【11-2】 荒れていたあたしを助けてくれたよね




「ねぇ和人……?」


「うん?」


 いつもどおりに食事を終えて、お店を後にしたのは、夜8時を回っていた。


 この時間は結花が仕事をしていたときに、いつも先生が夕飯を食べ終えて、二人が一緒に帰っていた時間と教わってからの名残でもある。


 特にユーフォリアに限らず、学校の他の集まりなどでも、あたしは二次会などは遠慮させてもらう。大体この時間で切り上げてプライベートな時間にさせてもらうことが多い。


 大学生にもなるともっと遅くまではしゃいでしまう同期もいる。それはそれで楽しいという人もいる。あたしはそういった目的のない時間の浪費は苦手なタイプだから。バスの時間がなくなってしまうとかの理由を付けて上がってしまう。


 人付き合いが悪いと陰口を叩かれることもあるけれど、大体はあたしに和人という相手がいることを知っているから、なにも言わずにいてくれる。


 それだって例外はある。


 高校生の時は、定期試験明けは結花……、そう、結花の部屋にお邪魔して一晩中、テーマのないお喋りが途切れなかったこともあった。


 やっぱり、あたしにも彼女が特別なんだ……。



 海岸線をゆっくり駅の方に歩いていく。もうすぐ2月だというのに、今夜は風もなくて体感温度は暖かく感じられた。


「次は、あたしたちだって……」


「そう言ってたね」


 和人はあたしの手をそっと握った。


「なんか、初めて付き合った時みたいね。思い出さない?」


「もちろん忘れないさ……」


 あたしは手に力を入れて、その温もりを逃がさないようにした。


「もう、5年も、こんなあたしと一緒にいてくれた。それだけで嬉しい……」


「俺も、千佳には昔からいろいろ世話になってるしな」


「うん……。でも、あたしは高3のときに手もつけられないほど荒れたし。離れていった人がたくさんいることも知ってた。親御さんからつき合うのをやめるように言われた子がいたことも分かってたよ」


「俺も最初は驚いたけど、あの話を聞けば理解はできるよ。その後でちゃんと元に戻ったじゃないか。誰だっていつも平坦ってわけじゃない。それこそ感情をずっと隠していて、いつか爆発する方が俺は嫌だったな」


 いつだったか、和人は中学生時代に「告白されて交際を始めたけれど、理由も言われずに別れを突きつけられた」という経験を話してくれた。


 お互いに我慢しているところが多いほど、その歪みが大きくなって、いつか一線を超えてしまう。


 それなら、あたしの一番惨めな姿を曝した時期に一緒にいてくれた和人以外の相手はあたしには考えられない。


「ありがとう……。いろいろ無茶を言ったり、苦労させちゃったよね。ごめんなさい」


「そんな事で謝るなよ。もう過ぎた話じゃんか?」



 駅に着いて電車に乗る。土曜日の夜ということで、やっぱりお酒の入った人も多いみたいだ。


「千佳、こっちに」


 和人があたしの腕を引いて、ドア横のすき間に入れた。そして、あたしの前に立って落ち着かせてくれた。


「ありがとう……。いつまでも……、ごめんね……」


「千佳が謝る必要ないんだ。あんな経験しているんだから」


「うん、ありがと……」


 和人の胸に寄りかかって、あたしは涙を隠すために目を閉じた。

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