第8話:あゝ諸行無常:やっぱ来たか。やったらやられる、これ当たり前!

2020年6月15日、月曜日、午後12時過ぎ。

私は、東日本大震災というものを肌身で実感した。

目の前で自分の家や車が、全財産が流されていく、あの途方もない絶望感を自分の体験として実感した。

他人事ひとごとではないのである。

あくまでも自分自身の事として認識した。

これからどうなるんだろう……。

先が、見えない。

見えるものがあるとしたら絶望しかない。

こんな感じだったのかよ……被災地の人たち……。

今、分かったよ……。

一瞬にして総てを失うとはこういうことか……。

全身の力が抜け、気絶しそうになり、

身体がくにゃくにゃに垂れ落ちる……。

私は、1994年生まれ。

震災の時は中部地方の片田舎の、何も考えていない、バイトに明け暮れる高校生だった。

震災なんて完全に他人事だった。

東日本が津波で流された?、

だから何なの?、

って感じだった。

それが、今、自分に直撃している。

今、自力で立てないくらいガックリ身体が重い……。


ブツルートが閉鎖した。

オフの日の今日、2020年6月15日、月曜日、午後12時過ぎ、突然、携帯が鳴った。

事務所の電脳くんからだった。

「落ち着いて聞いてくださいね。今、ブツルートが閉鎖しました。マジです、マジ……」

冗談じゃなく失禁した。

そして痔が出て便がもりもりとはみ出てきたので、すぐさま電話を切ってトイレへ駆け込んだ。

ブツルートが閉鎖した。

ついに閉鎖した。

「いつか来る来る」、とは言われていた。

私がせどりを始めた4年前からも言われていた。

去年、2019年10月にアメリカのブツルートが閉鎖されたときに、たちまちせどり界では、その危機感は現実的なものとなった。

しかし、我々は、ブツルートを使わない仕入や、ブツルートの代替アプリ案を模索することを拒み、閉鎖されないという根拠のない希望的観測でブツルートを今の今まで使い続けてきた。

我々せどらーはブツルート無しでは、絶対に、仕入はできない。

今さら辞めるとは口が裂けても言えない。

ブツルートはせどらー界の麻薬だ。

一度使うと絶対に抜け出せない。

便利すぎる。

そのブツルートが閉鎖した。

もう終わりだ。失業だ。


改めてブツルートとは、

ジャングル転売専用の、せどらーだけが使う「仕入調査・分析アプリ」のことである。

魔法のアプリと呼ぶにふさわしく、ブツルートを使って仕入れれば、ほぼ、確実にジャングルで利益を取ることが出来る。

まさに夢のような話で、せどり史上、最高最強のツールである。

ほぼ総てのせどらーが仕入れを行うときに必ず使うツールであり、ブツルート=せどりと言っても大袈裟ではない。

総ての商売で一番頭を痛めるのが「仕入れ」、つまり原価である。

原価は商売の命。商売の根幹である。

せどりも例外ではない。

その商品は本当に仕入れるに値するものなのか?

本当に利益が取れるのか?

売れなくて不良在庫になりはしないか?

利益を圧迫して廃業に追い込まれないか?。

もっと極端に言えば、

ジャングルに出品すべきものなのか?

競合ライバルはどのくらい存在するのか?

