第11話 仲間となる〇ッチ

 俺は晴れて、元のシレトの姿に戻れた。

 これでようやく港町から船に乗れる。


 おまけに。


「美味い! ボルボって料理上手だったんだな」

「基本的にこの村の人間はそつなくこなせるからな、そこまで褒めなくてえぇ」


 人間としての味覚も取り戻せた。


 ペインタイガーの時の食事は、魂の糧みたいな感じだったからな。

 今一空腹感を満たせなかった。


 屋敷にある古びた食堂で、ボルボの手料理をカシードと一緒に舌鼓していると。


「疑問なんだが、お前一人で復讐は遂げられそうなのか? 相手は十数人いるんだろ?」


 カシードが覚えた疑問を口にする。


「……わからないんだ、俺達を罠に、暗殺請負人の死神ジャックに依頼した犯人は単独だったのか、それとも複数人いるのか。イングラム王国に戻って、先ずは真相を突き止めようと思う」


 それにおいても、仲間はいてくれた方がいいんだよな。

 そのために奴隷市の三人を引き込もうと思ったりもしたが、しょうがない。


「けど、この復讐は俺の個人的な問題だから、志を同じに出来る仲間なんていやしないよ」

「……シレト、おらから言えるのは一つだけ」


 ボルボは神妙な顔つきで、俺の手元を見ている。


「おめえ、ご託はいいから食事作法を覚えろ。食い方が意地汚ぇぞ」


 彼の言ったことは正論だったかもしれないが、この男に言われたくはないと思えた。


「無駄かも知れないが、お前にある人物を紹介しよう。カタルーシャでも名高い剣士なのだが、訳ありの人物らしい。先日も私の方で引き取ってくれないかと打診されたほどだ」


「名前は? もしかしたら俺も耳にしたことがあるかもしれない」


「ライオネルと言う」


 ライオネル……聞いたことがある気がする。あれはSランククラスの同期が話していたのを盗み聞きしたものだったが、当時はどうでもいい情報として処理していたような。


 でも、ここは王国からかなり離れた国だ。

 遠方にも名を轟かせる逸材なのは間違いないだろう。


「会うだけ会ってみようかな、どこに居るんだ?」

「では急いで支度しよう。確かもうそろそろだったはずだ」


 カシードはテーブルナプキンで口を拭い、席を立つ。

 俺も最後の一口を頬張り、素手で汚れた口を拭った。


「もうそろそろって、何かあるのか?」

「件の剣士は今、裁判にかけられている。王族の人間に不徳を働いた罪でな」

「本当に訳ありっぽいな」


 カシードは私室に戻り、筆を走らせて裁判を遅らせる旨を手紙に認めた。

 その手紙を飼っていた伝書鳥で送り、屋敷から馬車を走らせる。


 馬車馬は雪避けされた凍てついた大地に甲高い音を上げつつ、目的地に向かう。


「ボルボ、あんた御者まで出来るんだな」

「大したことねぇだ、ただ馬に鞭を入れて走らせる、それだけだ」


 意外と有能だぞこのおっさん。


 馬車を走らせること数時間後、伝書鳥が返信を持って帰って来る。


「ボルボ、行き先をイェブの港に変更してくれ。どうやらそこでライオネルを条件付きで引き渡してくれるらしい」


 返信に目を通したカシードは行き先を最寄りの港に変更するよう言いつけた。


「条件って?」


「大きなものが一つ、ライオネルを今後、カタルーシャの地に入れないこと。あとは細々として内容だが、概ねそんな所だ」


「一体何をしたんだライオネルさんは」


「王族のある方と不倫した……なぜ頭を抱える?」


 いや、だって……爆弾みたいな輩ってことじゃん?

 ここが日本だったら地雷だよ地雷。


 俺の苦悩とは他所に、ボルボは気合いを入れて馬に鞭を入れ。

 俺達を乗せた馬車は、港町に到着してしまう。


「ではなシレト、出来ればまた生きて会おう」

「向こうの大陸に行っても元気でな」


 夕方頃、港町に着くと、ある一隻の帆船の船員が俺の搭乗をうながす。

 船員の話によると、ライオネルはすでに乗船済みで。

 この島国で残されたのは、カシードとボルボの二人との別れだけだった。


「……それじゃ」

「待てシレト」


 二人には世話になったけど、俺の今後を考えると関わりは経った方がいい。

 だから極力無愛想に言った、俺のことは忘れてもらうためにも。


「もう他人だろ、気安く名前を呼ばないでくれ」

「馬鹿言え、オラとおめえはもう家族だ」


 っ……ボルボ、このおっさん、第一印象は悪かったけど。

 どうして、目に涙が込み上げてくるのだろうか。


「必ず帰って来い、そんでもって、お土産として向こうの酒を持ち帰って来てくれ。これはその駄賃だ。できれば銘柄にこだわるんじゃなく、辛口ながらも透き通った味わいの逸品を探して来てくれ」


「俺はもうカタルーシャに帰って来れないんだよ!」


「どうしてだ?」


「ライオネルを引き受ける交渉条件じゃないか、忘れたのかボルボ」


 とりあえずこれが二人との別れだったらしい。


 ライオネルを引き受けた条件からすると、早々帰って来れそうにないが。

 まぁ、今までありがとう。


 帆船は俺を乗せたあと出航し、大陸から吹き付ける風を背にして、イングラム王国へと続く海流に乗っていた。


「……ちょっといいか?」


 忙しくしている船員の一人に声を掛けると。


「何!? こっちは忙しいから手短に!」

「ライオネルはどこに?」

「ああ、奴なら船首に縛り付けられてるよ」


 は?

 耳を疑ったが、甲板を伝って船首に向かった。


「……貴方がライオネルさんで?」


 舳先へさきには紐で縛られている赤髪の女性の姿があった。

 名前からして男性かと思っていたが、ここには彼女しかいないしな。


「この声は、もしかして王子様か?」

「違います、俺はシレト」

「王子様じゃないか、今回は私の命を救ってくださったようで、ありがとう」


 違うと言っているのに。


「どうして、そこに縛り付けられてるんだ?」

「私は罪深き人間だ、どんな形にしろ自由はそうそう与えられないんだ」


 だからと言ってこんな処罰あるのか?

 まるでコントでも見ている感覚だった。


「一体何をやらかしたんだ?」


「聞いてるんじゃないのか? 王族を誘惑したらまんまと引っかかり、ベッドインしたあと、子供が出来たと嘘を言い、金品を脅し取ろうとしてしまったんだ。馬鹿だよな」


「まるで他人事のように言ってくれるなよ!」


 ライオネル、彼女は腕の立つ剣士だったかもしれないが。

 彼女は豪傑なのをいいことに、男と言う男を食い漁っている〇ッチだった。


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