第3話 不思議な女性と不思議な角
「お前は一体誰だ、こんな所で一体何をしている!」
目の前の角の生えた女性は真っ赤なその瞳できつく睨みつけながら私にそんな質問を投げかけてくる。
女性が喋る度に、紐のように編み込まれた綺麗な銀の髪が揺れてその先端に編み込まれた宝石達がぶつかりあってチリンチリンとなんとも美しい音を立てている。
「黙っていないで私の質問に答えるんだ!」
高く響くその声は刺々しいが、腰に下げた剣を抜き放ってこない所を見るに友好的ではあるらしい。
友好的に接してくれるならば質問に答えるくらいはしても良いかと私はゆっくりと口を開く。
「あー……私はディアスという者だ。
ここで何をしているかと言われると……見ての通り眠っていた所だ」
「何故こんな所で寝ていた!」
「他に寝る所が無いからだ、そこの川で水を飲んで休憩していたら眠たくなったのでそのまま寝た」
「……お前は馬鹿なのか?
それとも何かの病気なのか?瞳が青いのは病気のせいか?」
「……病気……では無いはずだ。
馬鹿かと言われると否定は出来ないな、無学なままに生きて来たからな」
「……。
お前はこの草原にどうして足を踏み入れた、ここで何をするつもりだった」
「どうしてかと言われるとここに連れて来られてここで暮らすように言われたから……か?
何をするつもりかは……住む場所をなんとかして食料を確保してなんとか野垂れ死なないようにするつもりだった」
「……。
お前は一体何がしたいんだ?」
「……何が?
うーむ、改めてそう言われると何がしたいんだろうな、私は……。
とりあえず死にたくはないので生きたい……ん?おい、待て、剣に手をかけるな!
斬られたく無かったら真面目に答えろ?
私は至って真面目なんだがなぁ……。
うーむ……そうだな、父と母の遺言を守って人の役に立つことがしたい、それと弱いものを守りたいというのが私のしたいことだ」
「……お前は何故私に嘘を吐かない?」
「え?ん?
なんだその質問は?
良いから答えろ?
何故も何もあなたに嘘を吐く理由が無いだろう……?」
「お前は私の敵か味方か、どっちだ?」
何なんだろうな、この女性は。
さっきから意図の読めない質問を何度もしてきて、果たして何が目的なのだろうか。
質問の度に何やらピカピカと角が青い光を放ってくるし、質問に答える度に顔は険しくなってくるしで本当に訳が分からない。
そして何より今の質問、敵か味方かって初対面の人間にする質問じゃないだろう?
私は一体どう答えたら良いんだ?
少なくとも敵で無いとは断言出来るが、味方であるとも言えないし、うーむ。
「どっちと言われてもなぁ……。
あなたと敵対するつもりは無いし敵では無いと断言は出来るんだが、名前も知らない初対面の相手にいきなりあなたの味方でございますってのも変な話だろう?
敵でも味方でも無いって答えじゃ駄目か?」
「駄目だ!敵か!味方か!
今この場ではっきり答えろ!」
女性は目を吊り上げながらそういって、剣に手を伸ばしながら私をきつく睨みつけてくる。
私の返答の何が気に入らなかったのかは分からないが友好的態度が失われつつあることに私は焦りを覚える。
適当に調子に合わせて私はあなたの味方です、と言ってしまうことも出来るが、きっと上辺だけの言葉ではこの女性は満足しないことだろう。
いや、むしろそれがトドメとなって剣を抜いてしまうかもしれない。
これ以上女性を怒らせるべきではないなと私はあまり頼りにならない自分の頭を精一杯に働かせてどう答えるかを考え始める。
私は彼女の味方なのか、敵なのか、真剣に考えて、考え続けて……そうしてあることに思い至る。
ここは私の領地だ、そして目の前の女性は今まさにその私の領地の中に立っている。
つまり彼女こそがお偉いさんの言っていた領民なのでは無いかということに私は今更ながらに思い至ったのだ。
お偉いさんは言っていた、領主の仕事は領民を守ることなのだと。
つまりは私は彼女の味方であると断言出来る訳で……なるほど、彼女が目を吊り上げながら剣に手を伸ばした理由もそれで理解が出来る。
領民を守るはずの領主が領民の味方だと断言してくれないでは誰でも怒るというものだ。
彼女に角が生えていて更にそれが光ったりするのは……この際小さな問題だと無視することにしよう。
私はしっかりと彼女の目を見据えて、領主として仕事をしっかりとこなしてみせると強く心に誓いながらその誓いを言葉にして口から発する。
「私はあなたの味方だ!
たとえどんな敵が相手でもあなたを守ってみせよう!」
私の言葉に彼女は目を見開いて驚き、角から青い強い光を放ち始める。
その光の眩しさに私が思わずに目を細めていると、光を放った張本人のはずの彼女が
「何故だ!何故青く光る?!
この光の強さはなんだ?!」
なんて大声を上げ始める。
それからしばらく彼女は何かの間違いだとか、有り得ないだとかそんな言葉を口に出し続けてから、頬を赤く染めながら私のことをきつく睨みつけてくる。
彼女の言葉の意味が、睨まれる意味が分からずに私が首を傾げていると、彼女は私の腕を引っ掴んで、掴んだままに何処かへと向かって歩き出す。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、なんだ?どうしたんだ?
私を何処かに連れていく気なのか?」
「私の村に連れていく!お前は黙って付いて来い!」
こちらのことを見ようともせずにそれでも腕はしっかりと掴んだままに彼女はそう言って草を踏み分けながらズンズンと歩いていく。
村?村があるのか?私の領内に?
昨日散々歩いて領内を探したのだが、まさか村を見逃していたとは……。
私は自分の愚かさに少しだけ落ち込んで、そして彼女に出会えた幸運に深く感謝する。
そうして私は彼女に手を引かれるままに歩き続けて草原を突き進み……白い布製の家々が立ち並ぶなんとも不思議な村へと辿り着くのだった。
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