3 初めてのカンスト

 その日から、俺の果てしない修行の日々が始まった。


 まずは、【鑑定?】である。


 手始めに、俺は自分自身を【鑑定?】してみることにした。



《エドガー・キュレベル:キュレベル子爵家四男。レベル:1、HP:4/4、MP:6/6。スキル:【不易不労】-、【鑑定】3。《善神の加護》》



 ……とりあえず、この世界がいわゆる「レベル制」「スキル制」であることはわかった。

 あと、上に三人も兄貴がいることもわかった。

 スキルにもレベルがあるってこともわかるな。

 っていうか、自分の名前を初めて知ったわ。


 だけど、


「ふぁんふぁ、ぅいんふいあ」(何か、見にくいな)


 情報を表示すればいいってもんじゃない。レイアウトとかもうちょいなんとかならないものか。


 と思って再度【鑑定】(晴れて?が取れたな)すると、



 エドガー・キュレベル(キュレベル子爵家四男)


 レベル 1

  HP 4/4

  MP 6/6


 スキル

  【不易不労】-

  【インスタント通訳】-

  【鑑定】3


 《善神の加護》

 


 やればできるじゃん!

 まあ、どっちの表示がいいかは場合によりけりだろうけどな。


 さて、自分のステータスを見ていろいろと思うところもあるが、どちらにせよ俺は赤ん坊である。

 この世界の言語とか常識とかはおいおい知っていけばいいとして、今できることと言えば。



【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】……


《エドガー・キュレベル:キュレベル子爵家四男。レベル:1、HP:4/4、MP:6/6。スキル:【不易不労】-、【鑑定】3。《善神の加護》》《エドガー・キュレベル:キュレベル子爵家四男。レベル:1、HP:4/4、MP:6/6。スキル:【不易不労】-、【鑑定】3。《善神の加護》》《エドガー・キュレベル:キュレベル子爵家四男。レベル:1、HP:4/4、MP:6/6。スキル:【不易不労】-、【鑑定】3。《善神の加護》》《エドガー・キュレベル:キュレベル子爵家四男。レベル:1、HP:4/4、MP:6/6。スキル:【不易不労】-、【鑑定】3。《善神の加護》》《エドガー・キュレベル:キュレベル子爵家四男。レベル:1、HP:4/4、MP:6/6。スキル:【不易不労】-、【鑑定】3。《善神の加護》》……



 ま、【鑑定】のレベル上げくらいだよなあ。




◇◆◇◆◇◆◇◆



 というわけで、生後数日間は、面倒を見てくれる母親の目を盗んではとにかく【鑑定】を繰り返した。


 おかげさまで、【鑑定】のレベルは生後4日にして9となり、どうやらカンストしたっぽい。


 ちなみに、【鑑定】レベル9で見た俺のステータスはこんな感じだ。

 重要なヘルプ情報も表示しておくぜ。


 エドガー・キュレベル(キュレベル子爵家四男・サンタマナ王国貴族)


 レベル 1

  HP 4/4 (HP:生命力を数値として抽象化したもの。現在値/最大値。数値は一般的なレベル1成人男性を10とした目安であり、HPが残っているのに死亡することやHPが0であるにもかかわらず死亡しないこともまれではあるが生じうる。最大値は怪我や病気、疲労によって一時的に減少することがある。)

  MP 6/6 (MP:魔力量を数値として抽象化したもの。現在値/最大値。数値は一般的なレベル1成人を10とした目安である。MPが0になると気絶する。)


 スキル

  ・神話級(神から授与される、神話から復元する等の困難な手段によって初めて獲得できる稀少極まりないスキル。)

   【不易不労】- すべての肉体的・精神的疲労から解放される。

   【インスタント通訳】- マルクェクトの主な言語を不十分ながら理解し、意思疎通することができる。話し言葉にのみ有効。有効期限:満三歳まで。念じることでON/OFF可。


  ・伝説級(たゆまぬ修練によってごくまれに獲得への道が開ける稀少スキル。)

   【鑑定】9(MAX) 磨き抜かれた鑑識眼を用いてこの世界の事物に含まれる情報を読み解くことができる。

   【データベース】-  過去に【鑑定】で得たことのある情報を参照できる。キーワードによる検索も可能。【鑑定】上限到達により取得。


 年齢 0歳(6ヶ月3日21時間03分19秒)


 係累

  父 アルフレッド・キュレベル 39歳 子爵・サンタマナ王国第三方面軍司令官・《城落とし》

  母 ジュリア 20歳 主婦・元冒険者(Aランク)・魔法使い・《炎獄の魔女》

  異母兄 ベルハルト 19歳 士爵・サンタマナ王国近衛騎士・《若き鷹》

      チェスター 17歳 冒険者(Bランク)・《二の矢いらず》

      デヴィッド 16歳 サンタマナ王国王立図書館司書補・《神童》


《善神の加護》(魂の輪廻を司る女神アトラゼネクの加護。魂の成長を促進する。全スキルの習得条件解放、スキルの習得・成長に小補正。)


 【データベース】は【鑑定】がカンストしたら習得していた。まだ【鑑定】した対象が自分と月しかないので微妙だが、将来的には非常に役に立ちそうなスキルだ。


 【インスタント通訳】は、たぶん、これまで異世界なのに周りの言うことが日本語に聞こえていたのはこれのせいだ。

 有効期限は3年。つまり、3歳までにこっちの言葉を覚えなさいってことだな。

 不要不急の場合はOFFにしておき、こっちの言葉に慣れていかないと後で困ることになりそうだ。


 《善神の加護》がわりとチートなスペックであったことも判明。

 女神様、たいしたものはあげられないって言ってなかったか?

