ハイブリッドの狩り人

Rapu

高校生活の始まり

◆プロローグ

『ぐがっ、ぐあああぁぁ――!』


 町から離れた森の中で、男の断末魔の叫び声が聞こえた。


 そばには、黒い服に身を包んだ3人の人影が見える。一人は刀を持ち、もう一人は大鎌を持っている。残る一人は、武器は持っていないが手に何かが巻き付いていた。そして、断末魔の声の持ち主が消えゆくさまを見ている。


 横たわる亡骸は、氷が解けるように崩れて地面に吸収されていく……。


 シュ――……


「もう良いかな。さあ、帰ろうか。明日、早いんだよな」

れん様、荷物は準備されたのですか?」

「いや、サーマ、こっちの荷物は置いて行く。着替えだけ持って行くよ」


 サーマと呼ばれた真っ黒な大鎌を持った男は、魅惑的な声で「では、向こうに到着したら買い物ですね」と答える。


 その男は、185cmはあるだろうか……背が高くて、輝くプラチナのような髪を後ろに束ねて、冷ややかな銀色の瞳をしている。月明りの下でも、この世の者とは思えない整った顔で、美形・イケメンと呼ばれる西洋人の顔立ちをしている。


「蓮様、家具や電化製品はあちらに備わっているんですね」

「ああ、そうらしい。日用品はあっちで買おうと思っているから、アスタ、買い物に付き合ってくれ」

「勿論です。やっと蓮様のお世話が出来るんですからね。フフ、蓮様、お揃いのパジャマを買いましょうね」

「パジャマ……アスタ、パジャマよりジャージが良いな」


 アスタと呼ばれた女性は手に何かを巻き付けていた。それを優しく撫でながら「蓮様」と呼んだ相手を愛しそうに見つめている。


 女性の中では背が高い方だろう。彼女の波打つ金色の髪が、月の光に照らされてキラキラと輝いている。大きな漆黒の瞳が宝石のように輝いていて、女神ではないかと思うほど美しい顔だ。光沢のある黒いタイトなマーメイドドレスが、女性らしい魅力的な身体を包み込んでいる。


「では、お揃いのジャージにしましょう」

「ああ、ジャージならアスタの好きなのを選んで良いよ」

「蓮様、嬉しいです。フフ」


 蓮様と呼ばれた青年は、女性と変わらない背丈で、黒髪・黒目の幼さが残る普通の……どこにでもいそうな日本人の顔をしている。


「蓮様、今日もペンダントを付けてらっしゃいますが、魔力操作は出来るようになりましたか?」

「サーマ、練習をサボっている訳じゃないんだが、まだ上手く出来ないんだ。あっちでも、ペンダントを付けたままで良いんじゃないか?」


 彼が付けているペンダントには、認識阻害を起こす魔法が掛かっていて、本当の姿と魔力を隠していた。


「森の中でしたら別に構いませんが、街中だとあちらは人が多いですからね。狩りの時、誰かに見られるかも知れませんがよろしいのですか?」

「それは困るな……平穏な学生生活を送りたいから、魔力を隠せるように頑張るよ」


 彼はペンダントを外すと全くの別人……いや、本当の姿になる。誰かに見られても、それがペンダントを付けている『蓮』と同一人物には見えない。そして、彼が持つ魔力も見えてしまう。


「蓮様、見られたら始末すれば良いのでは?」

「アスタ……それはダメだ。俺達が狩られる側になってしまう……」

「蓮様、それも楽しそうですよ。フフ」

「ハハ、違いない」

「ダメだよ。そんなことになったら……考えたくもない。2人とも、一般人は巻き込まないように!」


 彼は何を想像したのか、険しい声で2人をいさめている。


 彼の姿や魔力に惹かれて、人間や人間ではないを呼び寄せないように、彼は幼い頃から肌身離さずペンダントを付けている。


 それでなくてもこの辺りには、代々神社を守る神職や巫女を出す家があちこちにあり霊力を持つ者が多い。魔力も霊力も奪えば力となり、その血肉を求めるモノが寄って来る。


 彼が一緒に住んでいる祖父母も、元神主と元巫女で霊力を持っている。住んでいる屋敷には、結界が張り巡らされていて、余程の強い魔物でない限り敷地に入ることは出来ない。そして、母屋には血筋の者しか入れない結界が張ってある。


「依頼完了のメールを送ったら帰ろう。サーマ、さっきの獲物はリストに載っていたか?」

「いえ、蓮様。リストには載っていませんでした」

「そうか、了解」



 彼らは、『狩り人』として人間ではない……魔物と呼ばれるモノを狩っていた。


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