第33話 バトルド・コロッセウムの控え室だよ

 さて、相変わらず私は控え室で足をブラブラさせつつ次の試合が終わるのを待っている。

 

「巨漢と小さい剣士の対戦だっけ。アンマッチだなぁ……」

 

 ワァーッ! と、控え室にまで観客の声が聞こえてきた。どうやら決着したようだ。それからしばらしくして、ギィっと控え室の扉を開けたのは小柄な全身鎧フルプレートの剣士の方だった。


「へぇ。君が勝ったんだね。私はてっきり大きい方が勝つかと思ってたよ」


「……」


 小柄な剣士は相変わらずの寡黙かもくさで控え室、私の対面の席に座る。


「……」


「……」


「……ラナテュール選手殿」


「なに?」


「次の試合、負けてはくれまいか」


 小柄な剣士はそう言うと、全身鎧フルプレートの顔部分の鎧を脱いだ。束ねていたのであろう長いサファイアブルーの髪がパサリと肩に落ちる。

 

「……驚いた。女の子だったのか、君」


「フッ。私の顔を見て驚くのがまずソコだとは。やはりあなたはこのワイハー島の外から来た方のようだな」


「……?」


 私が首を傾げると、その女の子は薄く微笑んだ。


「私はこのワイハー島で指名手配を受けている身なのだよ……逆賊としてね」


「逆賊? なにかしたの?」


「いいや私はなにも。なにかしてきたのは……この王国の方だ」


 女の子はグッと拳を握りしめていた。どうやらよっぽどのことがあったらしい。


「私はこの王国の王女だったのだが、しかし謀略によって父殺しの汚名を着せられてしまった。それもいまの王であり私の実の叔父によってだ」


「へぇ、大変だね」


「しかし幸いにも私のことを信じてくれる仲間たちが数十人いる。私は彼らとともにこの王国へと反旗をひるがえすつもりなんだ。だがしかし、そのための資金が足りない状況で」


「なるほど。それでこのバトルド・コロッセウムに参加したんだね? 賞金を目当てにして」


「その通り」


 自らを王女だと名乗るその女の子は、私の前に膝を着くと頭を下げてくる。


「だからどうか、次の試合を棄権していただきたい! この王国の命運が、私の両肩に掛かっているのだ!」


「それはできない。ごめんね?」


 私は即答する。まあ、決まりきったことだ。


「私には服を買ってあげなきゃいけない子供たちがいるから。王国の命運みたいに重いものではないけどさ、あの子たちのことは私が責任を持って面倒を見なくちゃいけないんだ」


 だっていちおう私の国民だしね。組織の長は配下のことを思って行動しなきゃいけないって、エルフの里時代に前里長も言っていたし。


「……そうか。それは悪い申し出をした。あなたにはあなたの守るべきものがあるというわけだ……。承知した。それでは正々堂々と戦うことにしよう、ラナテュール選手殿」


「うん。よろしくね」


 手を差し出されたのでその手を取って、握手。彼女はそれから再び顔を鎧で覆うと、寡黙に戻った。


「エントリーナンバー102番のガルディア様、エントリーナンバー398番のラナテュール様、コロシアムにお越しください」


 それからすぐスタッフから呼び出され、私たちは再び観客の前へと出る。熱狂は冷めやらず、むしろ会場の盛り上がりは最高潮に達していた。


「──さあ、今回のバトルド・コロッセウムもいよいよ佳境、これが決勝戦です! まずはドゥチャラカ選手を下したラナテュール選手! 変幻自在のムチを使い、無傷で準決勝を突破しました! 

 そしてそれに対するはガルディア選手! 準決勝ではロロローフ選手の猛攻をいっさい寄せ付けず、素早く美しい剣技で観客を魅了しました! こちらも無傷での勝ち上がりです!

 もはやどちらが勝ってもおかしくない試合になるでしょう。観客席のボルテージもMAX、実況の私もエキサイティングしております! それでは両選手、準備はよろしいでしょうかー!」


 ガルディアと紹介のあった全身鎧フルプレートの彼女が剣を抜き、構える。

 

 ああ、私もいちおう構えとかしておいた方がいいのかな? よく分からないけど。構える。


「──バトルド・コロッセウム最終試合決勝戦、開始ぃー--!」


 実況の声とともに、ガルディアが地面を蹴った。

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