彼女が浮気したので復讐します

朝霧 紅魔

彼女が浮気したので復讐します

夕方、俺、朝川悠(あさかわゆう)は学校の補習が終わり、1人で帰路についていた。


「ん?」


俺は帰り道の途中にある、公園を何気なしに見るとそこには2つの人影があった。

それをよく見ると


「はぁ..先輩」


「みなみ..」


金髪で、耳にはピアスも開け、顔立ちは整っており背も高く、誰が見てもイケメンだ。と言えるほどの男と、俺の彼女、綾瀬美波(あやせみなみ)が今まさにキスをしようとしていたのだ。


(っ⁉︎)


そして、2人はそのままゆっくりと顔を近づけ、お互いの唇を重ねる。

10秒、20秒、いや、もっとだろうか。

無限とも言える時間だった。

その間、俺の彼女は顔を赤らめ、その男しか見えてないようだった。

しかし、人間の脳は怒りや悲しみが絶頂までくると、自然と冷静になっていく。

俺はその姿をスマホで撮り、気づかれないよう、早足で家に帰った。





「くそっ!」


俺は家に帰ると、真っ先に自室に入り、ベッドの上にダイブする。


「ふぅ..はぁ...くぅ..」


人生初の彼女、俺は本当にその子のことが好きだった。

しかし、それを裏切られ、俺はもう何もかもどうでもよくなったが、自然と涙は溢れてくる。

そんな時


ガチャ


と、俺の部屋が開けられる。


「あれ?ゆう?」


「あ、あかり..?」


部屋に入ってきたのは、黒く長い髪に、大きく美しい瞳、鼻筋はシュッとしていて、綺麗な赤色の唇、誰が見ても美人と呼べるだろう。そして、学校帰りなのか、その制服からは大きな胸が主張していた。

