サイバーDIVE 深層心理侵入ゲーム

小鹿 ヒロ

第1話 サイバーDIVEのはじまり

 薄暗い部屋の中、私はパソコンの前でゲームに没頭していた。

「重大なERROR発生。アクセスログ解析開始…外部から深刻なプログラム改ざんを検出した。自我改変の危険アリ、強制ログアウトに移行する。タイムアウトまでのカウントダウンを開始」

「マスター、これ以上は危険です。」

「あと少しなんだ、あと少しで辿り着けるはずなのに…」

「警告、さらに別ルートのプログラム改ざんを検出しました。脱出ルート喪失、マスター…脱出は絶望的です。」

「そうか、また間に合わないのか…なあ頼みがある。」

「何でしょうか…マスター。」

「キミをスリープモードにする。そして、次に目覚めたらある人をサポートして欲しいんだ。」

「ワタシはマスターの為に生み出されました。命令には従います。」

「ありがとう、最後にこれだけは伝えるね。この先キミには大事な選択をする場面が訪れる。その時、決して自分を見失うな。自分の意思で決断して、行動するんだ。」

「すみません…ワタシにはマスターの仰る意味が分かりません。」

「大丈夫…いつか分かる時が来るよ。信じてる。」

「分かりました。今の会話は保存しておきます。」

「警告、システムの強制再起動を開始します。これまでに保存していない情報は全て失われます。早急にログアウトして下さい。繰り返します…」

「じゃあお別れだね。今までサポートしてくれてありがとう。」

「マスター…また会えますか?」

「キミが望むなら、きっと叶うよ。」

 その刹那、眩い光が僕らを包み込んだ。永遠の別れと再開の希望を願いながら、私は意識を失った。


SYSTEM REBOOT COMPLETE


WELCOME TO サイバーDIVE


「えっと、新しいイベントがもうすぐ始まるみたい。」

「本当だあ、新しいマップと装備も増えるんだね。」

 私は高校の入学祝いに買ってもらった、スマートフォンを片手にパソコンの前で友達の百合ちゃんと話し込んでいた。

「うぅ、右目が、右目が疼く。」

「オッドアイズ百合ちゃん。」

「その名は決して口にしてはならぬ。真名を口にした者は永遠の眠りが訪れるであろう…」

「えっと、続きの台詞は何だっけ?」

「もう!漆黒の堕天使が闇夜に口付け…だよ!」

「えっと、昨日借りたアンジェリックダークの最新刊…まだ全部読んでないけど、前半くらいは読んだよ。」

「あっ、前半を読んでくれたの?面白かった?」

「うん、面白かったよ。」

「面白いでしょ!それで!他には?」

「えっと、後は続きが気になるかな。書評サイト読んだけど、この後はね…」

「ピピー!ちょっと待って!ネタバレ注意報だよ!」

「あっ…ごめん」

「本の話題は終わりしよう。じゃないと、世にも恐ろしい事が…もう結末を知らない状態には戻れないんだからね。」

「ネタバレって怖いね。」

「そうだ、沙織ちゃんは周回クエスト終わりそう?」

「うん、今日のデイリーボーナス分は終わったからもう寝ようかな。」

「分かった、じゃあまた明日ね」

「じゃあおやすみ♪」

 時刻はもう23時を過ぎようとしていた。

 寝る前にスマートフォンの充電をして、パソコンの電源を切ろうとした時、通知が来た。

「何だろう…タイトルはサイバーDIVE?」

 アイチューブでチャンネル登録しているから、その通知だろう。

「ライブストリーミングかあ」

 誰の生放送だろう?

「見てみようかな」

 私はあまり考えず、通知を許可した。写し出されたのは何にも家具が無い薄暗い部屋だ。

 唯一何かが中央に置いてある。

「脚立だ…」

 変なの

 見るのを止めようと、停止ボタンをクリックしようとした時だった。

 暗がりから誰か現れて、脚立を登っている。カメラが上を向くと不思議な事に暗闇が広がるばかりで、天井が見えない。暗闇から一本のロープが垂れ下がっている。ちょうど人の頭がスッポリと収まる位の輪が先端にある。


嫌な予感がする

見たくない

だけど、何故か目を離せない


 画面の人物は俯きながら脚立を登り、ロープの輪を首に掛けた。ゆっくりと顔を上げてカメラの私と目が合う。ホラー映画とか怖い話は見たことがある。大抵は叫んだり、恐怖の表情がアップになって凄く怖い。


