22話 戻ってきたバスタイム




 家に帰ると、中には誰もいなかった。


 お母さんの書き置きがあって、今日はお父さんの病室に泊まるとのことだった。


「どっちの家も留守かよ」


「そうみたいですね」


 この疲れた体でまた食事を作るのも面倒で、二人でコンビニへ買いに行くことにした。


「なぁ桜……」


「はい?」


「もし、遠くに行っちゃっても、俺のこと忘れんなよ?」


「……大丈夫です。忘れません。必ず戻ってきます」


 まだ私の処遇が決まったわけじゃない。


 でも私は決めていた。もし一度離れることになってしまっても、私が自分で道を選ぶことができるときになったら、この人のところに戻ってくると。


「桜は可愛いからな……。他の男に取られないか心配だ」


「私、そんなに可愛くないですよ」


「またそんなこと言ってさ」


 小さな公園の中、幼い頃によく遊んでもらったブランコに腰かけて思い出す。


 怒られて、家を飛び出した私がいつも見つかるのはこのブランコだった。


 この公園とも、きっとしばらくのお別れになってしまうのかもしれない。


「お兄ちゃん……」


「ん?」


「今夜、一緒に寝てくれませんか?」


 どのみち、一緒にご飯を食べてから帰っても、それぞれの家には誰もいない。


 私の家で二人の食事を用意している間、私はお風呂の準備を、お兄ちゃんは自分の家から着替えを持ってきた。


「小さい頃、いつも二人でした」


「思い出すなぁ」


「あとで、お風呂も一緒ですよ」


「桜? 本当に大丈夫か?」


「だって、私はお兄ちゃんの恋人ですし、今日だけ妹にも戻れます」


 一緒にいられる事が奇跡や魔法と言うなら、それが消えてしまう前に出来ることをしておきたかった。




「何年ぶりだろうな、一緒に風呂なんて」


「私が小学校の高学年になるまでなので……。7、8年にはなりますね」


 他に見張りもいないわけで、久しぶりの一緒のお風呂タイム。これが昔は普通だったの。


 でも小さかった頃とはやはり何かが違う。年頃になった男女がお互いの全てを見せ合えることの意味。


 当時と同じように、お互いの洗いっこをしてみた。


「なんで昔はあんなに出来たんだろうなぁ?」


「だって、意識なかったですよね……。私もまだ当時は幼児体型でした」


 そう。体格の変化は大きい。二人とも大人になっている。それに子供の頃には知らなかったことや経験していなかったこともたくさんあったし。


「やっぱり桜はそのままがいいな」


「えー、どういうことですか?」


 バスタブに二人で浸かった。お兄ちゃんの手が、私の膨らみを指でつつく。


「今の体系が似合ってるってことだ。それ以上のこと言わせるな」


 私の体型はグラビアモデルの女の子たちには程遠い。それで十分と言ってくれる人がここにいてくれる。


「でも、好きな人に揉んでもらうと大きくなるって、女の子のお約束ですよ?」


「ふざけて言うもんじゃないぞ?」


「ふざけてなんかいません……」


 お兄ちゃんが私の瞳を覗き込んでくる。


「この先は、お部屋にしませんか……?」


「桜、お前……」


 お兄ちゃんの呟きに、私は小さく頷いた。

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