そんな見た目の上に頭も良く、人当たりも良いため、学校でもとても人気がある。

そんな完璧美少女は俺の幼馴染の坂川朱莉(さかがわあかり)だ。

家が隣で親同士も仲が良く、小さい頃から遊んだりしていたのだ。

それに、俺の初恋の相手でもある。

しかし俺と彼女は住む世界が違いすぎて、中学生くらいの時にその恋は封印した。


「どうかしたの?」


朱莉がベッドの上の俺に近づいて聞いてくる。


「な、なんでもない..」


俺はさっきあったことを誤魔化す。

だが、朱莉にそんなことは通用しなかった。


「そんなわけないでしょ、ほら、言ってみて?」


朱莉は優しい口調でそう言うと、ベッドに腰掛ける。


「け、けど..」


俺はまだ少し濁す。


「もう、涙もでちゃってるじゃん」


朱莉はその細い指で、俺の涙を拭ってくれる。


「あ、あかり...」


ついに俺はその朱莉の優しい口調に耐えきれなくなった。


「じつは...彼女に浮気された..」


「う、浮気⁉︎」


朱莉はすごく驚いているようだった。


「証拠はあるの?」


「ああ..あるよ..」


俺は朱莉に公園で撮った写真を見せる。


「うわ..ホントにキスしてる...しかも相手はあさのれんじゃん」


「あさのれん?」


俺は知らない人の名前が出てきたので、朱莉に聞く。


「浅野蓮(あさのれん)学校でもかなり有名な人よ、サッカー部のキャプテンでかなりモテてるみたい」


「そう..なのか」


「でもかなり女癖が悪いみたい、私もモーションかけられたことあるし」


「だ、大丈夫だったのか?」


朱莉は本当に可愛いので、今までも知らない人に声をかけられているのを、見たことがある。


「まあね、無視してたら私に興味なくなったみたい」


「そうか、それはよかった」


「それはそうと、ゆうは大丈夫なの?」


「え?なにがだ?」


「ほら、いきなり彼女に振られてさ、ゆうってばずっと好き好き言ってたじゃん」


俺はそのことがフラッシュバックし、またもや気持ちが沈む。


「はぁ..」


「もう、落ち込まないでよ...それで、ゆうは復讐がしたいと思わないの?」


「復讐?」


「うん、だってやられっぱなしなんて悔しいでしょ?」


まさかみんなのお手本のような朱莉から復讐という言葉を聞くとは思わなかった。

それくらい俺のことを怒ってくれているのだろうか。


「復讐か..」


思い返してみると確かに悔しい、俺と付き合っていたのに、別れもなしに他の男とキスをするなんて許せないことだ。


「どうするの?」


朱莉はその綺麗な顔を俺に近づけ、決断を迫ってくる。


「...したい..けど..」


「けど?」


「みなみの気持ちも知りたい」


一度彼女の意見も聞いておきたい。

もしかしたら勘違いかもしれないし、弱みを握られた、という可能性もある。


「ん、わかった」


そう言って、その日は朱莉は少し俺の部屋に残り、俺を慰めてくれた後、自分の家に帰って行った。





翌日、俺は自分の家の前に彼女を呼び出した。


「ゆう、おはよう!どうしたの?こんな朝早くに」


美波はいつもと変わらない様子でそう言った。


「昨日は何してたんだ?」


俺は早速昨日のことを聞いてみる。


「え?昨日?家にいたけど?」


美波は平然と言ってのける。

だが、あの写真に写ってるのは間違いなく彼女だ。

美波は特注で作ったピアスをしており、それと全く一緒なのだ。


「じゃあこれはなんだ?」


このままじゃなにも進まないので、俺は例の写真を見せる。


「えっ⁉︎」


すると、彼女は少し焦った素振りを見せるが、すぐに平然を装う。


「えっ..と..なに?この写真..」


だが、この写真に写っているのが彼女なのは明らかだった。

彼女は目を逸らし、一向に俺と目を合わせようとしない。


「やっぱりみなみだよな、これ」


「えっ、ち、違うよ!」


「このピアスは?特注の物だって言ってただろ?」


俺は否定する美波に更に追い討ちをかける。


「うっ...そ..だよ..」


「ん?なんだ?」


俺はもう一度聞き返す。


「そうだよ、私だよ!それは!」


美波はついに認める。


「なんでこんなことをしたんだ?」


もし彼女に非が無いなら、俺はそのことを怒ることはできないだろう。


「だ、だって...かっこいいから..」


「は?」


俺は一瞬美波の言っていることがわからなくなる。


「れんくんの方がかっこいいから!!!」


その瞬間、俺の中の彼女への想いが冷めていくのを感じ、同時に憎しみも感じられた。


「なっ...」

「なに言ってんのよ!!!」


俺が、なぜ俺と別れてからにしなかったのか、を聞こうとすると声が重なる。


「あんた、それでゆうがどれだけ傷ついたかわかってんの?」


声の方を見ると、そこには朱莉が立っていた。

どうやら、陰で俺たちの話を聞いていたらしい。


「えっ..あの..」


美波は突然、朱莉が入ってきたことに、戸惑っている様子だ。


「ど、どうしてここに朱莉ちゃんが?」


美波は突然入ってきた朱莉に困惑しているようだった。


「わかってんのか聞いてんの!」


朱莉は声を荒げながら言う。


「そ、それは...わかっ...てる..」


美波は少し黙り込んだ後、か細い声で言う。


「じゃあなんで浮気なんかしたの?」


