暗闇の中の希望の光

ゆりえる

第1話 大地震の爪痕

 IT社会の進んだ現代でも、先鋭達がどれほど大人数で集まっても、天災を前にすると、あまりに非力だった。


 М9.2震度7強という震災級の大地震が発生して、今日で既に1週間が経過していた。


 折り畳みテーブルをいくつも積み上げ、隙間だらけだが、着替えや授乳用のスペースだけ確保が出来た小さな公民館に、所狭しと詰めかけた町の人々。

 ライフラインの止まった環境、トイレは水が流れないにも関わらず、無理矢理使用した心無い者達によって悪臭が込み上げ用途を成さず、町の面影が無くなり、がれきのみで荒れ果てた屋外で、人々は物陰に隠れ排便を強いられていた。


 皆が、あれほど肌身離さず所持していたスマホは、wifiも繋がらず、充電も早々に切れ、今やただの玩具以下になり、その便利さに慣れた人々の息が詰まりかけていた。


 それでも、昼間は、陽が射して明るく、公民館の様子が見渡せて良い。

 

 夜の帳が降りると、どこに何が有るか分からず、あちこちから悲鳴やざわめきが上がり、安心して眠るには程遠くなる。

 月明かりだけが頼りだったが、地震が発生したのは下弦で、今日は新月、月明かりからも見放されていた。

 そんな夜も更けた頃、


「お医者さんや看護師さんはいますか?妻が、産気付いたんです!」


 時間も分からない暗闇の中で、大きな声を上げる男性。

 返事はどこからも聴こえて来ない中、身重女性が陣痛の痛みに耐えられずにあげた声だけが響く。


「現役じゃなくていいんです、お産について学ばれただけの方でもいいので、どなたかいませんか?」


 返事は聴こえない代わりに、暗闇の中から、足元を確かめるように近付いて来る足音が、身重女性の苦しそうな息遣いの合間に微かに聴こえた。


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