第13話 飛空挺強奪

「シレト、お前は出会った時から喰ってみたかったんだ。喜んでいいぞ――私がそう思うってことは、お前は将来大物になる。私が認めた男は、軒並みそうなっていったのだから」


 ライオネルは魔法で紡ぎ出した火炎剣を、空に投げて消すと。

 空いた右手で俺の首を鷲掴みにして。


「シレト、助かりたくば、今ここで私に忠誠を誓え」

「一つ聞いていいか」


 問うと、ライオネルの部下が口を開く。


「お頭、もしかしたらそいつの口上は能力の一種かも知れませんぜ!」

「だそうだ。残念ながら、お前の質問にはベッドの中以外で答えられそうにない」


 困った。

 俺はライオネルの評価を改め、見直し始めたところだったのに。


 今はライオネルと主導権争いする一環で睨みあっていた。


 彼女の切れ長の目がよりいっそう炯眼なものになっている。


 視線に込められた殺意は、死神ジャックのものとよく似ていた。


「ライオネル、空にあるあの飛空挺はお前のものか?」

「当然」

「俺にくれないか」


「あれを目にした途端、みんな口を揃えて言うんだ、飛空挺を俺にくれって。私はそれを言われるたびに、男連中の誤解を問い質して来た。違う違う、お前達は物の価値を見誤っている。あの飛空挺以上に、私の方が魅力的じゃないか」


 ライオネルはその言葉が恥辱だったのだろうか。

 言い終えると首を掴んでいた手を離し、今度は俺の股間を鷲掴みにして。


「いいもの、持ってるじゃないか」


 彼女がそう言うと、空賊連中から歓声があがるんだ。


「さぁ、お頭からお許しの合図が出たことだ、この船を手短に頂こうじゃないか!」


「……今のがお前らの侵略の合図なのか?」


「まあな、私にそういったつもりはなくても、大抵はおっぱじめる。シレト、まだまだあどけないながらも、強気で、誰にでもへだてない堂に入った態度には、以前からやきもきしていた。お前が喘ぐ所を見せて欲しい。という事で飛空挺に向かうぞ。周囲の目が気になるのなら、あの船に私の専用の部屋があるから大丈夫、防音も完璧だ」


 ライオネルは俺を右腕でがっしり抱き留め、風の魔法を使って飛翔してみせた。


 ……もっと早くに、彼女の正体について知っていれば。


「お頭は?」

「新しい男連れ込んだみたいよ」

「久しぶりに会うのに、いっつもそうだよね」


「一つ聞いてもいいか? この飛空挺を動かすのに、必要な人員はどれくらいだ?」


 ライオネルの私室から抜け、俺は操舵室に向かった。

 そこにはライオネルの子飼いの女達がいたんだ。


「……貴方が、お頭が新しく連れて来た男?」

「そうだよ、ライオネルから指示された、この船を急いで出せって」


 これは俺の嘘だ。

 けど、俺の嘘に素直に乗ってくれた方が、船の被害は抑えられる。


 男狂いのライオネルであれば、俺からもらった麻痺性の毒にやられている。ライオネルの目を盗み、麻痺性の毒を口の中に仕込んでいた。そしてそのまま彼女の契りに応じる振りをして、毒を移す。


 事前に液状化させた奴だから、気付こうにも防ぎきれなかったみたいだ。


「えっと、それ嘘だよね?」

「そうだとも――」


 嘆息を吐きつつ、操舵室の中に麻痺毒性のガスを充満させると。

 空賊達は腰を抜かしたかのように、その場でバタバタと倒れていく。


「動力源はよくわからないが、魔石でも使ってるのかな。恐らくそうだろう、それでこれが前進で、これが後進か。上昇のボタンがこれで、下降がこれと。思ったよりも簡単じゃないか」


「や、やめ、て、ふねがなく、なったら、おかしらにころされ」


「じゃあこの船から降りるか?」


 問うと、操舵席にいた女は首を横に振ろうとしていたが、麻痺状態のため振り切れてなかった。


「い、いや、だ」


「なら理解しろ、この船は俺に掌握された。お前達が恐れているライオネルも俺に屈服させられたんだ。もしこの中で俺に加勢する意思ある奴がいたら、今この場で言ってくれよ。それなら俺も殺さないでおく」


 それじゃあ、イングラム王国に向かって出発。


「おい、飛空挺が動いてるぞ! みんな急いで戻れ!」

「なんだって!? お頭! 俺達はまだ船にっ、お頭!」


 この飛空挺があれば、三ヶ月掛かる旅路を一気に短縮できるはずだ。

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