第13話
「旦那様! 一体いつになったら行動するのですか!?」
レオーラとパルコーをフレッシュゴーレムにしてから数日後。熊翔がいつも通り、部屋に引きこもっているとレオーラが突然大声で聞いてきた。
「行動って何のことだ?」
「決まっていますわ! ダンジョンマスターとしてのお役目です。旦那様は不老不死の鎧、アーティファクトを守るダンジョンマスターであるということ、そしてアーティファクトを侵入者に奪われれば旦那様だけでなく私やパルコーも死んでしまうことは理解しました。でしたらアーティファクトを守るためにダンジョンの守りを固めるべく行動すべきでしょう? なのに旦那様はこの数日間、何もせずに惰眠を貪るだけではないですか?」
レオーラの言う通り、フレッシュゴーレムの生命はダンジョンに封印されているアーティファクトの魔力からきている。だからもし万が一にアーティファクトが侵入者によって奪われたら、フレッシュゴーレムのレオーラとパルコーはダンジョンマスターの熊翔と一緒に死んでしまう。
だからこそレオーラは自分達の命を守るためにも、ダンジョンの守りを固める行動を取るべきだと考えているのだが、当のダンジョンマスターである熊翔は何もしようとしないのでこうして大声を出したのであった。
「そうは言うがな……。お前もパルコーも楽しんで引きこもっていたじゃないか?」
「うっ……!?」
クッションを枕にして床に寝転がって熊翔が言うと、図星だったのかレオーラが言葉を詰まらせる。
熊翔の言葉は正しく、レオーラとパルコーの二人はこの数日間、彼と一緒に引きこもり生活を楽しんでいた。
レオーラとパルコーがいた世界は魔術といった不可思議な要素はあるが、生活レベルは中世のヨーロッパと同じぐらいで、そこから来た二人にとってダンジョンアイランドでの現代生活はこれ以上なく刺激的であった。
食事と酒は種類が豊富な上に今まで味わったことがない程に美味。
暮らす部屋は三人が入ると多少狭いが快適で、王族や上位の貴族でしか使えない暖かいシャワーを毎日気軽に利用できる。
携帯端末から観れる動画はこれまで知らなかった世界を見せてくれて、いつまで見ても飽きることがない。
これらの理由からレオーラとパルコーは気がつけば数日間、熊翔と一緒に部屋から一歩も出ない引きこもり生活を送っており、そこを突かれると反論する余地がなかった。
「そもそもダンジョンの守りを固めるって簡単に言うけど、具体的にはどうしたらいいと思う?」
「そ、それは……パルコー」
「えっ? は、はい。ええっと……」
ダンジョンの強化について熊翔が逆に聞き返すと、再び言葉に詰まったレオーラは隣にいるパルコーに丸投げして、それまで黙って話を聞いていたパルコーは話を振られると困った表情をしながら自分の考えを口にする。
「そうですね……。守りを固めるのだったら、やっぱりダンジョンを守る戦力を増やすか罠を設置することでしょうか。後は……難しいと思いますけど、ダンジョンの改築……でしょうか?」
ダンジョンの強化する方法を考えて言うパルコーだったが、言っているうちにそのどれもがここにいる三人だけでは難しいと分かり、徐々に声が小さくなっていく。だが熊翔はそのパルコーの考えに頷いてみせた。
「まあ、普通に考えたらそれしかないよな。でもそれらは時間が経てばダンジョンの方で勝手にやってくれるんだよ。ダンジョンは時間が経てば勝手に成長して階層も増えるし、罠となる設備も出来ていく。だからその間ダンジョンマスターがするべきことは、余計なことをせずに侵入者にダンジョンの存在を悟らせないこと。つまりこうして引きこもることがダンジョンマスターとしてのお役目なんだよ」
「引きこもるのがお役目だなんて、聞いたことがありませんわ……」
ダンジョンは時間が経てば成長するので、充分に成長するまで余計なことをしないのが最良だというのは理解できる。
しかし、引きこもることがダンジョンマスターの役目だと寝転がって言い切る熊翔に、レオーラは呆れた顔となって言うのであった。
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