第12話 後輩の相性最悪の出会い


『きゃー、加村さんすごーい! 3年生に勝っちゃった!』

『えー、あっちの子強ーい! かっこいいー』

『ちょっと、どっちを応援してるの』


『すごい……加村、環さん……』







「え、ごめん、覚えてないです」

「…………うそ」

「…………ほんと」


「……信じられない! 私、あなたみたいな凄い選手、初めてで、ずっと倒したいって思ってたのに……」

「あ、ああ、北女ですね! よ、よく試合をしてたのは覚えてます」

「何そのフワッとした記憶!」

「いや、えーっと……そもそも、私、もうバレーはしていなくて……」


「……ますます何それ! あなたみたいな強い人が、どうしてそんなもったいないこと……」

「あ、あの! 私は学園祭の準備で来ていて、もうそろそろ集合時間で……」

「知ってる」

「え?」

「同じ班、でしょ。よろしくね」





「へぇー、環の中学の時の友達!」

「うーん……友達と言えるほど親しくはないですが……」

「有原です! よろしくお願いします!」


(有原ちゃんって可愛い子だね、環)

(は、はぁ……)

(環が、同年代の子と喋るところ、初めて見るかも)


「ところで蓮さん」

「ん?」

「喉、かわきませんか? この学園には自販機がありますから、私、何か買ってきます」

「え、いいの……? じゃあお願いしようかな」

「はい! それじゃ少し外しますね。……加村さんも、ついてきてくれる?」


「あれ? 私も行く流れですか?」

「いいじゃない環。せっかくお友達と会えたんだから、一緒に行ってあげなさいよ」

「先輩、なに保護者みたいな目をしてるんですか!」

「すみませーん、お気遣いありがとうございます。ほら、行きましょ」

「わ、わかったよ……冴衣ちゃん」 





(って、環たち出てったけど、遅いなぁ……)


(ん?なんか激しい足音が……)


「もう知らない! ついてこないで!」

「か、加村さん…! あなた、足速すぎ……」


「え、どういう状況?!」

「先輩!」


「私、この子苦手かもしれません!」

「えぇっ?!」

「はぁああああ?!」





「二人とも、もう落ち着いて? 突然喧嘩されても私には何が何だかわからないし……」


「先輩! 班を変えてもらいましょう!」

「だから、何か気に障ったんだったら謝るって言ってるでしょ! どこが悪かったのか、教えてくれてもいいじゃない!」

「そういうところが嫌なの!」

「はぁ!?」

「何か!?」


「ふ、二人とも!」


(あの温厚な環がここまで言うなんて、いったい何があったの?!)


「もう話しかけないで!」

「なっ、それならこっちこそお断りなんだけど!」

「こっち見られるのも嫌だから!」

「誰があなたなんか!」


「こ、子供のケンカだわ……」



「皆、どうかな? 進んでる?」



「あ、アヤネちゃん」

「あ、生徒会長さん」

「あ、逢杏の会長」



「……えっと? もうそろそろ、帰りのバスの時間だよ」





(結局、環と有原ちゃんはギクシャクしたまま)


(その日は解散になった)


(どうして突然険悪になったのかはわからない)


(環は、「単に気が合わないんです!」の一点張りだし)


(私も、それ以上詳しくは問いただせずに)



(皆それぞれ帰路についた……)









アヤネの部屋


「これが、静早の映像研究会の脚本……」


「よ、読んじゃう……よ?」


「うんうん、幼なじみの二人が大きくなって再会する所から始まるんだ」


「へぇ……」


「今のところ、普通の学校生活って感じだなぁ」


「ふーん……」


「うん」


「あ、手違いで倉庫に閉じ込められちゃったよ」


「えっ」


「ひゃっ……あぁ」


「ひゃああぁ?! まさかそんな展開に……?」


「そんなことまで?!」


「ふぁ……」


「これって、役者さん同士がほんとにするの……?」


「………………」


「……」



「……うう……読み終わった」


「ハプニングからお互いの気持ちに気づいて、ハッピーエンドっていう、良いお話だったけど」


「これは、静早の会長さんが険しい顔をしてた理由が分かる気がするなぁ……」


「わ、私の意見、かぁ……」


「私、なんて答えればいいんだろう……」





冴衣の部屋


「まさか、南女の加村環があんなに話の通じない子供だったなんて!」


「試合で見たときは、すごく格好良かったのに」


「いったい何だったの」


「バレーを辞めた理由について聞いた途端、態度が豹変して」


「……あんなに機嫌を損ねるなんて」


「……まさかとは思うけど」


「信じてなかったけど、あの噂、本当なのかもね」


(加村環は、チームメイトに振られて…………)





環の部屋


「……今日は、先輩を困らせちゃったな」


「冴衣ちゃんが悪いわけじゃないのに、あんなに当たり散らして、私、何やってるんだろ」


「明日も、準備、あるんだよね」


「ちゃんと、元気に謝れるかな」


「……気まずい、なぁ……」





蓮の部屋


「むにゃ……アヤネちゃん……かわいいよ……」


「むにゃああああ…………」

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