汚れたいだけ

風早れる

Prologue

 淀川大橋の欄干にもたれかかった時に僕の瞳を擦る夕日は、何の取り柄もないこの街を彩る唯一の有形文化財だと思っていた。しかし、それすらもう焼け落ちて、肌にできたシミのように、汚らしく黒ずんでいる。「うつくしいもの」とは何か、を思い出したくてここまで足を運んだのに、目に映るのは、もはやゴミ処理場にも近い景色。

 そんな落胆の雨に打たれながら欄干に腰掛け黙り込む僕の前を、2人の女子高生が僕の方を眺めながら自転車で軽やかに駆けてゆく。恐らく彼女達は、何でここに人がいるんだろう、早く渡ったらいいのに、くらいにしか考えていないのだろうが――それを実は理解しているのだが、彼女達の視線は、僕を非難し、今すぐにでも消し去りたいような想いを感じてならないのだ。さしずめ、僕は社会のお荷物、不純物、不協和音であり、世界遺産の横に立ち並ぶ巨大SCのような、そこに存在する事で美しい景色を台無しにする最悪な存在として僕を認識しているように感じてしまう。

 その横を走る車道もそうである。40キロ制限の道を70キロくらいで駆けるその姿には、僕をいつ殺してやろうか、でもここで殺すと俺まで死ぬから今回は勘弁しといてやる、と言わんばかりの強迫観念を感じる。もちろん、当の車本人にそんな気持ちなど更々ないのは承知の上で、だ。

 それほどまでに、僕の心は追い詰められていた。

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