第36話 たった一つの勝機

「行くか」


 ロージャンとマグマガントレットの対決に決着がついた頃合いに、今まで観察に徹していた俺も足を動かした。


「だから言ったんだ、加勢した方がいいって! プライドよりも大切なものがあるのぐらい、あんただって分かってただろ!」


 先日俺を殴りつけた戦士もロージャンが倒れた光景を見届け、悔しがるよう憤りを俺にぶつける。


「一つ聞いていいか」


 俺は、彼が今言った台詞に疑問を覚えた。


「プライドよりも大切なものって、例えば命だったりするのか。立場によってはそう言う人がいることもわかる。けど、もしも貴方が俺と全く同じ人生を歩んだ場合、断言はできないと思う」


「……シレト殿はどういう人生を今まで歩んで来たのですか」


「最悪な人生ですよ、だから生きることより、達成する志の方を俺は評価しますね」


「それにしたって、っ今を生きないことには目標は達成できませんよ!」


 彼の反論もわかるけど、俺の言いたいことも分かって欲しい。

 それにどうやらロージャンはまだ生きているみたいだ。


 フガクが意識を失ったロージャンを担いで、戦線から離脱している。フガクは前もってロージャンを救出するタイミングを見計らっていたようだ。ロージャンがマグマガントレットに勝つイメージがわかなかったのだろう。


 リザードマン種のユニーク固体であるフガクは、短距離における転移能力がある。

 今回はその力をロージャンの救出に使ったみたいだ。


「貴方にお願いがあるんだ。今のを見て、マグマガントレットの攻略の道筋が見えない兵士達に向けて、全力で逃げるよう伝令して欲しい」


「……できない相談だ、俺は、連中に――っ」


「表情をしかめてどうしたんです? きっと理解してくれたでしょ、命より大切なものがないとは、時に断言できないって。でも俺がお願いしたいのは、無駄に死ぬことはないって言いたいんですよ。今から後方で指揮を執っているアッシマに掛け合って来て下さい、お願いします」


「くそ! ならあんたはあいつを倒してくださいよ! 無茶言うのはお互い様だ!」


 彼はそう言うと、仲間を連れてアッシマの下へと向かってくれたようだ。


 依然、マグマガントレットは進行を続け、通った道を焦がしていた。


 ロージャンの仇討ちをするつもりはない。

 けど、復讐を成し遂げぬまま、死ぬつもりも俺にはないんだ。


 先手を取るために、外見をステルス化させてマグマガントレットに近づいた。


「……っ――」


 そうするとマグマガントレットはあらぬ方向に火炎剣を振り上げ、また烈火の炎を迸らせる。奴はロージャンと戦っていた時から、俺を様子見している感じだった。その俺が視界から消え、直感に任せて一撃放ったのだろうか?


 心音を整えつつ、そのまま奴に近づいた。


 俺の狙いはマグマガントレットの能力、ステータスを奪い、奴を凌駕する。

 そのためにはマグマガントレットが身に着けている黒い甲冑が邪魔だ。


 甲冑に隙間はありそうなのか、先ずは身体を調べさせてもらおう。


「同じ狢の臭いがする、何者か?」


 接近すると、マグマガントレットが口を開く。

 だからと言ってそれに応える意味はない。


 しかし、どういう原理なのか、マグマガントレットは接近した俺の方を見詰めていた。


「この臭い、魔眼……いや、奴の子孫と言った所か」


 右に動けば奴の視線は右に移り。

 左に動けば左の方角を見る。


 本当に、どうやって居場所を特定しているのか判らないが――


「お前の目をごまかすのは無理なのか」


 ステルス化の能力は封印し、奴の前に姿を見せるとしよう。


「角持ち、それも再誕の証である一本角か」

「一つ聞きたい。そこまで流暢に話せるのなら答えられるだろ」


 そう言うと、マグマガントレットは黙り込む。


「なんで、フォウの国を襲っているんだ」

「……この殺戮は契約によるもの、私を時空のひずみから救いだした彼女への敬意だ」


 フガクやアッシマが言っていたことは本当だと言うのか。マグマガントレットはある一人の女性の手によってここに召喚され、その女性がフォウの国を滅亡に追い込んでいる。


 マリア――彼女と面会した時、印象に残ったのは二つのことだけ。


 彼女はなぜ、自分の宿敵とも呼べるマグマガントレットを利用しようとしたのか。

 どうしてフォウの国を、俺一人のために滅ぼそうと思ったのか。


 マグマガントレットの答えを貰っても、疑問は浮かぶ。


「逆に聞きたい、何故私達は殺し合わねばならない。お前は私の同朋になりえる」


 マグマガントレットは俺との戦いを拒む意思を示した。

 俺とやりあえば、どちらも無傷では済まないと言いたかったのだろうか。


「お前とやり合う理由は、お前に勝った後にわかることだ」


 そう言い、マグマガントレットに無手で構えると、奴も構えた。

 今まで無造作に振っていた火炎剣を、両手でもって、体勢も半身で腰を下ろしている。

 まるで日本のサムライを想起させるような、堂に入った構えだった。


「……」


 俺の勝機はただ一つ。

 マグマガントレットの肉体に触れ、能力を取り込んで、凌駕する。


 ただのそれだけだ。

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