第51話 社会見学へ行こう! 導入編

 アンジェリーク一味が帰ってすぐ、学園には大きな変化が訪れました。エルフの里から入学希望の届けが届いたのです。

 学園長は喜びました。変わり者のエルフが学園へ入学することは希にあります。エルフは人に比べて魔法が得意とされる種族で、エルフ特有の魔法も存在します。つまり、エルフを学園に向かい入れるというのは名誉であり、そしてエルフの魔術を学べる機会でもあるのです。

 しかし、入学届は一通だけではありませんでした。次々と届く入学届に学園長は恐怖を覚えました。過去の例においてエルフは基本学園に一人、一度だけ二人居たことが記録として残っているぐらい。次々と入学届が現れるというのが明らかな異常です。そして、学園長には異常の原因に心当たりがありました。エルフの里に呼ばれた例の一味です。

 一味がエルフの里で何をやったのか、学園長は一切何も知りません。返ってきてすぐにアンジェリークと皇子が議会に呼び出しをされていたので一切触れないことに決めたのです。触らぬ神に祟り無し、知らぬが仏、そんな諺はもちろんありませんが、学園長の心情を表すとしたらそんな感じでしょう。

 あまりの事態に正直お断りをしたかったのですが、皇帝が他種族との共栄を打ち出している今お断りの手紙を書くという選択肢はありえません。心を無にしてせっせせっせと入って良いよというお手紙を書きました。無にしすぎて何通書いたかすら覚えていませんでした。

 そして暫くしてやってきたエルフ達は案の定アンジェリーク一味に加わろうとしていました。ただ、加わろうとしていたのは半数だけで目的は皇子であり、入らなかった半数はアンジェリークにビビっていた様子でした。本当に何があったのか学園長は気になりましたが、好奇心は猫を殺すと注意深く見守るに留めました。

 そんな感じに学園長を筆頭とした教師陣の胃を破壊せんと企むアンジェリークは町を探索していました。目的は暇だったので暴れようと思ったからです。お供はローザのみ。皇子はお前目当てなんだからとエルフの相手をさせています。


「暴れたいんならダンジョンにでも行けば良いじゃないですか」

「飽きました。黒の森に比べてつまらないですし」


 付き合わされる形となったローザは溜息をつきました。帝都で散々付き合わされた警邏となんにも変わりません。

 

「よくよく考えたらこの町のことよく知らないんですよね」

「入学してからあっちこっち跳び回ってましたからそうでしょうね」


 姉を連れ戻しに実家に帰ったり、村民ごと村を焼いたり、ダンジョンRTAにハマったり、エルフの里で暴れたりしているせいで学園に入ったにもかかわらず学園にいない方が多かったりします。


「せっかく居るんですから地理を把握しておきましょう。こういうのは地図だけではなく実際に見ることが大切なんです」

「買い物するのであれば地図や学園の案内で十分だと思いますけど」

「そんな表ばかりみたところで面白味がないじゃないですか。見るのは裏ですよ裏」


 ああ、こいつまたスラムに行くつもりかとローザは悟りました。


「ご飯はちゃんとしたところじゃないと嫌ですよ」

「はい? ああ、スラムにはいきませんよ。というか、貧民街はあっても帝都のスラムのような無法地帯はないですからね、ここ」


 ハメスファールの領都は学園が主である学園都市とは言えども貧民街は存在します。地価の高い土地、低い土地というのは当然存在するからです。当然、貧民街の治安は悪いですが、帝都のスラムのように極端に治安が悪いということはありません。


「そもそもが帝都のスラムが異常なんですよ。今思えば例の教団があのスラムの形成に関わっているのかもしれません」

「……たしかに、騎士団すら見逃すなんて状況、普通に考えればおかしいですね」

「まぁ、証拠もなにもないので実際はわかりませんけどね」


 正に陰謀論としか言いようのない推論で普通であれば鼻で笑って流すところですが、実際にそれをやってのけようとした組織がいるため笑うに笑えません。現代であればナチスのようなフリー素材として出涸らしになるまで遊ばれることでしょう。


「今日は教団の手がかりでも探すつもりなのですか?」

「無理じゃないですかね。もうすでに失踪者が何人か出てるみたいですし」


 アンジェリークが円卓で火遊びをした翌日から帝国各地で失踪者の報告が上がっています。それなりの地位にいた者が複数人同時に失踪しているため間違いなく教団関係者だと判断され捜索されています。いざとなったら人体発火で証拠隠滅かますような連中が何かしらの情報を置いて消えるとは考えにくいです。


「じゃあ、今日は何をするつもりなんですか?」

「そうですね。社会見学って所ですかね。私、箱入り娘でしたからね」


 自慢するように胸を張ったアンジェリークに言っているんだコイツはとローザが冷たい目を向けました。

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