第17話 それぞれの事情を胸に


「あらぁ? 加村さんは蓮さん贔屓だから、気づかなかったとか?」

「何でそう思うの、冴衣ちゃん!あんまり適当なこと言うと……」


「もしかして? と思ってから、金曜、今日と見て感じただけ、なんだけど。蓮さんが休んだときはアヤネさん明らかに元気がなかったし、今日、蓮さんが現れてとても嬉しそうだったじゃない」


「でも、それくらいで……」

「それにあの人、蓮さんが近くにいる時は、チラチラこっちを気にしてる」


「でも先輩は、あくまで、友達として好かれてるだけだって……」

「蓮さん、鈍そうだから、アテにならないと思うけど」

「そ、そんなことは……あるかも……?」


「ま、生徒会長さんに、直接聞ければ完璧なんだけどなー」

「それだけは絶対止めて!!」

「痛っ……なんで?」


「なんでって……冴衣ちゃんってさ、恋したことないでしょ」

「はぁ?! 何で分かったの?!」

「あ、否定はしないんだ……だって自分が恋してたらさ、そんなズカズカ踏み込めないよ」

「…………」


「え、黙られると……どうしたの」

「あー……そういえばそうだったの、思い出した」

「何を……」


「昔、『好きな人がいない』って理由でバカにされたことがあったの。……なに。そんな顔しないでよ。今の今まで忘れてたんだから」

「あ……それは、私が無神経だったね……ごめん、私、冴衣ちゃんのこと散々言っておいて……」

「私は気にしてないって。そんなの言わないとわかんないし、言わなきゃわかんないことにイチイチ気を回してたらキリないでしょ。だから、私は言いたいことは言いたい時に言うの」

「…………そうだったんだ」

「特に、仲良くしたい相手には、ね。でもそうやって人と仲良くなれたことなんてなかったから、私のやり方は間違ってるのかも、って、思ってた、でも」


「加村さんは、私の正直に、正直を返してくれて、嬉しかった。……ありがとう」

「冴衣ちゃん……」


「さ、湿っぽい話はこれで終わり。蓮さんたちのデートの話に戻りたいんだけど」

「う、うん……」

「ほら、B組のこの企画。面白そうじゃない?」

「……見せて」


「あと、これも! 楽しそうでしょ? 私たちが行きたいくらい」

「冴衣ちゃん、趣旨変わってるよ」

「ふふ、早く当日にならないかな」

「何だかんだで冴衣ちゃんが、一番楽しんでるような……」







(えーと、生徒会室、と……相変わらず広い学校だなぁ)


「あ、アヤネちゃーー」


(奥で打ち合わせ中かな……すっごく真剣そう)


「どうかされましたか? 会長に用事ですか?」

「あ、いえ、ただ備品を返しに……」

「でしたら、私がお預かりします」


(結局、アヤネちゃんとは話せず。あんなに忙しそうじゃ、無理もないか)


(そもそも会えないんじゃ、気まずく思われてるかどうかすら判断できない)


(これから、もし3年生になって、更に受験とかも始まったら……どんどん会えなく、なるのかな)


(欲しい。アヤネちゃんと、堂々と会える権利が)


(アヤネちゃんの時間が、もっともっと欲しい……)









『ーーこれにて、逢杏・静早水川による合同学園祭をーー』



「始まりましたねぇ」

「始まったね」


「本番まであっという間でしたね。この後、冴衣ちゃんと合流して、午前中は見回りの仕事ですね」

「……そうだね」


「静早には、警備員が常駐しているらしいので。見回りといっても、何かあったら警備員さんを呼ぶだけですし」

「……うん」


「まぁ、学園祭でそんなに大きなトラブルもないのでは、と……先輩?」

「はっ、何?」


「……何だか、ボーッとしてません? 今日だけじゃなくて、ここ最近、学園祭の日が近くなるごとに何だか……」

「何言ってるの、普通だよ普通」

「そうですか?」


(あ、あれ……環がそう言うってことは、やっぱり態度に出てるのか……?)


(そりゃ緊張もするよ)


(私は、この学園祭で、アヤネちゃんに……)


(こ、こ、恋人になって欲しいって言うんだから…!!!)





「あーっ!」

「ど、どうしたの環。大声出して」

「お財布、バスの中に忘れてきてしまいました……」


「え、悪い人に持ってかれる前に、取ってきた方がいいんじゃない?」


『では、見回りの方は腕章を取りに来てください』


「あ……こっちは私が行っとくから。お財布取ってきなさい」

「すみません、先輩」





(良かったー、こっちの荷物にちゃんと入ってた)


(さ、先輩のとこに早く戻ろう)



「……ん? あれって……」


「冴衣ちゃん、と、外部の生徒たちかな?」



「エッ、サエじゃん。久しぶりー」

「あ、あー……久しぶり?」

「元気してたー?」


「だれ?」

「中学の時、クラス同じだったサエ」

「そうなんだ。可愛いね」

「ね、でも身内の中でこの子だけカレシいなくてさ、フシギだよね」

「うそー? 可愛いのに?」

「そうそう、あー、そうだ。アレ、サエも誘っていい?」

「いいじゃんいいじゃん」


「え、なに?」

「ね、サエが今もまだカレシいない残念なサエだったら、今度ウチら東高とカラオケするんだけど……」

「は? あのさ……!」



「冴衣ちゃんっ!!」


「あ……加村さん」


「仕事サボって何してるの、来て、行くよ!」

「ちょ、ちょっと、痛いって……!」



「あ、サエ……」

「あはは、じゃあねー、カラオケは他の人誘って!」





「…………」

「…………」



「……加村さんって」

「ん?」

「加村さんって、わりと格好いいのに、どうして振られてばっかりなんだろ……」

「助けてあげたのに第一声がそれ?!」


「ううん、ありがとう。いつもの駐輪場がいっぱいだったから、こっちまで来たら、ヤな奴らに絡まれちゃったな」

「私も見てて苦い気分になっちゃった。あ、駐輪場の隅っこ、バレーボールある。……よいしょ、っと……」


「なに、急に壁打ち?」

「自転車に、ぶつからないようにしなきゃ」

「ホントはあいつらにぶつけてやりたかった?」

「さすがにそこまで野蛮じゃないよー」



「……ねぇ。サーブの腕、全然落ちてないじゃない」

「あはは、なんか無性に身体を動かしたくて……前までは、ボール見るのも、嫌だったのに」

「続けないの?」

「……それは、考えとく」

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