回転率はどのくらいなのか?、など

総てのせどらーは、仕入に、最も頭を悩ませ、そして、恐怖を抱く。

これはなにも、せどりに限ったことではない。

すべての商売のバイヤーは、この仕入の賭け・挑戦・博打・ギャンブル性に頭を悩ませ、神経をすり減らす。

その悩ましい決断を、具体的で絶対的に近いデータで、一瞬にしてしかも確実に分析して、ストレスなしで決定づけてくれるのがブツルートなのである。


具体的に、どういうカラクリになっているのかと言うと、

シンプルに、

ブツルートとは、A氏という個人が運営しているネット上のサイトである。

そしてジャングルにおける商品価格の情報を極めて視覚的に明快に分析するアプリである。

さらに具体的に、ジャングルが管理するPという商品動向の情報を、無断で抜き取って、その情報から、主に5つのデータを分析表現するものである。

たった5つのデータ。

しかし、この5つのデータがジャングル仕入の総て。

言わばせどりの命。

商品価格の入り組んだ動向を総て、4つのグラフと1つの表で可視化して表現してしまう。

足し算も、引き算も、掛け算も、割り算も、算数も、数学もない、

考えることもない、

見たまんま、

すべて一瞬にしてグラフで判断・決断できてしまう。


例えば、カビ取りクリーナーについて見ていくとする。

スマホにブツルートを起動させ、カビ取りクリーナーのバーコードに、スマホのバーコードリーダーをかざすと、いきなり画面に4つの折れ線グラフが表示される。


まず1つ目のグラフが、価格推移。

これは、縦軸が値段、横軸が時間で、この商品がジャングル内でどういう価格で値上がったり値下がったりしたかの推移が一目瞭然となる。

梅雨つゆ時の6月に価格が跳ね上がって、乾燥した冬には売れずに価格が下がっている。

つまり、今、その商品がトレンドなのかどうかが一発で分かる。


次が、エントリーグラフ。

縦軸がジャングル内での出品者の数で、横軸が時間。

これは、この商品をどれだけの人が出品しているかの推移が分かる。

これによって、常にジャングルで出品されている堅い定番商品なのか、売れるか売れないか不明なギャンブル性の高い危険な商品なのかが分かる。


そして、次が、重要で、順位グラフ。

縦軸が、ジャングル内で扱われている総ての商品の中で何番目に多く売れているかのランキング。

横軸が時間。

これは、折れ線グラフの波形が激しくギザギザになっていることが、ジャングル内での出入りが頻繁に行われている、つまり回転率がいい証拠であり、逆に平板な波形は出入りのない不人気商品で、

極端な話、この波形が「ギザギザだから仕入!」と機械的に仕入れてしまっているせどらーもいる。

というより、せどらーのほとんどが、商品の出入りを可視化したこのギザギザで即決する。

そして実際、売れる。

それほど強烈な「指標」、いや、「答え」と言ってもいい。

マジックである。


そして極めつけなのが4つ目のグラフ、モニターである。

これは、縦軸がブツルートを見ている人、つまり、せどらーの数、横軸が時間。

要するにこの商品を、今、転売しようとしているライバルが何人いるのかを一瞬にして判明させてしまうのである。究極である。

ライバルが多いと、商品価格は下落する。

だから必然的に仕入れは控えるという判断が即座に出来てしまう。

これは、極めて信頼性の高い仕入れ判断基準となる。

この安心感は麻薬だ!。


そして最後が、時系列表。

これは日々の、ジャングル内で出品された、あるいは売れた商品の個数とその値段が、一覧表になって示されている。

例えば、この表を見て、昨日、20個売れたから品薄になっている、だから、今日、仕入れてぐ出品すべきだ、との判断が付く。これも、便利すぎる。

というより神がかっている。

商品知識や価格動向など全く要らない。

総て、商品のバーコードをスマホで読み取れば、たちまち5つのデータが出てきて、一種にして思考停止で、実に機械的に心穏やかに仕入れ判断が出来てしまうのである。

便利を通り越して、卑怯の領域に入っている。

だって何も考えなくていいのだから!。


せどり業界を知らない人たちよ……、どう思う?。

この至れり尽くせりの卑劣極まりないサイト・アプリ。

そう、この5つのデータを使えば、何のリスクも苦労もストレスもなしに確実に仕入れを行うことが可能な、つまり究極の後出しじゃんけんが出来てしまうのである。

真面目に商品知識を身につけて売れないリスクを背負って勇気を出して仕入れる小売店のバイヤーからすれば、まるで完璧な後出しじゃんけんであり、カンニングであり、未公開株譲渡であり、インサイダー取引である。

他人ひとが甚大な知恵と時間を振り絞って仕入れたものを、横からスマホをかざしてブツルートが売れると判断したものだけを転売する、いわば、原価の横取りなのである。

これをやっている限りは、転売ヤーに対する世間のマイナスなイメージは決して消えない。

そりゃ、「乞食」と言われて当然である。

仕入は誰だって怖い。

バイヤーは常に「売れなくて在庫を抱え込んでしまうのではないか?」という恐怖と責任を背負い、そして、その危険を出来るだけ回避しようと、日々、商品を分析する必要に迫られる。