 それとも、この程度は「たいしたもの」には入らないんだろうか。


 それから、地味に面白かったのが年齢だ。

 生まれたばかりの赤ん坊よりはちょっと大きいかな、と思っていたが、生後6ヶ月の時点で転生したっぽいな。


 ……これって、本来の赤ん坊の人格を上書きしたとかじゃないよな?

 まあ、あの女神様ならそうひどいことはしないだろう。

 発育の関係で6ヶ月経つまで前世の意識が目覚めなかったとか、そういうことだと思っておきたい。


 この他、キュレベル子爵家についての詳細や、家族の個人情報なども見ることができるが、めぼしい情報はなかったので割愛。


 しっかし、我が家族ながら、ちょっと優秀すぎやしないか?

 全員何か二つ名みたいなの持ってるし。

 母親――ジュリアも、バリバリの冒険者だったっぽいな。《炎獄の魔女》て。ぽけーっとした普段の様子からは信じられない二つ名だ。


 父親であるアルフレッドとは、まだ面識がない。

 軍人っぽいし、出征中なのかもしれない。

 そしてこの人もなんだかいかつい二つ名がついているな。

《城落とし》って、それならもう少し爵位がもらえててもよさそうなもんだけど。

 もっとも、サンタマナ王国? の恩賞事情なんて知らないのでそんなものなのかもしれない。


 それにしても、問題は、である。


 39歳で20歳の嫁(しかも後妻)がいるとか。


 まったくもってけしからん!

 現状、この父親とうまくやっていける気がしないね!

 前世の俺なんざ30にもなって恋人すらいなかったんだぞ!


 三人いる兄の方も、【鑑定】の結果からはなかなか優秀らしく見える。

 近衛騎士というからには、王族を守るようなエリート中のエリートなんだろうし、ネット小説の相場勘でいえば、17歳でBランク冒険者というのもたぶんすごいはずだ。司書補というと見習いっぽい感じだが、これも年齢と勤務先が王立図書館であることを考えたら、上の兄二人とは違って学者肌の逸材なのかもしれない。


 ちなみにうちの兄弟は、上から順にイニシャルがB、C、D、E(ベルハルト、チェスター、デヴィッド、エドガー)となっているので、ごっちゃになった時はイニシャルを見るといいよ! あ、オヤジがA|(アルフレッド)ね。


 え? なんでこの世界にアルファベットがあるのかって?

 それは俺じゃなくて、女神様に聞いてくれ。

 正確には、アルファベットによく似た別の文字だ。


 それはさておき、キュレベル子爵家は地方の小さな領地を持つ田舎貴族……のはずなんだが、親父殿を筆頭に、兄貴たちも各方面で大活躍っぽい感じなんだよな。

 その辺のことも、たぶんおいおいわかるんじゃないかな。


 とはいえ、俺としてはその辺のうちの事情についてはそこまで関心がない。

 今俺の関心の中心を占めているのは、そう。



 ス キ ル だ !



 しかし、屋内でお手軽にできる【鑑定】ははや三日でカンストしてしまった。

 まだろくにハイハイもできない赤ん坊の俺にできることなんてほとんどない。


 ここで転生もののネット小説なら、【鑑定】のMP消費を利用してMPを使い切り、MPの超回復を利用してMPの最大値をひたすら上げるということをやるものだが、この【鑑定】、なんとMPを消費しないのである。

 どうやら、スキルと言っても魔法ではなく、鑑識眼を鍛えることで対象の情報を見抜く、というような純粋な技術っぽいんだな。

 じゃあどうやってさっきみたいなステータスとして表示してるのか、というと、現状ではよくわからない。言えるのは、MPを使わない以上、魔法じゃないんだろうなってことくらいか。ちなみに表示言語は日本語である。 


 そんなわけで、今俺がいちばん手に入れたいと思っているのは、MPを消費する手段だ。

 要するに、簡単なものでいいから魔法を使いたい! のである。


 MPがある以上、この世界に魔法があるのは確実なはずだ。

 だが、この世界ではどのようにして魔法を習得するのだろうか?


 本で読む? 師につく? 魔法学園に通う? それとも生まれつきの才能?


 うーん、わからん。というより、それ以前に俺は魔法を見たことがない。まずはそこから始めてみるべきだろうな。



 ――ちょうど、身近に手本になりそうな人がいるのだから。

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