第6話 ユルト

 

 モールとの話し合いがまとまった後、私はアルナーと出会ったあの場所へと戻って来ていた。

 理由は家の建設……というか組み立てを見学する為だ。


 鬼人族達の布製の家……ユルトと呼ばれるそれは三人の鬼人族の男達の手によって行われることになって……その組立作業は凄まじいとしか言えないような速度で進んでいった。


 建設予定地の草が刈り取られ、そこに床が敷かれたかと思えばすぐに壁が建てられ始めて、同時に柱付きの天窓が床の中央部分に置かれた平な石の上に突き立てられる。

 その後、天窓と壁の骨組みが連結されてそれで大体の形は完成、細かい部分を調整しながら外布をその骨組みに被せる作業が始まる。


「は、早いな、組み立て始めたのが昼で、まだ日が傾いてもいないというのに、もう形が出来上がってしまったぞ」


「組み立てやすく、解体しやすく、そして持ち運びやすいのがユルトの特徴だ。

 隠蔽魔法でも避けられぬ危機が迫った時にはユルトを解体してユルトごと村の全てを持ってその危機から逃げる……その為のユルトだ」


 そう説明してくれるのは私の世話係となったアルナーだ。


 不承不承ながらに私の世話係となったアルナーだったが、こうして誰かに物を教えること自体は嫌いではないようで、話し合いが終わってから今までの間に色々なことを私に教えてくれていた。


 草原では病になりやすいとのことで、病の元を洗い流す為に毎日水浴びをしろだとか、髭も病の元を溜め込んでしまうから毎日剃れだとか、爪も手入れをしっかりしろだとか、服は毎日洗えだとか、細かいことまで本当に色々と、だ。

 

 モールが分けてくれると言っていた家畜、メーアのことは世話の仕方と共に特に熱心に教えてくれた。


 メーアはくるりとつむじのように曲がり込んだ角を二本頭に生やし、白いふわふわの体毛で全身を覆っている家畜で、鬼人族の生活には欠かせない存在なのだそうだ。


 家畜として飼育する目的は肉……ではなく、その体毛だ。

 その毛は耐久性と耐水性に優れているのだそうで、織り込んで布にすると耐久性、耐水性に優れた手触りの良い、最高品質の布が出来上がるのだとか。


 それはユルトの外布に使われたり、寝具に使われたり、毛皮の下の下着に使われたりと生活のあちこちで活躍するだけでなく、行商人に売ることでの鬼人族の貴重な収入源にもなっているらしい。

 その話を聞いて私は王国から行商人が来るのか?と思わずに質問してしまったのだが、アルナーの答えは沈黙。


 どうやら行商人の詳細については私には明かせないらしいな。

 恐らくに王国ではない外国から来る行商人なのだろう。

 まぁ、それについては私は何も言うまい。


 ユルトの組み立て作業が終わったならメーアの飼育小屋も組み立ててくれるのだそうで、それが終わる頃にオスメス一頭ずつのメーアが村から届けられる予定だ。

 モールが特に若く健康なのを選び出してくれるそうで、それに多少時間がかかるかもとのことだったが、貴重な家畜を分けてくれるだけでなく、そうまでしてくれるのだからありがたい話だ。


 メーアは草を食べれば食べる程に毛を伸ばすのだそうで、そのメーアの毛を刈り取って村に持っていけば食料や生活用品と交換してくれるのだそうだ。

 私のこれからの食料事情を担うことになるメーアは世話をしっかりすることは勿論、出来ることなら繁殖させて数を増やしたい所だな。


 時たま野生のメーアが草原に現れることもあるらしく、それは見つけた者が自由に捕獲して良いそうなので、もし見かけたなら全力で捕獲に走るとしよう。

 メーアの数が増えれば毛の生産量が増えるのは勿論、繁殖の機会も増えるのだから見逃す訳にはいかない。


 そうやって少しずつでも良いから着実にメーアを増やしていって、領地を豊かにしていこう。

 ここまで色々としてくれたモールの……鬼人族の期待に応える為にも頑張らないといけないな。


 領地を豊かにしていって、そして領民を増やして……。


 ん?領民を……増やして……?

 領民を増やす??


 あれ?領民を増やすってのは具体的にどんなことをしたら良いんだ?


「ところでアルナー……一つ聞きたいことがあるんだが……領民の増やし方を知ってるか?」


「そんなこと私が知る訳がないだろう。

 ……私に言えることは人間はメーアのようには行かないということだけだ」

 

 そうだよなぁ、知る訳ないよなぁ、そんなこと。


 領民だと思っていたアルナーは……鬼人族達は領民ではなかった。

 つまりは私の領民は0人のままな訳で……。


 メーアのように行かないとのアルナーの言葉は鬼人族の村から領民を貰ったりは出来ないぞとの釘刺しなのだろうし、野生の領民なんて存在する訳がないだろうし……。


 私は一体どうしたら……。

 領民……何処かから湧いてきたりしないかなぁ……。





 ・プロローグリザルト

 

 領民【0人】 → 【0人】


 ディアスは家【ユルト】を1軒手に入れた。

 ディアスは施設【飼育小屋】を1軒手に入れた。

 ティアスは家畜【メーア】を2頭手に入れた。

 ディアスは食料【干し肉】を1週間分(1人分)を手に入れた。

 

 ディアスは鬼人族と【友好関係】を結ぶことに成功した。

 ディアスは世話係【アルナー】を鬼人族から派遣して貰うことに成功した。



 

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