一般小売店のバイヤーは、長年かかって習得した相場観

博打うち的な勇気

商品知識

価格動向

社会経済情勢

財務分析

消費者の反応など、

「決して一日では成り立たない感覚と理屈」を駆使して仕入の決断をする。

しかし、私たちのようなせどらーは、この血のにじむような努力で決定された一般小売店の仕入価格を、ブツルートを使っていとも簡単に、しかも一瞬で横取りしていたのである。


したがって、ブツルートがなくなるということは、あの小売店のバイヤーがやっていた血のにじむような努力と学習を、今度は、我々せどらー自身がやらなくてはならなくなるのである。

そんなのムリだ。

そんな頭あるわけない。

そんな学習能力があれば、はじめから真面目に小売店のバイヤーをやっている。

その判断力と決断力と勇気が無いから、後出しじゃんけんをやっているのである。

ブツルート無しで仕入をする勇気はない。

勉強する根気もない。

商品を分析する頭脳もない。

つまり、何にもない……。

そう、なああああああんにもないッ!。

そういうやからである、私たちは。

そういう輩の集まりなのである、我々の会社は。

後出しじゃんけんだからやるのである。

ギャンブルする勇気が無いからやるのである。

すぐに簡単に利益が取れるからやるのである。

少ない資金で手軽に始められるからやるのである。

失敗してもリスクが少ないからやるのである。

そして、何よりも、組織に属さず人間関係から逃げられるからやるのである。

「会社組織で真面目に汗水たらして働きたくない」、

私たち転売ヤーという人間は、そういう種類の人間なのである。

みなさん、どうぞ、いくらでも我々のことを「クズ人間」と言ってほしい。

こちらもそれを開き直って重々承知でせどりをやっている。

魔法のアプリ、ブツルートが総てで、命だ。

中には、ブツルートを使わないで、商品知識で勝負しているせどらーも少数ではあるが存在する。

ブツルートが存在する前から転売をやっている人間たちだ。

しかし、彼らも、今では、自分の嗅覚で仕入れ判断を下した商品でも、最終確認でブツルートを見ている。

絶対、一回は見ている。

どんな10年選手の大ベテランでも最後にはブツルートを見て、レジへ商品を持っていく。

それほど、ブツルートとは、多くのせどらーにとって必要不可欠で絶対的なツールなのである。

そのブツルートがなくなると聞いて、私は失禁した。


仕入なんてとても出来ない……。

一般小売店のバイヤーなんてなれない……。

そんな頭脳はない……。

スマホを立ち上げてブツルートのサイトを開くと、マジで「A氏による終了の知らせ」が、赤の太字で警告文のように記されていた。

原因は、ジャングル側から「規約に違反する」との厳しい追及を受けたらしい。

P情報を抜き取っていたことか?、明確な理由は何も説明されていない。

しかし、私は、そうではないと思う。

間違いなく、パンデミック下での悪質な転売行為に対する国の締め付けだと確信する。

我々は暴走しすぎた。

そして増えすぎた。

これは完全なせどりバブルの崩壊だ。

自業自得なのかもしれない。

ツイッターを見ると、真偽をめぐって、みんな、パニックになっている。

ウソだ!とがなり立てている。

辞めるな!と悲鳴を上げている。

14時にはついに、ネットのトレンドワードの1位に躍り出た。

「ブツルート?、何それ?」

せどらー以外の人間が騒ぎ立てている。

ユーチューブでは、早くもせどらーユーチューバーによる緊急動画が立ち上がっている。

コメント欄を見ると、せどらーが、みんな、むさぼって見ている。

みんな叫んでいる。


代替だいたいツール開発の説明をする者。「安心しろ」と言う。

無理だって。精度が圧倒的に落ちる。

代替にならない。

もし代替アプリが出来たとしても、ジャングルに潰される。


②「商品知識を身につけ、自分自身をレベルアップさせよう」と鼓舞する者。

アホか。

それが出来るなら初めからせどらーやってないって、小売店やってるって。


③「終わった……」と嘆く者。

いちいち動画に上げるな見苦しい。


④そして、強がり動画を上げる者。これが一番多い。

要するに、「ブツルートの閉鎖によってせどらーの9割以上が廃業に追い込まれるだろう。だから、これは、ライバルが減ってチャンスなんだ」と。さらに「自分は初めからブツルートに頼ってせどりをしていない、商品知識で勝負しているから大丈夫」などとほざく。