朱莉は冷たい声で聞く。


「そ、それは...」


普段、みんなに優しく人当たりがよい朱莉が、1ミリも笑顔を見せず、美波はかなり不安になっているようだった。


「どうして?」


朱莉は更に急かす。


「ゆうより..好きになっちゃったから...」


「そんなことが...」

「そうか、わかった」


俺は朱莉の言葉を遮った。


「もう帰ってくれ」


俺はそう言って、家の中へ入っていく。


「え..ま、待ってよ、ゆう!」


俺が玄関のドアノブに手を掛けると、美波は俺を呼び止めてくる。


「はぁ..なんか用?」


「その..私たちの関係って..」


「今日で終わりだ、じゃあな」


俺はそう言い放つと、家の中に入り玄関の扉を閉める。




ピンポーン


そこから1時間程すると、家のインターホンが押される。


「はーい...」


俺は少し気が重いが、一応外に出る。


「大丈夫?」


そこには朱莉が立っていた。


「ああ、朱莉か」


「とりあえず入れてよ」


俺は朱莉を家に入れる。

ソファーに腰掛けた後、朱莉は


「どう?復讐したい?」


と、聞いてくる。

美波を見る限り、浮気した挙句、特に反省した様子はなかった。


「...したい、復讐したい..そして、みなみを見返してやりたい!」


俺は少し拳に力を込める。

俺としても、別れてから他の男と付き合うなら好きにすればいいが、あの時はまだ俺と付き合っていたはずだ。

その事は本当に許せない。


「ふふっ」


すると、朱莉は不敵に笑ってこう言った。


「じゃあ、私たち付き合おっか」


「...ん?」


俺は言われたことの意味が理解出来ず、聞き直す。


「だから、私と付き合お?」


朱莉は平然と言って退ける。


「な、なんでそうなるんだよ⁉︎」


俺は復讐をしたいと言ったはずだ。

それなのになぜ付き合うと言うことになるんだ。


「それでゆうを捨てた事を後悔させるの」


朱莉は至って冷静に言う。


「そ、そんなので上手くいくわけないだろ」


「いくよ、どうせあの男は他の女にも手を出す、あの子は今は仲がいいみたいだけど、すぐに捨てられるよ、そこで多分あの子はゆうによりを戻そうとか言ってくるに違いない、そこで盛大に振ってやったらいいのよ」


あの子とは美波の事だろう。

しかし、そんなに上手くいくとは思えない。

まず、美波がよりを戻そうとするかもわからないし、美波が浅野蓮に捨てられるのかもわからない。


「うーん...」


「まだ納得しない?」


「ああ..」


流石にそれだけじゃ上手くいくとは、到底思えない。


「まあ他には、私がみなみは浮気する奴って言う事を広めておくよ」


「なるほど」


確かに知名度がある朱莉が広めると、上手くいきそうだ。

しかし


「じゃあそれだけで良くないか?」


そう、別に俺たちが付き合わなくても、その方法なら上手くいきそうだ。


「え⁉︎..えぇっと..ね、念のためだよ!!更に追い討ちをかけないといけないし!」


朱莉は少し焦ったように言う。


「そうか...」


朱莉が言うならそうした方がいいのだろうが。




翌朝、俺たちは一緒に登校することにした。


「ふふ、ゆう!」


朱莉は俺の腕に抱きつき、本当に付き合っているみたいだ。


「お、おい、あれって..」


学校の近くに来ると、周りからさまざまな声が聞こえる。


「は?誰だよあいつ」


「俺たちの朱莉ちゃんを...」


流石は学校でトップクラスの人気を誇る朱莉だ。その人気は絶大なものだった。


「あれ?朱莉ちゃん、誰?その人?」


俺たちがそのまま学校内に入ろうとすると、後ろからそんな声がかけられる。


振り向くと、そこには赤い髪が肩の辺りで整えられて、その容姿も非常に整っており、朱莉と同等くらいの美少女が立っていた。


「知り合い?」


俺は朱莉にこっそり尋ねる。


「うん」


朱莉はそのまま、その子の方を向く。


「おはよう!なぎさちゃん!この人は私の彼氏だよ!」


「えぇ⁉︎朱莉ちゃん彼氏できたんだ!おめでとう!」


そのなぎさと呼ばれた子は驚いた様な声を出して、祝ってくれる。


「うん!ありがとう!」


「あ、紹介するね、この子は鈴沢渚(すずさわなぎさ)私と同じクラスの友達だよ」


「えっと..よろしく」


俺は一応最低限の挨拶はする。


「うん、で、こっちが朝川悠、私の彼氏だよ!」


朱莉は俺のことを紹介してくれる。


「よろしくね!朝川くん!」


俺たちはそう言って、お互いに教室に向かった。


「おいゆう、なんでお前朱莉ちゃんと付き合ってんだよ?」


クラスに入ると、俺の友人の坂川湊(さかがわみなと)が声をかけてくる。

朝付き合ったことを公表したのに、もう広まっているようだ。


「なんでって...」


そういえば、付き合った理由はなんて言えばいいのだろうか。


「おい、どうしてだよ?」


他にも何人かから問い詰められる。

みんな高嶺の花の朱莉と俺なんかが付き合って、不満が溜まっているのだろう。


「えっと...幼馴染だったんだよ、それで仲良くてな」


俺は幼馴染ということだけ、みんなに言うことにした。


「くぅ..俺も美少女の幼馴染が欲しかった..」


「ずるい!ずるすぎる!」


など、俺に対する妬みなどがたくさんあった..

