第9話 人間に Ⅱ

 とにかく、スノウマンアイズを探す拠点はこの掘っ立て小屋にするとしよう。

 ここを中心に、彼のモンスターを捜索するものとする。


 運が良ければ領主であるカシードが戻って来るかもしれないし。


 こうして俺は雪山を駆け巡った。


 雪山に生息するモンスターとの遭遇戦をいくつかこなし。


 ペインタイガーの身体での戦闘にも、徐々に慣れて行った。


「モンスターの力を取り込む俺のチートは、健在か」


 俺のチート能力はモンスターに遭遇し、相手を撃破するか、それともモンスターの肌を直接触れると自然とそのモンスター特有の能力と、モンスターのステータスを吸収するんだ。


 モンスターの力を吸収すれば、自ずと頭に使い方が浮かんで来るんだ。


 雪山に生息していたモンスターとの戦闘で得た能力は主に二つ。

 突出した耐寒能力と、毒耐性能力だ。


 これなら氷点下の中だろうと身体が凍えることはそうないし。

 例えそこらへんに自生している木の皮や、毒キノコを食べても体調不良を起こさない。


 インスピレーションが降って来るように、得た能力を把握していると。


「――ッ」


 新たなモンスターから奇襲を受ける。


 背中を引き裂かれ、俺の血しぶきがあたりの雪を赤く染めるものの、背中に出来た傷はSランククラスへの昇格を決める切っ掛けとなった超回復によってみるみると修復される。


「でも痛いことは痛いから、要注意!!」


 反撃するようベアー種のモンスターに飛び掛かると、雪山にはモンスター達の断末魔が響き渡り。


 俺は雪山のモンスターから一目置かれるようになった。


 § § §


「……早く人間になりたい」


 今いる一帯に生息する伝説のモンスター、スノウマンアイズを追い求めてから早くも一ヶ月は経った。掘っ立て小屋を拠点として、来る日も来る日も雪山のモンスターを狩っていた。


 おそらくだけど、この地域にいるモンスターにはほとんど遭遇したと思う。モンスターの固有能力を得ると同時に、ステータスを加算していった俺はもはや雪山の王者と言っても過言じゃないほど強くなった気がする。


 日が暮れた頃、今日も掘っ立て小屋に帰り、薪に火をつけると。


「おい、あんたがシレトか?」


 小太りな謎の男性が掘っ立て小屋にやって来た。


「そうですが? あんたは?」


「おお、本当に喋るんだな。おらはカシード様に雇われているボルボっちゅうもんだけどよ、お前が最近ここら付近を荒らしていることをカシード様は杞憂しててな? どうかこの通りだからもうこれ以上山を荒らさないでくれねぇか?」


「……俺の目的はカシードから聞かされているのか?」


「ああ、スノウマンアイズを探しているらしいな」


 なら。


「交換条件と行こうか、あんた達がスノウマンアイズのもとに俺を案内してくれるのなら、大人しくこの山から身を引くよ」


 と言うと、小太りな男性は困惑していた。


「無茶苦茶言うな。スノウマンアイズはもう、いないものとされているぐらいなのにな」


 ……もう、いない?

 彼の言葉を聞いた俺はすくりと立ち上がり、問い詰めるよう距離を縮めた。


「こっち来ねぇでくれないか?」

「スノウマンアイズがもういないとされる真意を知りたい、どういう意味だ?」


「おらに言われても、おらが生まれた頃にはスノウマンアイズはおとぎ話の存在だったんだ」


「そのおとぎ話を教えてくれないか? どうせこの雪だ、今晩はここに泊っていくつもりなんだろ?」


 その晩、俺はカシードの遣いからスノウマンアイズにまつわるおとぎ話を聞いた。

 それはカタルーシャに古くから伝えられて来た、子守歌のような内容で。

 意識が微睡むなか、俺はスノウマンアイズについてある推測に辿り着くのだった。


 § § §


 翌朝、身体が何かに拘束されている感覚がした。

 拘束としてはゆるいのだが、離しても執拗に吸いついて来る。


 なんだろう? と思って目を開けると。


「ぐがが、おっかあ、きのうは、激しかっただな」


 カシードの遣いのもっさいおっさんから抱き枕にされていたんだ。

 身体に力を入れて、おっさんの抱擁から逃れようとしたのだが。


「く、意外と力強い、離せおっさん!」

「ぐへへ」

「じゃねーから! 起きろよ! 頼むから起き、んぉおおおおおおおお!!」


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