サイコロジカルハート

のりたまご

pulse1.黎明と覚醒篇

phase1.黎明

―とある研究所のとある地下。

周りには見たこともないような巨大な機械や装置が立ち並ぶ。

その研究所の研究員の手に引かれる一人の少年がいた。


「ねえ、僕はどこか体が悪いの?」

「ううん。体は健康だよ。これから一つ確かめたいことがあるんだ。」

「そうなんだ。」


少年は白い病衣のようなものを着ている。

そして二人は一つの巨大な装置の前にたどり着いた。

目の前には大きな扉がある。

周りは機械音で溢れている。


「ここに入って、眠っててもらうんだ。」

「そうなんだ。どのくらい?」

「そうだなあ。2時間くらいかな。」


そして二人のもとにもう一人の研究員が近づく。


「ちょっとお注射をするよ。」

「うん。」


少年は腕まくりをして右腕を差し出した。


「腰に手を当ててるだけでいいよ。」


そう言って研究員は少年の上腕に注射をした。

そして研究員二人がかりで扉を開け、少年は中にはいった。


そして少年は、深い眠りについた。


***************************************************************


―2020年。

世界は精神医療の研究が著しく発展し、

これまで対症療法やカウンセリングといった直接的に治癒に

つながりにくいアプローチが多かったが、あらゆる精神疾患が

薬剤投与のみでほぼ寛解状態になるほど目まぐるしく発展した。


認知症、うつ病、双極性障害、解離性同一性障害、不安障害……

そのすべてが根治に近いレベルまで治癒するほどになった。


精神。

それは体の病気と異なり、見た目や検査結果に表れにくいものであった。

近年の研究の成果により、検査のガイドラインも明らかになった。


世間は精神医療含め、医学界の急速な発展に注目を集めていた。


一方で、こんな噂が飛び交っている。


”精神医療の発展は、人体実験の成果、賜物だ。”

”未だにそのような実験をする施設が存在する。”


真相は深い闇の中であるが、

人々はまだ知らなかった。


この先の未来で一つの歯車が狂い始め、

次第に世界を脅かす事態になるということを。


***************************************************************


「それでは今朝のヘッドラインニュースです。

これまで寛解が難しかったアルツハイマー型認知症の特効薬が治験段階でクリアしたことが分かりました。正式に認可されるのは半年後の目途とのことです。」


2021年春。

朝。テレビから流れるニュース。


「すごいな、どんどん病気の特効薬が開発されてる。」


寝ぐせでぼさぼさになった頭をわしゃわしゃしながら

焼いた食パンにかじりつく少年。

名前は藤崎颯音ふじさきはやと。この春で高校2年生になる。16歳。


「それよりアンタ、春休みの課題はー?」

「あーやったやった。ふああ、ねっむ。」

「どーせ徹夜で片づけてたんでしょ。そんな勉強だと身にならないよ。」

「はい、分かってますよーっと。」


そう言って残り一口分のパンを頬張り、

食器をさげて洗面所へ行った。

歯磨きを済ませ、洗顔をし、髪の毛をワックスで適当に整える。

カバンを手にして玄関へ足早に向かう。


「そんじゃ、行ってきまーす。」


そう言って颯音は玄関のドアを開けた。

外に出て、自分の自転車を引いて玄関の門を開けた。

すると友達にばったり会った。


「おー颯音。おはよう。」

「おー、そうちゃん。」


彼の名は戸山総一郎とやまそういちろう

中学からの友達である。

自転車のかごにリュックを入れ、自転車を引いている。


「今日は入学式だな。めんどいなあ。」

「俺はもう眠くてクタクタ。」

「まさか春休みの課題、徹夜で終わらせたな。」

「正解。だから入学式中寝てると思うので立つとき起こして。」

「相変わらずだなあ。ま、それでも頭のいいお前が羨ましいよ。」

「そんでもないよ。」


颯音はあくびをしながら自転車にまたがる。


「じゃ、いくか。」

「おう。」


2人は駅まで自転車で移動し、電車に乗って学校に近い駅で降りる。

そこから約5分ほど徒歩で移動すると学校に到着する。

校門には生徒指導の先生が立っている。


「おはようございます。」

「おー藤崎、戸山、おはよう。課題やったか?」

「はいー。なんとか終わらせましたー。」


そう言ってその場を後にして学校に入った。


「まさか、明日ってテスト?」

「だったはずだよ。出題範囲は春休みの課題。」

「えー、やばい、惰性で課題やってて覚えてない。」


下駄箱で内履きに履き替え、案内に従って新しい教室に移動する。


「なんか一年の時より遠くなったな。」

「まあ、いいっしょ。」


そして教室に入る。

友達がこっちを見て笑いながら一緒になったことを喜んでいる。

総一郎とも同じクラスだった。

すると教室の奥から教壇前に一人の生徒が来た。


「あー、その目は完全に徹夜の目でしょ!」

「げ、お前も同じクラスかよ……。」


颯音は若干顔を引きつらせながら総一郎の後ろに若干隠れた。

相手は幼馴染の伊藤春千代いとうはるちよだった。


「ちゃんと寝たー?」

「学校にも母さんがいるみたいだ。」

「誰が母さんよ!あんたを心配して言ってるのに!」


すると周りの野次が煽ってきた。


「よ、はやちよカップル!」


はやちよ。

颯音と春千代の名前をもじって合体させた、造語だ。


「うるせえぞ!カップルじゃねえし!」

「でも少しは女の魅力に気付いてくれてもいいんじゃないかな!」

「お前も否定しろよ!てか何、髪の毛ストレートにしたの?」

「あ、分かった?ふふん、触ってみる?サラサラだよ?」


春千代は一年の頃は若干癖っ毛の肩までの長さの髪だったが、

ストレートに縮毛矯正したのか、まっすぐになったので

肩甲骨くらいの長さのセミロングになっていた。


「よし、そうちゃん、席どこか見るか。」


春千代をよそに颯音が黒板を見ていた。


「ちょっと!颯音!無視は良くないよ!?」

「はーい、自意識過剰ちゃんは黙っててねー。」

「う、る、さ、い!!!」


そう言って春千代は颯音の頭をはたいた。


「いってえな!暴力女!!!」

「うるさい無視男!!!」

「はやちよカップルは今日も熱いな。」


ぼそっと総一郎が呟く。


「「違います!!!」」

「ほら、カップル。息がぴったりだ。」


二人で全力で否定しても総一郎に軽くあしらわれた。

直後、担任の先生が教室に入ってきた。

一年の時と変わらなかった。


「よし、入学式なので廊下に並んで―。」


教室にいた生徒たちは次第に教室から出て並び始めた。


「俺たちも行くぞ。」


颯音に次いで春千代と総一郎も教室を出た。


―この入学式が、日常の崩壊を意味するとはまだ誰も予想がつかないだろう。

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