バーカ。お前らこそライバルが増えるんだよ。

仮にみんなが商品知識を身に付けたら、お前の土俵にみんな込むんだぞ。

事の重大さを俯瞰して見れていない。

第一、弁明動画をこんなに早くアップしていること自体、焦っている証拠なんだよ。


⑤廃業の勧めをする奴もいる。

ヘタレだが、これが正しい。

「足を洗って転職すべき」だと……。

じゃあ、どこに?。

こんな組織不適合者の我々が……。

いったいどこに……。


⑥少数だが、発想を変えて「ジャングルでの転売からフリーマーケット市場へ移行すべきだ」と説く者もいる。

確かにね。

でも、ギャンブル性が増すぜ。

今までの、麻薬のような後出しじゃんけんは出来ないよ。


⑦そして最後は宗教じみる。

「いまこそ立ち上がるべき。一緒に乗り越えよう」だと……。

ただでさえ人一倍他者たしゃを信用できない烏合の衆のやからたちが一致団結まとまるわけねえだろ、バカ!。


どうやら一時代の終わりが来たようである。

バブルがはじけた。

カウントダウンの足音が聞こえる。

時間が経つにつれ、冷静に客観視できる。

「誰かに助けてほしい」とは思わない。

「誰か愛情を注いでくれ」とも思わない。

「誰か別世界に連れてって」とも思わない。


「こんなもんだな」


と諦観するのみである。


ガックリ頭が垂れた……。

今日はオフの日。

いつもなら会社でバリバリ働いている。

会社……。

社長はどうしているのだろう?。

どうするのだろう?。

セミナーの内容変更を余儀なくされる、と言うより、セミナー自体の存続が無理。

ウチの会社の場合、講義内容はブツルートの操作方法が総てだったのだから。

その先の裏ワザは絶対に教えない。

ライバルを増やすことになるから。

セミナーはあくまでもブツルートまで。

あとは、自己啓発と精神論でごまかしていた詐欺商法なのだから。

いまさら「商品知識を身に付けてください」などと口が裂けても言えない。

くどいようだが、それが出来たら一般小売店になってるって、

転売ヤーなんてハイエナ稼業やってないって。

すぐに楽して利益を上げたいから我々はせどらーを選んだのである。

しかし、もう、その楽園は無い。

セミナーの存続は無理だ。

だとすると、セミナーなくして会社は持たない。

セミナーの受講料・合宿料で会社は存続していた。

倒産だよ、これは……。

私は、シャワーで失禁した身体を洗って、会社へ向かった。


ゴーストタウン……。

枯れすさんだ売春宿……。

泣きじゃくる女……。

うなだれる泥男どろおとこ

酒盛りする狂った若者。

荷物まとめて出ていく現実主義者。

会社は抜け殻になっていた。

そりゃそうだ。

ブツルート=命だ。その命が奪われた。

具体的に「ローリスクハイリターン」が奪われた

「時短と効率化」が奪われた

「不良在庫を抱えない保証」が奪われた

そして「ギャンブルで仕入れない精神的安定」が奪われた……。

早い話、総ての生活の支えが奪われた。

もう、商売できない。

それぐらいブツルートは我々の物理的精神的支柱だった。

仮に、これから自分の商品知識だけを頼りに仕入をしたとする。

しかし、確実に今までのような安定した利益は到底得られない。

間違いなく赤字と不良在庫に追われる日々が待ち受けている……。

蓄積する「返せるはずもない借金」……。

そしてたどりつく自己破産……。

そして、The End。

そう……、終わった。

負けだよ。

今までの贅沢な暮らしと有り余る時間は崩壊した。

金、仕事、セックス。

きらびやかな毎日。

思わず左手首に巻かれたロレックスを見やった。

もう、元のバラ色の生活は戻ってこない。

お先真っ暗。

私は、黒く重い未来を覚悟した。

また税金に追われる生活かよ……。


社長がやってきた。

穏やかな足音である。

私は思わず反射的に振り向いた。

見ると至極冷静な表情をしている。

スーツも取り乱さずカチッと着ている。

髪の毛も整えられていて顔面の血色もいい。

いつもと変わらずいたって普通だ。

そんなものか……。

案外そうかもしれない。

ブツルート閉鎖は散々噂されていたからな。

想定内の結果だったのかもしれない。

しかし、会社存続の危機だ。

いったい何を話すんだろう。

残った連中みんなが飛び付いた。

