5話 あたしにしか出せない質問

【5-1】 全てが動き始めた夜のこと

<高校2年・修学旅行>




 高校2年生の初日、あたしと結花はいつものように待ち合わせて学校に向かった。


 あの小学校の出会いから、中学生、そして高校まで一緒に進んでこられた。やっぱり、あの当時に思った「ふつうの友達では終わらない」の直感は当たっていた。


 高校1年生の時には同じクラスで、結局年間を通じてクラス委員も結花と一緒に勤め上げて、なんだかんだと充実した年だったけれど。


「あー、残念だぁ。離れちゃったよ」


「えー、でもいいじゃん。小島先生が担任だって。羨ましい」


 小島こじま陽人はると先生は今年3年目の数学担当。


 すらっとした長身にクールな見た目が人気だ。しかも、ポリシーで生徒からのプレゼントなどはバレンタインデーすら受け取らないという徹底ぶり。


 今年の春もあえなく玉砕したという報告もたくさん聞いた。


 特定の彼女がいる訳でもなさそうだと言うところまではつかんでいる。


「まぁ、結花にとっては関係ないかも知れないけどね」


 中学もずっと一緒だった結花を一人にしてしまうことには不安だった。初日のホームルームの後に学級委員をやることになったと報告してきたときには、昨年と同様に押し付けられて、また背負い込んでしまったのかとも思った。


「でもね、ここまできたら、それでもいいのかなって。私が内申点上げるにはそれくらいしか材料ないし」


 そんな結花の表情がこれまでと少しだけ変わったことは気づいたけれど、その時は原因までは知らなかった。




 そんな高校2年生1学期の6月、修学旅行での出来事だった。


「原田さん、他のクラスの子と話してないで、明日のスケジュール教えてよね!」


「えっ? さっき言ったのに……」


 食後の自由時間、あたしと結花が話しているとき、昔を思い出すような光景がまた繰り広げられた。


「聞こえなかったよ、小さい声じゃ」


 こいつは若林とか言っていたっけ。昨年も同じクラスだったから覚えている。


 今年はあたしがついていないから周りも言いたい放題なんだろう。これじゃ小学生時代と変わらない。


「ごめん、明日は自由行動だから、方面別のバスに乗り遅れないようにロビーに集まってください」


「あっそう」


 これが他人にものを頼んでおいての反応か。あたしの中で久しぶりにスイッチが入ってしまった。


「ちょっと待って、結花はあんたの召使いじゃないのよ?!」


「学級委員は仕事してもらって当然でしょ?」


「あんたねぇ……」


「いい、いいよぉちぃちゃん……」


 飛び出しそうなあたしを結花は止めてきた。


「私の言い方がわかりにくかったらごめん……。でも、私のお友だちには迷惑かけないでよ……」


 結花はそこまで言い切ると、顔を押さえて外に飛び出していった。


「結花!」


 あたしもすぐに後を追ったけれど、もう結花の姿は見えなかった。


 この広いホテルの敷地、しかも雨も降る暗闇の中で結花を探すのは一人では無理だ。


「小島先生!!」


 あたしは急いで先生の部屋に走ってドアをノックした。


「どうした佐伯?」


「先生……結花が……、原田さんが……」


「落ち着け、原田がどうした?」


「一人で……外に……」


「外はこの雨だろ!?」


 先生もすぐに階段に走った。エレベーターを待つ暇は無いという気迫だ。


「佐伯は館内を探せ。俺は外を見てくる。一通り見終わったら原田の部屋に来い。あいつは一人部屋だ。そこで待たせてもらえ」


 先生はあたしに先生たち用のマスターキーカードを渡してくれた。


 あたしはそれを受け取ってホテルの中を探して歩いた。フロントで聞くと、屋上などの立ち入り禁止の場所のドアが開けば警備室経由ですぐに分かるという。


 それに、常識的にはあたしよりずっとしっかりしている結花が、一般の宿泊客に怪しまれるような場所に、しかも制服姿で潜んでいるとは思えない。


 レストランやコインランドリーを覗いてもその姿は見つからない。そもそも外に飛び出していったのだから、外にいる可能性の方が高い。


 でも、この土砂降りの雨の中、どこに居られるというのだろう。


 屋内をひととおり探し回ってみても、結花の姿を見つけることはできなかった。

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