第32話 お前しかいない

 マグマガントレットの様子見を終え、宿に戻るとフガクが部屋の入り口で待機していた。


「マグマガントレットの様子はどうだった?」

「何のことだ? 俺は飲み足りなかったから、ちょっと飲み直して来ただけだよ」

「お前がマグマガントレットの付近に来たことは、すでに報告されている」


 そう言えばあの三人はフガクの部下だったな。


「実際の戦闘に入る前に、姿だけでも確認しておきたかったんだよ」


 最もらしい理由を上げると、フガクは真剣な眼差しで俺を見ていた。


「俺はお前しかいないと思っている」

「聞かされたよ、フガクが俺を唯一の希望って吹聴してるってこと」

「過度な期待をうけるのは嫌だったか?」


 正直に言えば、嫌かもしれない。

 元々俺は目立つような真似は極力控えるようにしている、陰キャだ。


 前世の時は自分に自信が持てなかったというか、そういう生き方をしていたからな。隠匿性ばかりが顕著な社会になって来て、相手の顔も見ずに上手くコミュニケーション取っているような気になって、学校で誰とも喋らない孤独をゲームで埋めていた。


 ……だからだったかもしれない。


 学校でも独りだったフガクに何かと声を掛けていたのは。


 人間社会でも、人外の種族が輪に入るようになってから久しいものの、風当たりはきつい。俺がBランククラスからAランククラスに昇格した時、フガクは異質な雰囲気を放っていた。


 俺が声を掛ける前までは、陰湿ないじめも受けていたかもしれない。

 だからフガクにとって俺は救世主染みて見える節はあるんじゃないか?


「シレト、今俺がここに居るのはお前のおかげだ。俺は今の自分を誇らしく思うぞ」

「それはよかった」


 自分を誇らしく思う、か。

 俺はそんなフガクに羨望を覚えるし。

 俺達はお互いを高め合うにはいい関係だったということなのだろうか。


「予言しておく、マグマガントレットを討伐するのは、シレトだ」

「わかった、そのためにも、約束しないか」

「何だ?」

「先ず、これ以上お前は俺を煽てないでくれ」


 釘を刺すと、フガクは今まで饒舌だった口を閉じた。


「それともう一つ」

「何だ?」

「マグマガントレットとさしでやり合うことがあっても、決して死なないでくれ」

「望むところだ……それとは別に、シレトに教えておかなきゃいけないことがある」


 なんだろうか? 先ほどの高揚していた表情とは違い、フガクの表情はやや重い。


「今回、マグマガントレットがフォウに出現した理由は、マリアさんが原因だ」

「マリアが?」

「彼女が時空魔法を使って、マグマガントレットを召喚したらしいのだ」

「マリアから、その理由を聞いてないか?」

「彼女はお前の居場所を奪った奴らが許せなかったようだ」


 死神ジャックに二度目の拉致をされたあと、しばらく時間が経っていたみたいだけど、その間に色々とあったらしい。俺の首に懸賞金がかけられ、マリアがそれに失望して、マグマガントレットを召喚したと……?


「マリアは今どこにいるんだ」

「首都の城にて幽閉されている、今回の事態を引き起こした元凶としてな」


 なら一度、マリアに面会しに行ってみるか。

 そのくらいの猶予はある。


「フガク、明日、マリアと面会したい。お前の権力でどうにか実現できないか?」

「わかった、努力する。その代りマグマガントレットの討伐は任せたぞ」

「俺一人の力じゃたぶん無理だけど、お前達がいればきっと倒せるさ」


 するとフガクは活力に漲った笑顔を浮かべる。


「今も昔も、俺はシレトの頼もしい背中を見て来た。かれこれ三年はお前の背中を追い続けた俺だからこそわかるんだ、マグマガントレットを倒し、マリアを助け、世界を救うのは、お前しかいない」


 ありがとうフガク、そうまで言われて黙るような輩はSランククラスにはいやしないよ。俺はお前の言う通り、マグマガントレットを退け、マリアを助け、そして――復讐を果たすその日まで世界をはしる。

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