だが、これも全て美波への復讐の為だ。

今はまだバレる訳にはいかない。


俺はふと、美波の座っている席を見る。

しかし、彼女は全く興味を示していない様子でクラスの友達と談笑している。


(こんなので本当に上手くいくのか?)


俺は少し心配になってきた。




「おーい、ゆう!お昼一緒に食べよ!」


昼休みになると朱莉がお昼を誘いに、俺の教室まで来てくれる。


「ああ」


俺が朱莉の方へ向かっていく途中


「ちっ」


周りからは恨み、妬みの声が聞こえる。

それくらい朱莉は人気なのだ。

しかし、美波はそこまで気にしている様子は無く、俺と朱莉の姿を横目で見ているだけだった。


「さ!行こ?」


朱莉はそんなことを気にしている様子は無く、俺の腕を引いて、足早に食堂へ向かった。


「なあ、朱莉、俺あんまり上手くいってるとは思えないんだけど?」


俺は思っていたことを朱莉に言う。


「うーん、確かに、でも大丈夫だって!」


朱莉はまるでどうでもいいかの様に言う。


「そう..なのかなぁ」


「うん!とりあえず食べよう?」


「ああ...」


俺たちは買ったパンの袋を開ける。


「はい、あーん」


朱莉はそう言って持っているパンを俺の方へ向けてくる。


「え⁉︎なにしてんだ朱莉⁉︎」


「もぉ、恋人の振りしないとだめじゃん」


朱莉はそう言って差し出してくる。


「えぇ..そうかぁ..」


いくら恋人の振りとは言え、こんなに可愛い子にあーんされるのは正直かなり恥ずかしい。


「あ、あーん!」


俺は朱莉に差し出されたパンを一口貰う。


(ああ..恥ずかしい)


