「私より弱い人とは結婚しない」と言っていた女騎士、最強すぎて自分より強い相手がいなくなり、こうなったら自分で育てようと剣術講師になったら生徒がみんな女の子だった件

笹塔五郎

第1話 『強い人』がいなくて結婚できないなら結婚相手を育てればいいじゃない、と思いついたのに速攻で終わった


「私より弱い奴と結婚するつもりはないの」


 これは、私――アリシア・フィーベルトが十五歳の時、婚約者相手に言い放った言葉であった。俗に言う政略結婚というものであったが、その時の私の目標は立派な騎士になることで、貴族に生まれたからといってすぐに結婚するつもりなどなかったのだ。

 両親に加え、相手方も了承したことであり、私は婚約者と決闘することになり――そして、圧勝して見せた。

 当時のことを知る者は、『まるで鬼神のようであった』と状況を振り返る。……正直、私はそこまで覚えてないのだけれど。

 相手方もこれには「鍛え直さねば」と考えたらしく、婚約破棄は円満に行われることになった。

 そして私は望んだ通り騎士となり、早いもので五年の月日が流れ――


「……私より強い奴がいないんだけど」


 憂慮すべき事態となっていた。


「まあ、単独で『竜種』を相手にできるレベルは、この国にはあんたしかいないんじゃない?」


 他人事のように――いや、他人事なのだけれど、同僚の騎士、ルーフェ・ティロッテはカップに入った飲み物を口に運びながら言った。


「いや、まさか私もここまで強くなれるとは思ってなくて」

「才能って怖いよねー。しかも、『自分より弱い奴と結婚しない』って話が、まさか国中に広まって、今ではあんたの代名詞になってるわけだし」


 そう、五年前の『黒歴史』とも言える一戦。あるいはあの時、私が『圧勝』していなければ、まだこんなことにはなっていなかったのかもしれない。

 噂は尾ひれを引いて、『オールイス王国』のアリシアを倒せば、最強の称号と共に彼女を手に入れることができる――という話に発展していた。

 実際、この五年の間に幾人の者達が、私に決闘を申し込んできた。それを私は喜々として受け入れ、全ての試合で勝利を納めてきたのだ。

 結果、五年目には私に挑む者はいなくなり、残されたのは『剣姫』と『最強』の称号のみ。別に、この現状に不満があるわけではない。あるわけではないが――


「このままだと、私って結婚できなくない……?」


 そんな不安を、最近覚えるようになってしまった。


「条件があんたより強い、だとほぼ無理じゃん? 人外とかじゃないと」

「人外って、君は私を何だと思ってるの?」

「人外クラスの化物」

「化物……!?」


 化物呼ばわりはさすがに酷い。

 しかし、確かに対人戦で負ける気はしないし、このままだと私は人間と結婚できないのでは、という焦りはあった。


「なら、『自分より強い』って条件は捨てるしかないんじゃない?」

「いや、でも結婚相手にはやっぱり、私が頼れる人がいいかなって」

「無駄な乙女心を発揮し続ける限り、たぶん結婚は無理だよ」

「うぐっ」


 そう言われて、私は思わず頭を抱える。

 こうなったら、私の信念を曲げるしかないのだろうか。

 いや、『騎士』であり、皆の模範とならなければならない私が、自身の言葉を曲げることは――もはや私の一存で許されるレベルにはなかった。


「そう言えば話変わるけどさ。士官学校の剣術講師の募集してたし、あんたとか丁度いいんじゃない?」

「剣術講師? 募集するほど不足してるの?」

「なんか、貴族とか多く通う『ヴァルフェード士官学校』だけ、人員が足りてないんだってさ。一先ず立候補制だったし、最近はあんたも仕事は落ち着いてきたみたいだしさ」

「まあ、そうね。仕事の方は落ち着いてる。でも。剣術講師か……。あまり人に教えるのは得意な方じゃないのよね」

「そうなの? あんたに教えてもらって、結構強くなったって騎士も多くいるみたいだし、向いてるんじゃないかなって思ったけど」


 向いている――そんな風に考えたことはなかった。

 しかし、剣術講師になれば、しばらくの間は前線から離れることになる。

 確かに最近は落ち着いているとはいえ、大丈夫なのだろうか、という不安もある。

 一方で、後進の育成ということも理解――


「! そっか、育てればいいんだ……!」


 まさに天啓であった。

 どうして、こんな簡単なことに気付かなかったのか。


「なに、どうしたの?」

「ありがと、ルーフェ。私は剣術講師になろうと思う」

「え、マジ? いや、あたしが勧めたことだし、いいと思うけど。急に乗り気になるね?」

「後進を育てなければならない、と思い立っただけのことよ」


 決め顔で答えているが、心の中では違うことも考えていた。

 私より『強い奴』を育てればいい――単純な話だ。結婚相手が見つからないのであれば、結婚相手に相応しくなるような相手を育てる。

 もちろん、ただ強ければいいという話ではない。講師として傍にいれば、きっと相性だって分かるだろう。

 私が講師になることには反対されないだろうし、いい考えだ。

 そう決めて、私はすぐに剣術講師に立候補し、あっという間に採用された。

 私が卒業した士官学校とは別のところだけど、貴族が多く通う場所ということで、学校の設備は整っているし、文句もない。――はずだった。


「えー、今日から皆さんに剣術を教える……アリシア・フィーベルト、です……」


 だんだんと声のトーンを下げながら、生徒達の前で自己紹介をする。

 私を見る生徒達の視線は熱を帯びていて、それこそ『憧れ』の対象を見るようだった。

 しかし、ここに重大な問題が存在している。

 目の前にいるのは女子、女子、女子――『ヴァルフェード士官学校』には、女子しかいなかったのだ。

 私の目的は、一日目にして頓挫した。

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