第4話 金属探知機

 金属探知機をご存知だろうか?

 空港でゲートをくぐった方もいるだろう。

 もしくは、係員になにか丸いバーを体に当てられた方もいらっしゃるかな?


 茨城の倉庫にはありました、金属探知機。


「倉庫に金属探知機…?」

「侵入者のチェック…? まさか…」

 僕もなんでそんなものがあるのかな…、思っていました。


 これ、品質管理部の横の検品室にあったのです。

 1メートル幅くらいのベルトコンベアをまたぐ形で、ゲートみたいになっていて、高さは40から50センチくらいあったかな…。

 常時使用していました。


「堀さん、ちょっと検品手伝ってあげて…」

 センタ―長からお願いがありました。


「フォークできる人が出払っててさ…」

 免許とりました、フォークリフト。

「いいですよ…」

 僕はヘルメットと軍手を用意してフォークリフトの置き場に行きました。


「これ、7パレット、今日中国から入ったぬいぐるみなんだ…」

 品質管理室、検査グループの小倉さんが僕に言った。

 僕より10歳くらい年上だけど髪も黒く若々しい人だ。

 品質管理室ってメーカーでは重要な部署なんです。人数も多いですね。

 ここ筑波には検査グループの人が勤務しています。

 小倉さんとあとお姉さまが6人くらいいました。


「悪いね、みんな出払っててさ…、センター長に言ったらね、堀ちゃんがいいってさ…」

 申し訳なさそうにしている。

「いいですよ…、大丈夫です。他のみなさんほどフォークはうまくないですけれどね…」

 僕は年長者に敬意を払いながら応えた。


 まずは僕がフォークでぬいぐるみのケース箱が載ったパレットを検品室の前に置き、そのパレットからケース箱を手作業で下ろして並べます。

 検品室ではお姉さま方が、ひとつずつ、本当にひとつずつケース箱から個箱を出して例のベルトコンベアに載せます。

 ベルトコンベアの上を製品は流れていき、途中のゲートをくぐります。

 先ほども書きましたが、そのゲートが探知機になっています。

 金属に反応すると警告音がなります。

 当然、その場合はコンベアを止めてその製品を不良というか細かい検査に回します。


 異常なしの製品はコンベアの先に行き、そこで人力でケース箱に入れられます。

 空のケース箱をコンベアの前から後ろに運ぶのは別のベルトコンベアです。

 検査後の個箱が入ったケースに検査済みの印が押されて、パレットに積みあげられます。

 そのパレットを僕がフォークリフトで本来の保管場所に棚入れしれます。


 そんな流れですね。

 僕は荷だしと棚入れをやるのです。


「金属探知機、すごいですね…」

 大がかりなこの装置を見て僕は言った。

「すごいだろう…、動かす前にはチェックもしっかりするんだぜ」

 小倉さん、チェック用の紙の筒を出して見せてくれた。


 トイレットペーパーの芯のようなもので、横に4か所くらい切り込みが入っていた。

「この筒の切れ込みにさ、これを挟むんだ…」

 薄い透明なプラスチックの小さい切手サイズのカードを見せてくれた。そのカードの中には5ミリもない小さい薄い本当に薄い金属の“膜”というか切れ端が入っている。

「通してみるな…」


 紙の筒の一番上の切れ込みにその金属片の入ったカードを指して金属探知機を通す。

 警告音がなる。


 今度は違う高さの切れ目にカードを指して、探知機を通す。

 警告音がなる。


 いろいろな高さに金属を差し、またコンベアの手前や奥に位置を変え、それを数度繰り返し、さらに今度はカードを指さずに探知機を通す。

 警告音はならない。


「驚きました、いろいろなチェックするんですね…」

 本気で僕を言った。こんな細かいチェックもするんだな…。

「探知機のチェックもするけれど、こういったぬいぐるみとか布製品は“全品チェック”なんだ…」


「全品…」

「ああ、全品だ…」

 さも当然…、そんな感じで小倉さんは言った。

「全品…」

 僕はちょっと気が遠くなった。

 そういえば弊社のぬいぐるみや布製品はすべて金属のホッチキスを使わずにパッケージしている。

 ホッチキスがあれば金属探知機に反応しちゃうもんね。


「製造過程でさ、縫製で針とかの金属が入っていたら大変だろう…。乳幼児が遊ぶものだ、なめたり、噛んだりするしな、だから全品だ…」

「全品ですか…」

 3度同じ言葉を言ってしまった。


 全品検査する…。その執念というか、なんというか…。


「エラーというんですか…探知機にひっかかることはあるんですか…?」


 小倉さん、チェック用の筒と金属片の入ったカードを棚に戻しながら応えた。

「ない! ないな…ほとんどというか、ないな…」

「ないのにするんですね…」

「ああ、するよ、全品な…」

 今度もまた、当然だろう、そんな感じで言われた。


「すごいですね、現場って…」

 笑っている小倉さん。

「ああ、システム室にいたら絶対にわからないだろうな…、堀ちゃん」

「ええ、ホント、みなさんすごいです、尊敬します」

 

 正直、驚きました。


 この品質管理部の人たちにはその後もいろいろとお世話になりました。お姉さま、僕と同じくらいか年上のお姉さま方6人と小倉さん。


 それはまた時期をみてということで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る