「じゃ、じゃあこっちも」


俺はそう言って、自分のパンを朱莉に向ける。


「えぇ⁉︎私も⁉︎」


朱莉は少し焦った様に言う。


「そりゃそうだろ、恋人同士だし」


「そ、そっか..そうだよね...恋人だもんね..うん」


朱莉は頬を赤くしながら、少し深呼吸して


「じゃ、じゃあ、いただきます!」


と言って、朱莉は俺のパンにかじりつく。


「うぅ..恥ずかしいよぉ...」


朱莉は顔を真っ赤にして、俺より恥ずかしそうだ。




「じゃあ、明日の作戦会議をするわよ!」


家に帰った俺たちは、明日の為に作戦を練るようだ。


「今日はなにも進んで無くないか?」


「うっ...やっぱりあの手しかないか..」


「あの手?」


そんな秘策があるなら初めからして欲しい。


「でもなぁ、それだとゆうがモテちゃう..」


朱莉はかなり悩んでいる様だった。


「頼む、やってくれ」


俺は全力でお願いする。


「俺の恋を潰した上に弄んだんだ、復讐がしたい」


「うーん、わかった、じゃあ髪を切るからじっとしててね」


「ああ..ん?なんで髪?」


復讐と髪なんて関係ない様に思うが


「まずゆうをかっこよくしないとね!どうせあの面食い女のことだし、ちょっとゆうがかっこよくなったら、またゆうのところに来るよ」


「そ、そうか?」


「うん!そうだよ、まあゆうは元々かっこいいけど..」


最後の方はよく聞こえなかったが、朱莉が言うならいけるのかもしれない。


「じゃ、切ってくね」


そう言って、朱莉は俺の髪を切ってくれる。


「お痒いところはありませんか〜?」


「...」


「あれ?ゆう?」


「...」


俺は今、自分との戦いをしている。

なぜかというと、朱莉が俺の髪を切っている最中、朱莉のその大きな胸が、俺の後頭部に当たっているのだ。


「あの、朱莉さん..」


「ん?なぁに?」


朱莉は更に近づいてくる。

その度に朱莉の花のような匂いが、俺の鼻口をくすぐる。


「いや、その、近いような..」


「えー?だって私たち恋人同士じゃん!」


朱莉は更に近づいてくる。


「そ、それは仮だろ、家ではしなくても..」


「家でも練習しないとボロがでるかもかじゃん」


「そ、そうかなぁ..」


「うん、だから家でも恋人ね?」


「..わかった」





「終わったよ!」


俺は鏡を見る。


「おお」


俺は思わず声を漏らしてしまった。

そこには、前の俺とは別人と言ってもいいほどの好青年がいた。


「どう?気に入った?」


朱莉は得意げに言い、感想を聞いてくる。


「ああ、すごいよ」


髪型を変えたくらいでここまで変わるのか、と思うほどに俺は前よりかっこよくなったと思う。


「ふふ、よかった、本当にかっこいいよ、ゆう!」


「ありがとな、朱莉」




「おいおい、なんかいつもと雰囲気違うくねぇか?」


翌日、俺が教室に入ると真っ先に湊が俺に駆け寄ってくる。


「よう、みなと」


「えぇ、朝川くん?どうしちゃったの?」


クラスの何人かの女子も俺の方へ来る。


「実はちょっとイメチェンしようと思ってな」


「へぇーいい感じだね!」


「くぅ、これだから女ができた男は..」


湊からは僻みの声が聞こえたが、女子からはそこそこいい反応を貰えた気がする。

そして、俺は横目で美波の方を見る。

(あれ?)

そこを見て、俺は少し疑問を持つ。

彼女はいつも、10人くらいの女子メンバーと一緒にいるのに、今は1人だ。

おそらく、朱莉が上手いこと変な噂をばら撒いたのだろう。

そして、美波とはちらっと目が合ったが、すぐに逸されてしまった。




休み時間、俺がトイレから教室に戻っていると、俺に声をかけられる。


「ゆ、ゆう!」


声のした方を見ると、そこにはなんと美波が立っていた。


「どうかした?綾瀬さん」


「っ⁉︎..ええっと、久しぶりだね、元気してた?」


美波は少し戸惑いを見せた後、笑顔を浮かべて聞いてくる。


「...まあ、な」


こちらとしては彼女に浮気されていたのに元気なわけがない、しかもその原因は美波なのだ。


「そ..か、よかった..」


その後、彼女は何かを言う訳でもなく、黙ってしまう。


「..じゃあな」


俺は少し気まずくなってきたのでその場から立ち去ろうとする。


「ま、まって!」


すると、美波は俺を呼び止める。


「..どうかしたか?」


「そ、その..私たちって..よりを戻せないかな..?」


「っ⁉︎」


いくらなんでも早すぎる。

まだ浮気して2日しか経っていない。


「あ、あの..私、ゆうを失って気づいたの!私にはゆうしかいないんだって」


「...」


「やっぱり、だめ..かな?」


「..わかった、また付き合おうか」


俺がそう言うと、美波は驚いた顔をする。


「い、いいの?」


「ああ、俺だってみなみの事は好きだし」


「う、嬉しい、ありがとうゆう!もう絶対浮気なんてしないから!」


「ああ、よろしくな」


「うん!..ところでさ」


「ん?」


美波は言いづらそうにする。


「朱莉ちゃんと付き合ってるんでしょ?」


「あーまあな」


「別れてくれないかな?朱莉ちゃんと」


「わかった、今から別れるよ」


そう言って、俺は朱莉の教室へ向かう。


「あ、ありがとう!じゃ、また後で」




放課後、俺と美波は揃って下校していた。


「ゆ、ゆう、どっか寄らない?」


「悪い、今日は家で用事があるんだ」


「そ、そっか、じゃあまた明日」


「ああ」


俺はそのまま、1人帰路に着いた。




家に帰ると


「おかえり、ゆう」


「おう、ただいま」


朱莉が俺のことを迎えてくれた。


「ちゃんと付き合えたんだね」


「まあな、まさか2日しか経っていないのに言われるとは思っていなかったけど」


「あの日以来先輩とは会ってないみたいだよ、多分その日限りの女だったんでしょ」


朱莉は苦笑気味に言う。


「なるほどな、だから俺の所にきたんだな」


「うん、それで、どうしよっか?」


朱莉はいたずらっぽく笑う。

そんな姿も朱莉は可愛く見える。


「そんなの決まってるだろ」


俺はニヤリと笑いながらそう言った。




時間は一気に飛び、俺と美波がもう一度付き合ってから1ヶ月が経った。


「ゆう!」


彼女は俺の腕に抱きつき、俺の名前を呼ぶ。

俺たちは前に付き合っていた以上に仲が良くなった

と、周りからは見えるだろう。


「今日は俺の家に来ないか?」


俺がそう言うと、美波は少し顔を赤くしながら


「え..うん、行く...」




「さあ、入ってくれ」


「うん、お邪魔します」


「ちょっと待っていてくれ」


俺は美波に自分の部屋にいるように言い、お茶を用意する。


「ほい、お茶持ってきたぞ」


「ありがと、ゆう」


美波は少し緊張しているのか、表情が固い。


「ゆうの部屋、綺麗に整えられてるね」


美波は俺の部屋を眺めながら言う。


「まあな」


俺たちが他愛もない会話をしていると


ピンポーン!