社長は、とりあえず今できることを淡々と話した。

具体的に、今日のセミナーの中止を宣告し、受講予定の人たちに至急連絡するように指示した。

そして、事務員に、すでに振り込まれている受講料を全額返金するよう指示して警察沙汰になるのを回避した。

そして、今後の、いっさいのセミナー中止をホームページに上げるように指示した。

それが終わったら、コミュニティに属するせどらー全員、ネット上の発言および動画のたぐいを総て削除するよう命令した。

そして、「明日からの方針をめぐって会議に入る」と言い、幹部社員数名とミーティングルームに入っていった。

会議って何を?。

いまさら話し合うことなんかあるのか。

ブツルート亡きいま、残されるのは廃業一択である。

ほかに何が?。

あったら教えてくれよ。

思わず文句が口から垂れ落ちそうになる。

しかし、うだうだ言ったって仕方がない。

動くしかない。

とにかく私たちは残務整理に取り掛かる。

セミナー中止告知

返金作業

SNSのアカウント停止

そしてユーチューブの削除。

すげえ動画件数……。

よくもこれだけ撮ったものだ……。

一件一件、今までド派手に着飾った動画を消していく。

海外旅行の動画

高級バッグを買った動画

イケてない人間たちを馬鹿にした動画

偉そうな自己啓発の動画。

みんな消していく。

馬鹿やってた……。

これが私という人間だよ。

地に足が付いていない。

イキがって世の中を見下した結果だ。

「いつかの日・もしもの日」の備えを何もしない。

低脳としか言いようがない。

そして、調子づくとすぐに国から叩かれる。

そりゃそうだ。これがまかり通るなら、世の中から生産活動をする労働者が消える。

私は「0から1を作る人間」ではない。

「1から2でもない」。

「1から1の横流しもの」だ。

一般小売店のバイヤーというライオンが獲った獲物の残りカスを横取るハイエナだ。

これが結論。

原価の横取りハイエナだ。

自分で危険を冒して狩りをしない卑怯者。

自分で考えて原価を決めない。

「明々白々なパクリ」。

この決定的な理屈がある限り、世間の、転売ヤーに対するダーティなイメージは消えないだろうし、消せない。

モノを生産しないのだから。

社会や教育に利益を還元しない。

あるのは、ひたすら自分の利益だけ。

でも、副業解禁でせどりバブルを作ったのは、お前ら軟弱な世襲政治家じゃないか、

そして、給料を上げない経済界じゃないか。

でも、これを言ったらおしまいだ。

これを言っちゃあ、ダメ。

でも、今……、ほんと……、もう……、その「おしまい」に片足突っ込んで抜け出せない状態に陥っている。

きつい……。


総ての残務整理が終わって会社を出た私は、珍しく、以前、工場の連中とよく行った全国チェーンの食堂に入った。

そして、よく食べていた「肉野菜炒め定食」を注文した。

そして、ただ掻き込み食った。

メシの味なんかしない。


疲れた……。そして面倒くさい……。


油ぎった大衆食堂と金ピカのロレックス。

残酷すぎる対比……。

負けた。

また負けだよ。

しかし、後悔はない。

こういうチンピラ人生だ。

ただ、国に対する恨みはある。

高すぎる税金どうにかしろよ……。

生きるのが辛い。

稼ぐのがきつい。

息を吸うのも疲れる。

現状を把握して、それを処理しようとしても出来ない。

まるで、兵役に取られたようだ。

税金徴兵。

泣ける……。


独りの部屋にたどり着いた。

水道水を飲んで、それだけ……。

ソファーにへたり込む。

大回転の日。

忘れられない日。

この疲れは数日後、どっと押し寄せてくるだろう。

それを考えるとゾッとする。

工場を辞めたときがそうだった。

やれやれ、明日、全体会議だという。

話し合うことなんかない。

廃業しかない。

社長もそれは判っている。

組織が大きくなりすぎた。

組織を大きくする業種ではない。

だから、必然的に国家につぶされた。

社長は、明日、何を話すのだろう?。

考えても仕方がない。

寝る……。

と思ったら11時過ぎ、突然、電話が鳴った。

社長からだ。

(最終回につづく)

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