第18話 休日

 女性女性女性女性女性女性女性。

 見渡す限り、女性しかいない場所に僕は今やって来ていた。


 何故僕がこんな場所にいるのか。


 デート? 買い物? それともナンパ?


 どれも違う。僕はここに――スイーツバイキングのお店に――甘味を求めてやって来たのだ!


 今日は休日。


 昨日まで三日間も山に籠って修行していたせいで、流石の僕も少し疲労感を感じる。

 僕が疲れているのなら、修行の主役だったルナちゃんはもっとだろう。

 だから今日くらいは完全オフにしようと、僕はルナちゃんと話し合って決めたのだ。


 山での修行は順調に終わったし、今日くらいは休んでもテストに影響は無い。

 ルナちゃんは今日、ヒナに帝都を案内するとの事。

 だから僕は一人でここにやって来た。


『ご主人様! ワタシも! ワタシもこれ食べたい! 家にお持ち帰りして頂戴?』


 ――訂正。二人でここにやって来た。


 やれやれ、魔法を開発したのは僕だが、自宅でも魔力の溜まり場でも無い場所でフーコに話し掛けられるとまだ違和感があるな。


 僕は今、ルナちゃん用に開発した精霊と会話が出来る魔法を発動している。


 通常であれば、実体化していない精霊と会話なんて出来ない。


 だが、精霊は大気を漂う魔力を震わせて発声している。僕はそれを逆手にとって、魔力の振動を声として変換する魔法を編み出したのだ。


「ここは食べ放題の店だから、お持ち帰りとかは出来ないよ?」


 僕は他の客に不審に思われないように、フーコにだけ聞こえる小さな声で言う。


 この状態の精霊の声は、魔法を発動している僕にしか聞こえない。だからここで普通に会話をすると、ブツブツと独り言を言う不審者として通報される事間違いなしだ。


『そんなぁ……! ワタシだってイチゴ好きなのに!!』


「分かった分かった。後でイチゴを買ってやるから」


 実は僕は大の甘党。

 お休みの日はこうして甘い物巡りをするのが数少ない楽しみでもある。


 そんな僕に触発されて、フーコも負けず劣らずの甘い物好きだ。

 フルーツ、お菓子、本当に何でも食べる。この前なんか、生クリームにダイブしてそれをむしゃむしゃ食べていた。


 だからきっと、こうして僕が次々とパフェやらケーキやらを食べる光景をただ見続けるのはなかなかに地獄だろう。


『イチゴだけー? チェム商店のケーキも買って?』

「あー、あそこのケーキね。りょーかい。この後買いに行こう」

『さっすがご主人様ね! 話が分かるぅ!!』


 あそこのケーキは確かに絶品だ。僕も久しぶりにあのケーキを食べたい。


 そうして僕とフーコが、あのイチゴがふんだんに使われた贅沢なケーキを頭に思い浮かべていると、


「申し訳ございません、お客様。相席になってもよろしいでしょうか?」

「いいですよ?」


 店員さんが僕の元にやって来た。

 店がいつの間にか満席状態になっているのに気が付いた僕は、当然その提案を受け入れる。


 まぁ相席になっても、この店ならやって来るのは女の子だ。可愛い女の子と一緒の席になれるなんて僕からしたら役得でしかない。


 願わくば黒髪ロングの美少女が来てくれますように――。


「こちらの席でございます」

「ありがとうございます」


 するとなんと驚くことに、店員さんに案内されてやって来たのはまさに黒髪ロングの美少女だった。


 背はそこまで高くもなく、低くもない。比較的細身の体型で、スカートの下に見える健康的な足はとても魅力的。さらに一点だけ特に目を見張るような部位がある。


 そう、おっぱいだ。


 あまりにも主張の強いそれは、服の上からでも形がはっきりと分かるくらいに大きい。

 推定D……いやEはあるか……?


 日頃貧乳達に囲まれている僕にとってはまさに眼福。

 僕は貧乳も巨乳もおっぱいはすべからく愛しているが、やはり巨乳というのは目の保養になる。

 巨乳な教え子もそろそろ一人くらい欲しい所だよね。


 僕は思わず目の前の巨乳に拝みたくなる気持ちを何とか抑え、ケーキを食べて心を落ち着かせる。


 失礼にならないように、じろじろと視線を向けないようにしているから顔は見えていないが、黒髪ロングの子にブサイクはいない。

 絶対に美少女に決まっている!


 そんな思わぬ黒髪ロング美少女(巨乳)との出会いに内心ドキドキしていると、目の前に手が差し出された。 



 …………え、何これ?



 勿論その手の差出人はテーブルを挟んだ向かい側に座っている美少女。


 僕は差し出された手が何を意味するのか、じぃーっと手を見つめながら深く考え続ける。


 すると美少女は何やら手をバンバンと揺らして僕に何かを催促してくるではないか。


 僕は訳が分からなかった。


 しかしその手はまだ僕に何かを促してくる。


 いくら美少女の行動だろうと、流石にちょっと怖くなってきたので、僕はもう何も考えずその手をギュッと握りしめた。


 握手だ。


 なるほどこうしてみれば、この美少女は最初から握手を求めていたのかもしれない。

 だって見知らぬ相手に手を差し出したらそれは握手の合図に決まっているからだ。


 きっとこの美少女は僕と仲良くなりたかったのだろう。そのための第一歩がこの握手だったのだ。


 ……もしやこれは噂に聞く逆ナンという奴なのでは?


 まいったな、とうとう僕にもモテ期がやって来てしまったか。


 僕は謎の美少女と握手を交わしながらそう舞い上がっていると、


「ねぇ。これいつまで続けるのよ……?」


 美少女は僕に問い掛けた。

 おや? なんか聞き覚えのある声な気がする……。


 流石に話し掛けられたら顔を直視しても無礼には当たらないだろうと思い、ようやく僕はその美少女の顔に視線を向ける。


 するとそこにいたのは――――


「な、なんで君がここにいるのさ! セリア!」


 僕の永遠のライバルにして幼馴染。

 そして僕が未だチェリーボーイである元凶で黒幕のセリアがいたのであった。

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