だけど目の前の人は違った。

笑顔なのだ

死ぬ寸前なのに


 そんな馬鹿な事ある?私には理解出来ない、異常な光景が目の前で繰り広げられている。

何か喋ってる

「沙織」

あれ?この声どこかで…

「マスター?」

 そこでライブストリーミングは中断された。

「このライブイベントはご利用になれません。」

 唐突に終わってしまった。

 不気味な余韻と静寂の中、不安な気持ちが募っていく。部屋の明かりをいつもより少し明るくして、お気に入りのウサギのパーカーを深く被ってベッドに入った。しばらく寝付けずに、考え事を始めた。

 マスターは私がプレイしていたオンラインゲームのギルドマスターで、小学生の頃から私に親切にしてくれた人だ。ゲームの攻略方法や強い装備の集め方だけでなく、学校生活やプラーベートな話も親身になって話を聞いてくれた。

 他の人達とは違い、私の進路や悩みについて、真剣に考えてくれるし、話をキチンと聞いてくれた事に感動して、親しみを感じている。以前のオフ会で会った時に、メッセージアプリの連絡先やメールアドレスも交換しているので、会う事は出来るが、頻繁に連絡を取り合うほどでは無い。

 その位の距離感で関係を維持している。そんなマスターに先ほどの映像の人物が似ているのだ。何か犯罪に巻き込まれているのかも知れないし、どうしよう。

 とにかく、明日考えることにしよう。早く朝にならないかな…


 次の日は早く目が覚めた。昨日の光景を忘れようと意識するほど、忘れられなくなる。

「今日は学校をお休みしようかな」

 私はママにメールで学校をお休みするお願いをした。昼頃にネットニュースをチェックしていたら、片隅にある記事が載っている事に気づいた。

「都内在住の男性が意識不明の重体…原因はネットゲームのやりすぎか?」

 よくあるゲーム叩きの記事かと思い、スルーしようとすると顔写真に目が止まった。

「これ、マスターだ」

 記事によると、サイバーDIVEと呼ばれるゲームへのリンク先をクリックすると、強い光の点滅や色調の激しい変化により、全身がけいれんして、意識不明となった、とある。

 本当かなあ?その日は1日中パソコンの前で過ごしていた。夜になると一通のメールが届いていた。

 新ワールド解放 サイバーDIVEへのご招待

「サイバーDIVEって…」

 昨日のライブストリーミングで見た内容が鮮明にフラッシュバックする。 

「どうしよう。」

少し躊躇するけど、私は参加ボタンをクリックする。


 サイバーDIVEへご参加して頂き、誠にありがとうございます。

このゲームの利用規約を一読して、ご了承頂ける場合は「同意する」ボタンをクリックして下さい。

1.本ゲームをプレイ中に発生した事象は全て自己責任となります。

2.本ゲームはブレインマウントディスプレイ(略称BMD)を使用します。このディスプレイはプレイヤーの脳に直接干渉して仮想現実世界を構築します。

3.BMD起動後はプレイヤーを一時的な睡眠状態に誘導します。周囲の環境に十分配慮してご利用下さい。

4.ご利用の前にバックアップ機能を有効にする事を推奨します。

5.本ゲームは正式リリース前のベータ版となります。万が一深刻なバグが発生した場合サポートデスクにバグの内容を送信して下さい。

6.ゲームプレイ最適化の為、ゲーム開始前に詳細設定タブから必要な設定にチェックを入れて下さい。

7.プレイヤーの精神状態によっては健康を害する可能性があるので十分にご注意下さい。

8.ご利用に際して基本プレイ無料となっていますが一部有害なコンテンツもあります。

以下長文

「利用規約読むの疲れちゃうね…おかしな事書いてあるし、どうしようかな。ちょっと休憩しよう。」

 私は一旦冷蔵庫のジュースを飲んで一息ついた。

 脳に干渉とか…危ないよね。怖そうだけど…気になる。どんなゲームなんだろう?

きっと普通のゲームじゃ無い、異常なゲームなんだろうな。なんでかな…多分命だって危険に晒されるゲームなのに…


覗いてみたい

狂った世界を


 ワタシは利用規約に同意して、命懸けのゲームに参加する事に決めた。


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サイバーDIVE スタート


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