第27話 女子会1
あたしは篠崎班長を家まで送った帰りに、早瀬さんのマンションに立ち寄った。
「寝間着とか用意できた?」
「はい、いつも着てるパジャマと部屋着を用意してます」
「お風呂はどうする? 初めての家だし入り辛いと思うけど」
「シャワーを家で浴びてきましたので」
そうだよね。職場では仲良くしてるけど、そこまで親しくないし他の家族もいるもの。お母さんに言って美味しい料理を作ってもらっているから、それをご馳走すれば今日のお礼にはなるよね。
着替えを入れた鞄は後部座席に置いて、助手席に座ってをもらって我が家へと車を走らせる。
「この車、綺麗ですね」
「去年、新車で買ったばかりだからね」
「やっぱり、車あった方が便利ですよね」
「でも高いよ。早瀬さんは夏のボーナス、ほとんど貰えてないんでしょう」
「そうですね。お盆に帰省した費用に消えちゃいましたね」
まだ入社一年目だと、貯金もほとんどないでしょうね。地方から出てきている人は大変だろうな。
「車の免許は持っているの? 就職前に教習所に行ってたの」
「いえ、まだなんですよ。原付は持っているんですけどね。仕事にも慣れてきたし、そろそろ教習所に通おうと思ってます」
会社の近くには、試験会場も兼ねた大きな自動車教習所があるから、会社帰りに通う事もできるわね。教習所にも相当なお金が掛かるだろうし、車を持つのはまだまだ先になるでしょうね。
この辺りは交通の便もいいし、無理に車を持つ必要はないんだけど、地方から出てきた人は車が必須だと思っているのかもしれないわね。まあ、免許ぐらいは持っておいたほうがいいとは思うけど。
あたしは隣の市から一度だけ引っ越しをしただけで、ずっとこの辺りに家族と共に住んでいる。免許は学生時代に取っていたし、家には車を停める場所もあって維持費もそれほどじゃないから車を買ったんだけど。実家に住んでいると何かと便利なのよね。
「ねえ、一人暮らしだと不便な事多くない? 特に料理とか。あたしはずっと実家だから、ご飯はいつも作ってもらってるんだよね~」
「確かに面倒な時もありますけど、外食するにしてもここらだと、夜遅くなってもお店は開いてますので」
基本、自炊しているみたいだけど、夜中でも開いているファミレスなどのお店は多い。ご飯で困る事はないだろう。あたしだったら外食ばかりになっちゃいそうね。
「一人だと自由ですけど、生活リズムが壊れると仕事にも影響しちゃうので、気を付けていますよ」
早瀬さんは、こちらの短大に入学した頃から一人暮らしをしている。料理もできるみたいだし、あたしよりも女子力は高いわね。
「シャウラちゃんもこっちに来た時から飼っているって言っていたわよね」
「ええ、短大に入学してその夏、実家に帰った時に近所の人からもらったんですよ。今のマラカぐらいの仔猫でしたよ」
「可愛かったでしょうね」
「ええ。でもお転婆で、躾けるの大変でした」
やっぱり仔猫から育てるのは大変みたいだわ。でもマラカはカワイイし、あたしが愛情をこめて育ててあげればきっといい子に育つわ。
家に着いて三階のマラカたちの居る部屋に入ってびっくりした。猫タワーが倒れて、そこら中に猫のおもちゃが転がっている。
「まあ、またシャウラがやったのね。この子ったらすぐはしゃぐんだから」
「大丈夫よ。タワーはバラバラになってるけど壊れてないわ。組み立てれば元通りよ」
仔猫用に少し小さいタワーを買ったからね。シャウラやナルのような成猫が乗ると倒れちゃうわよね。別に喧嘩した訳でもないし、じゃれ合っていてこんなに散らかしたのでしょ。「すみません」と言いながら、早瀬さんも一緒に部屋の中を片付けてくれた。
マラカたちのご飯を用意した頃、夕食ができたと弟の真司が三階まで呼びに来てくれた。弟とは初対面ね、早瀬さんに紹介したけど確か弟とは同い年のはずだわ。早瀬さんに比べたら弟なんてまだまだ子供ね。単身故郷を離れて一人暮らししている社会人と、親のすねをかじっている大学生じゃ覚悟が違うのでしょうね。
二階のダイニングへ降りていくと、両親も席に着いていてテーブルに料理が並んでいる。夕食は魚のムニエルとあさりのポトフにサラダ、あたしの好きなメニューだわ。
「ごめんなさいね。美香が急に料理を作ってくれって言うから、あり合わせの材料で作ったのよ」
「いえ、ありがとうございます。このお魚タラですよね。しっとり焼いていてすごく美味しいです。後でレシピ教えてもらえますか」
「まあ、あなたはお料理をするの。美香も少しは見習いなさい」
「は~い」
お母さんは料理ぐらい作れないとお嫁にいけないわよと、いつも小言を言ってくる。大丈夫よ。冷凍食品もあるし外食する所も沢山あるもの。
早瀬さんは親戚も多く余所の家に招かれることが多いらしくて、こういう場所でも馴染んでいるみたいだわ。コミュ力も相当高いみたいね。お父さんとも入社一年目の仕事の仕方について話をしてて盛り上がっているわ。
「さあ、もういいでしょ。後はあたしの部屋でゆっくりしましょう」
あたしが連れて来たお客さんなんだからね。あたしも話したい事いっぱいあるんだから。まだ話し足らなそうにしているお父さんから引き離して、デザート代わりに冷蔵庫からプリンを二つ取り出して三階へと上がる。
「楽しいご家族ですね」
「いつもはあんなに話さないのよ。女の子の友達連れてくるのが珍しいから……。ごめんね、気を使わせちゃって」
「いえ、いえ。私も楽しかったです」
あたしの部屋に入る前にマラカたちの部屋を見てみると、みんなご飯も食べて、今は寄り添って寝ているわ。
いつものように部屋の扉を少し開けたままにしておく。夜中に起きても廊下で適当に遊んでくれるでしょう。
早瀬さんとは、仔猫の育て方のコツや一人暮らしの様子などの話をした。服などショッピングセンターは何処に行っているかと聞かれたけど、都心にあるおしゃれなショップを紹介した。この関西支社付近は大阪府の郊外だ。やっぱりファッションで言うと都心まで行かないと。今度一緒にショッピングしましょうと約束した。
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