貫ケザル刃ハ脆シト云ハバ、一思イニ砕ケ散レ。刺サルモノコソ有リヤ無シヤ

妖を退治する【白刀】という特殊な刀を作る鍛冶の村が何者かに襲われた夜。
幼気な少女・椿は家の言いつけを破り、一振りの御神刀【妖斬妃】との邂逅を果たします。
同じ日の、同じ場所で、同じく。
赤く爛れた惨たらしい姿に変わり果てた故郷を脳裏に焼き付けながら、幼気な少年・柊は、【妖斬妃】を握りしめて一人戦う椿との邂逅を果たします。

圧巻の筆致で、美しく、生々しく描写される心裡と戦闘に
こちらも息を潜めて読み進めて参りますと

強く在るために人らしい心を棄てて藻掻く椿の姿にも
疑わぬこと、無知であること、強き者への嫉妬心に苛まれる柊の姿にも
強く心動かされるものがあります。

そうそう、
目には見えぬ塵芥を
暫く放置しておりますと
不意の風に綿埃がぞぞと動いて、ぎょっと眉を顰めることがあります。
その時は、まるで私達も、妖でも見てしまったような顔をしているのかもしれません。
その塵芥を、たとえば心の弱さや未熟、と隠喩するならば、
守りたい存在を護るためには強く在らなばならない、という人と妖が共存する世界は、
強くはなくとも生きてはいける、と開き直った現代社会と、不思議と相性が良いのでしょう。

武器など無くとも傷つけ合えるこんな時代、
「強い」ということについて、一度、考えてみませんか。

あらあらかしこ。