【10-4】 羨ましいくらいの援軍がついている




「ねぇ結花、夕ご飯どうする?」


「うん? 決まってない。食べていくなら連絡すればいいだけだよ」


 夕方、地元の駅から海岸沿いを歩く。時計は5時を指していたけれど、一番日が長い今どきはまだ十分に明るい。


「久しぶりだし、一緒に食べていこうか?」


「うん、いいよ」


 帰り道の途中にあるユーフォリアというカフェレストラン。


 こぢんまりとしているけれど、アットホームで、放課後にスイーツを食べに何度かお世話になっていたこともある。


「はい、いらっしゃいませ」


 メニューを持ってきてくれるのは、このお店の奥さん。あたしたちの両親とほぼ同い年だと思う。だから、自然になんとなくホッとしてしまう。


「ミートドリアをお願いします」


「じゃあ、あたしはカルボナーラにしよぉ。あと、取り分けでミックスピザを追加で」


「はい。少し待っててね」


 昼間は来たこともあったけれど、夜の時間は初めてだったかもしれない。ガラッと雰囲気も変わって大人っぽくなるんだね。


 この時間になると、高校生二人ってのはなかなか珍しい部類になってしまうのかも。


「本当に、今日はありがとうね」


 沈んでいく夕陽に照らされた結花。


 3か月前の、あの誰もいない夕方の教室で見た時は、やつれきった顔に声をかけることができなかった。


 でも、今は違う。元気いっぱいの頃とはまだ違うけれど、悩みながらも一生懸命に立ち上がって再び歩き出そうと力をつける練習をしているように見えていたから。


「結花、もうあたしのために自分を犠牲になんかしないでね。結花も幸せになっていいんだからさ」


「うん……?」


 あの小学生時代の決心からずいぶん時間も経つ。いつも一緒にきたけれど、結局は結花にいつも助けられていた。


 辛い病気になって、それだけでも十分すぎるのに、それがうつるなんて嘘を流されたときも、誰を責めることもしなかった。


 体をゆっくり十分に治すことも出来ず、それなのに最後にはあたしをその話題から守るために二人の間を離そうとさえしてくれた。


 小島先生のことだって、もっと素直に甘えてもよかったはずなんだ。それでも先生に迷惑がかかるといつもじっと我慢していたんだから。


 もう、いいんだと思う。好きなように結花が幸せになれる道を歩いていいんだよ。


「はい、お待たせ」


 テーブルの上には、出来たての料理が並ぶ。


「あと、これはサービスね」


「えっ?」


 特に飲み物は頼んでいなかったのに、クリームソーダが二つ置かれていた。


「友達と外出できるぐらい元気になったんだね。そのお祝い」


 結花が見上げると、奥さんはにっこり笑って戻っていった。


「結花、ここって常連?」


「昔からお母さんのお友だちなんだって。きっと、いろんな人に迷惑をかけていたんだよ……」


「大丈夫。迷惑だったらこんなおまけしてくれないって」


 あたしだけじゃない。結花が立ち直ることを待っている人がいっぱいいるんだ。しかも、それは頼りになりそうな大人がチームを組んで支えてくれているのだと分かる。


「ごちそうさまでした」


「結花ちゃん、いつでもおいで。今日の食事代は快気祝いだからね。お友達ももちろんOKよ?」


「そんな……。ありがとう……ございます……」


 二人でお礼を言ってお店を出た。


「ちぃちゃんも、私と同じ失敗しちゃダメだからね」


 最後にそうあたしに優しく言ってくれた結花は懐かしい笑顔だった。

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