お付きの令嬢が追放され、仕事を失ったメイドの行きつく先は

にがりの少なかった豆腐

職なしメイド

  

 賑かな街中を沈んだ気持ちでとぼとぼと歩く。


 行く先は街外れにあるぼろ宿。王都にも関わらず誰も見向きもしないような宿があることに疑問を抱くが、今の私にとってはありがたいことでもある。


 少し前まで私は公爵家のメイドとして働いていました。

 公爵家のメイドとして、成人したての私が採用されたことを少し怪訝に思いながらも、家を出なければならなかった私は給金もいいこともあり即決でその結果を受け入れたのです。


 一応私も貴族の家の出です。

 伯爵家とはいえ、3女となればそういい嫁ぎ先がある訳でもなく、さらに言えば私の実家は伯爵家としては資金がそう多くはありませんでした。

 次女である姉まではまともな嫁ぎ先を確保できていたのですが、私になると伯爵家以下、子爵もしくは男爵家に嫁ぐしかなかったのです。別にその先にいる人が良い方であれば気にせず嫁いだでしょうけれど、親が紹介するような裕福な子爵家男爵家となると、まあ、良い相手はいませんでした。


 なんというかこの国の貴族の一部は腐っていると言っても良い程度には質が悪いのです。私の実家もその中に入っていると思います。まあ、その中でもマシな部類だったとは思いますが、何事にも外聞を気にし何をやるにも伯爵家然と繕うことに全力を尽くすのです。ただでさえ厳しい家計を悪化させ、末娘の私に回す資金がとうとう尽きました。


 結果、私は家を出て仕事をすることになったのです。しかも両親は家を出ている私が仕事で得た給金の一部を仕送りするように言い出す始末で、そうしなければ一族から追放すると言い出されたのです。当然、私に拒否権はありませんでした。


 一族から追放されるとこは貴族ではなくなるとと同時に何か罪を犯した者と世間から認識され、そうなれば仕事を探すことも難しくなります。


 それで公爵家のメイドとなり、半年ほど働いたところで今。


 公爵家のメイドになったのにどうして今こうして居るのかといいますと、それは私が公爵家のメイドとなりそこで仕えていた公爵家の令嬢様があろうことか国王に不敬を働き、国外追放されてしまったからです。その影響で公爵家の悪事が露呈し、降爵の結果伯爵位まで地位が落ちました。

 そうなればそれまでのように数多くの使用人を雇うことはできません。さらに国外追放された令嬢に仕えていた使用人など継続して使うことなどありえないのです。


 そうして私は職なしのメイドになったのです。


 しかも、追い討ちの如く実家から一族追放の通達があり、極力そうならないようにと立ち回っていたにも関わらず、私は最悪の結果に辿り着いてしまったのです。


 それで私は現在、今までもらった給金の残りと最後の給金を切り崩しながら、私は新しい仕事を探している最中というわけなのですが、職探しは難航しています。


 先に言ったように家から追放されれば犯罪者と見られることもあり、良さそうな貴族家のメイドとして雇ってもらうことができません。しかも、国外追放された公爵家令嬢に仕えていたとなれば、あまり良い噂のない貴族家すら何色を示すほどなのです。


 ならばと商人に仕えてみようとすれば、また同じような反応を示されます。どうやらあの公爵家の関係者だったことが影響しているらしいです。


 あの公爵家は平民にすらあまりいい印象を持たれていなかったのは初めて知りました。まあ、傲慢で他の貴族にも威張り散らしてい流ような公爵家という傘にきた人たちの集まり……いえ、1人だけまともな人がいましたね。


 養子ではありましたが公爵家に属するにも関わらず、他の家の者にも分け隔てなく……敵対さえしなければ誰でも同じように対応してくださる方でした。

 あの事件と同時に国外へ行ってしまわれましたが、国籍はまだこの国にあるようですのでいずれ戻っていてくださるのでしょう。


 あの方に仕えることができていればこんなことには……

 まあ、そもそも私が公爵家のメイドになれた理由が、それまで仕えていたメイドがいなくなったからであって、当然、そうなったのは国外追放された公爵家実子の令嬢の方です。

 本当にあの時は安易に給金に釣られず、他の貴族家に仕えようと思えればこんなことにはなっていなかったでしょうに。ただでさえ、元から良い噂がなかった公爵家だったというのに迂闊なことをしたものです。

 これに関しては自業自得でもあるでしょうか。


 はぁ、今更こんなことを考えたところで何が変わるわけないのですけれどね。


 しかし、本当にどうしましょうか。

 このままでは手持ちのお金が尽きるまで仕事が見つからないかもしれません。残された選択肢は傭兵ギルドに登録して依頼を受けるか、娼婦になるしかないのかもしれません。


 正直、どちらも嫌です。傭兵の方はやる分には問題ないのです。ただ、傭兵という仕事は一つの場所に留まることはできません。留まっている傭兵もいるにはいますが、その地元の有力者の知り合いがいて依頼を率先して流してもらえるような人たちだけです。私のような地元で悪評が立っているような者にはできないことなのです。


 娼婦は本当に最後の最後に選択するような職種です。はっきり言ってなりたくはないです。


 今、私はこのような状態ではありますが結婚はしたいのです。傭兵もそうですが娼婦はそんなことをすることはできません。子供は産めるかもしれませんが、誰の子かわからないような子を産みたいとは思えませんし、産んだら産んだで生活が苦しくなるだけです。


 だから他の仕事を探しているのですが、ままなりませんね。

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