と、インターホンが押される。


「ちょっと出てくるよ」


「あ、うん」




俺は立ち上がり、家の扉を開ける。


「さ、入ってくれ」


「うん、お邪魔するね」




「ただいま」


俺は部屋の扉を開けながらそう言う。


「おかえり!..って、朱莉ちゃん..?」


美波は俺の隣に立っている朱莉の姿を見て、驚いている。


「こんにちは、みなみちゃん」


「こ、こんにちは..なんで朱莉ちゃんが?」


俺たちはそんな美波を無視して、ベッドへ向かう。


「ほら、ゆうこっちに..」


朱莉は頬を赤く染め、トロンとした目で俺を誘ってくる。


「ああ..」


俺もベッドに行き、朱莉を押し倒す。


「朱莉..」


「ゆう..」


そのまま、俺たちはお互い顔を少しずつ近づける。


「ちょ、なにやってんの!!」


美波は俺たちの事を唖然と見た後、我に返ったのか、大声で怒鳴る。


「みなみちゃん、うるさいよ」


朱莉が少しにやけながら美波を注意する。


「うるさいって..朱莉ちゃん!やめてよ!私のゆうだよ!」


美波は俺たちの方へ近づきながら、朱莉を退けようとする。


「私のゆう?」


「じゃあなんで浮気なんてしたの?」


朱莉は冷たい声色でそう問いかける。


「今はそんなこと関係ないでしょ!」


「関係あるわ、そのせいでゆうがどれだけ傷ついたか..あんたにわかるの?」


朱莉は口調を強めながら言う。


「そ、そんなの..もう昔の事でしょ!さっさと離れて!」


美波も口調を強めながら、朱莉を俺と離そうとする。


「やめろ!」


「ゆ、ゆう...?」


「朱莉..」


俺は美波の手を払い、朱莉の赤く綺麗な唇に自分の唇を重ねる。


「んぅ..はぁ...ゆう..」


朱莉はそのまま俺を抱きしめる。


「ああ..そんな...ゆう、嘘だよね?やめてよ..やめてよ!」


美波は大声で叫んでいる。


「朱莉、好きだ..」


俺も朱莉の事を強く抱きしめる。


「私もゆうのこと、大好き」


そして、俺たちは再び、唇を交わす。


「ゆう..ひどいよ..」


美波は大粒の涙をこぼしながら、その場に座り込む。


「ひどいのはアンタでしょ?」


朱莉は美波に更に追い討ちをかける。


「うぅ..そんな..あぁ..」




「ゆう、許して..謝るから..」


ガチャ


俺はドアを閉めて中に戻る。


「はぁ、ようやく帰ったか」


あの後、俺たちは美波を追い払い、今ようやく帰った所だ。


「はあー、なんかスッキリしたけど、少し悪い事をしたなぁ」


された事を返しただけだが、少し罪悪感が残る。


「いいじゃない、あんな奴..それよりゆう」


朱莉はにやりと笑いながら、俺に近づいてくる。


「なんだ?」


「私のファーストキス..奪ったんだから責任取ってよね!」


朱莉は少し赤くなりながらそんな事を言う。


「...いいのか?俺で?」


「うん、もちろんだよ!私..ゆうが好きだから!」


朱莉は笑顔でそう言う。


「朱莉..好きだ」


俺は長年封印してきた恋が、まさか叶うなんて思っていなく、思わず朱莉を抱きしめる。


「ふふ、さっき聞いたよ」


朱莉は甘い声で囁くように言う。


「大好きだよ..ゆう..」


俺の胸の中にいる彼女が本当に愛おしいと感じた。

俺はこの幸せを失わないよう、しっかりと抱きしめた。

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