どころかかすり傷がやっとだったからな」


じいじは話を終えて、自身のアイテムボックスにブラックベアーを収納する。

それを見てリーダーらしき人は感心したように頷いた。


「アイテムボックス持ちか、流石だな」

「何が流石なの?」

「嬢ちゃん知らないのかい?アイテムボックスは時空間の収納魔法を修めないと使えない。その上あれを収納できる容量を持っている魔法使いならブラックベアーを倒せるのも納得だよ」


倒したのは私の筈なのに、いつの間にかじいじが倒したと思われているようだ。

しかもアイテムボックスを持っているだけでそんなに凄いことなの?

確認するようにじいじを見ると、にっこり笑顔で返された。

うん、黙っておけということですね、わかりました。


「この辺りには出ない筈だったんだが、油断したな」

「確かにブラックベアーはもっと奥の方に生息しているはずだもんね」

「よく知ってんな、嬢ちゃん。見かけたことないが、いつからこの街にいるんだ?」

「昨日だよ」

「昨日今日でよく勉強してんな、えらいぞ」


昨日じいじに言われただけで、私が自主的にしたわけではないのだけど。

肯定もできず、へらりと笑って誤魔化しておく。


地面に蹲っていた人も命に支障はなかったようで、一旦街へ帰ることになった。

ブラックベアーが生息範囲外にいたことを冒険者ギルドに報告するために。私たちの証言と持っているブラックベアーが必要だからまあ仕方ない。

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